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六月に書いた短編
未来
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履修登録。
前期の講義、何を取るか登録するために、僕たちは大学へと来ていた。といっても僕は四年生だし、そもそも単位も足りているので、何も取らなくていいのだけど。
「リヒト、これ取ろうよ」
「もう終わってる」
「じゃ、こっち」
「ほとんど終わってるってば」
一年と二年で大体は取ってある。今さらユーリが専門で取る講義ならなおさら。
「えー。あ、じゃ、これは?」
「これは……」
ユーリが示してきたのは、一年生の講義だ。学科共通の講義ではあるが、必修ではないため取っていない。というか、面白くなさそうだから敢えて取らなかった講義だ。
「取ってない、けど」
「じゃ、一緒に取ろっか」
一応聞いてはくれるけど、こういう時ユーリが僕の意思を尊重してくれることはほぼほぼない。だから仕方なしにでも「……いいよ」と答えるしか選択肢はない。
「はぁ……。周り一年生ばっかなのに四年がいるっておかしいだろ」
「リヒトは可愛いから大丈夫だよ」
「身長低くて悪かったな」
『登録』を押して履修登録を終える。
「でも前世より伸びたでしょ」
「そうかな」
「うん」
ユーリが僕の鞄も持って、教室を出る。僕も低い方ではないと思うのだけど、ユーリが一八五センチあるから、隣に立つとどうしても低く見えがちだ。
「前はさ」
肩を引き寄せられ、僕はユーリと身体を密着させる形になってしまう。文句のひとつでも言おうと顔を上げると、掠めるように口を塞がれ、ユーリが意地悪な顔で笑った。
「キスするのに、もっと屈まないといけなかった。リヒトももっと背伸びしてたでしょ」
「それ、は……っ」
言われて確かに、そうだった気もする、ような気が、する、うん。大体はボクが階段の上側とか、二人で座った時とか、それほど差は感じなかったけれど、どうしても背伸びをしないといけない時は爪先立ちをしていた。
魔法で体を浮かせば手っ取り早いのに、ユーリに触れられると、こっちも力が抑え込まれて魔法が使えなくなる。だからガラでもなく、仕方なしに、ユーリの首に腕を回して背伸びをしていたのだ。
「お前がデカいんだよ」
「必死に背伸びしてくれるの可愛かったなぁ。まぁ、今も」
「うわっ」
手を引かれて、廊下の壁際に追いやられる。逃げられないように、ユーリが両手を僕の横につき、足の間に右足をねじ込んできた。
「背伸びしないとちょっと届かないけどね」
「おい、ここ大学……」
「履修登録期間だし、誰も来ないよ」
少し屈んだユーリが、僕の耳元に唇を寄せる。かかる息が熱くて、こっちの体温もつられて上がっていく。
「俺は見られてもいいよ?」
「嫌だ、って」
「ふーん」
「ひあっ……」
耳を軽く噛まれ、身体が嘘のように跳ねる。そのまま身体の中心にこもる熱を右足で軽く押され、僕は「んんんっ」とユーリの服をひと際強く握りしめた。
じわ、とジャージに薄く染みが出来たのが恥ずかしくて、僕は顔を隠すようにユーリの胸元に顔を埋めた。
「軽くイッちゃったね。そこ、トイレあるよ? ラクになりたくない?」
「……大学は、嫌だ」
それは本音だ。第一、大学に来てまでそんなことをしたくはない。
「じゃ、帰ろっか」
「ん……」
本当はこの熱をどうにかしてほしいのも本音だ。
だからそれをぶつけるように、少しだけ背伸びをして、こちらから口を重ねてやった。もちろんすぐに離したけれど。
「……ヤバ。俺のが家まで保たないかも」
ユーリの目に欲が潜むのに見ないフリをした。それから離れて、いつもユーリがするように意地悪く笑ってやる。
「じゃ、お互い様だな」
「自覚して煽ってるんだから、今日は覚悟出来てるんだよね?」
「そっちこそ先にバテるなよ」
「へぇ。誰に言ってんの」
口ではそう言いつつも、絡める左手はいつもみたいに優しい。だから僕も、手だけは素直に絡めて、指先で甘えるようにユーリの手の甲を撫でた。
「……甘え下手だなぁ」
笑うユーリが愛しくて、少しだけユーリのほうに首を傾ける。このまま何もなく、卒業して就職して……って、僕はどこに就職するつもりなんだろう。
急激に冷えてきた頭に、無意識に歩みが止まる。
「リヒト?」
「え……? あ、ううん、なんでもない。ごめん」
「……今すぐに話してとは言わないからさ。思ってることあれば、言えばいいから」
「うん……」
また二人で歩き出す。
いつもの帰り道は、桜並木へとその姿を変えていた。
前期の講義、何を取るか登録するために、僕たちは大学へと来ていた。といっても僕は四年生だし、そもそも単位も足りているので、何も取らなくていいのだけど。
「リヒト、これ取ろうよ」
「もう終わってる」
「じゃ、こっち」
「ほとんど終わってるってば」
一年と二年で大体は取ってある。今さらユーリが専門で取る講義ならなおさら。
「えー。あ、じゃ、これは?」
「これは……」
ユーリが示してきたのは、一年生の講義だ。学科共通の講義ではあるが、必修ではないため取っていない。というか、面白くなさそうだから敢えて取らなかった講義だ。
「取ってない、けど」
「じゃ、一緒に取ろっか」
一応聞いてはくれるけど、こういう時ユーリが僕の意思を尊重してくれることはほぼほぼない。だから仕方なしにでも「……いいよ」と答えるしか選択肢はない。
「はぁ……。周り一年生ばっかなのに四年がいるっておかしいだろ」
「リヒトは可愛いから大丈夫だよ」
「身長低くて悪かったな」
『登録』を押して履修登録を終える。
「でも前世より伸びたでしょ」
「そうかな」
「うん」
ユーリが僕の鞄も持って、教室を出る。僕も低い方ではないと思うのだけど、ユーリが一八五センチあるから、隣に立つとどうしても低く見えがちだ。
「前はさ」
肩を引き寄せられ、僕はユーリと身体を密着させる形になってしまう。文句のひとつでも言おうと顔を上げると、掠めるように口を塞がれ、ユーリが意地悪な顔で笑った。
「キスするのに、もっと屈まないといけなかった。リヒトももっと背伸びしてたでしょ」
「それ、は……っ」
言われて確かに、そうだった気もする、ような気が、する、うん。大体はボクが階段の上側とか、二人で座った時とか、それほど差は感じなかったけれど、どうしても背伸びをしないといけない時は爪先立ちをしていた。
魔法で体を浮かせば手っ取り早いのに、ユーリに触れられると、こっちも力が抑え込まれて魔法が使えなくなる。だからガラでもなく、仕方なしに、ユーリの首に腕を回して背伸びをしていたのだ。
「お前がデカいんだよ」
「必死に背伸びしてくれるの可愛かったなぁ。まぁ、今も」
「うわっ」
手を引かれて、廊下の壁際に追いやられる。逃げられないように、ユーリが両手を僕の横につき、足の間に右足をねじ込んできた。
「背伸びしないとちょっと届かないけどね」
「おい、ここ大学……」
「履修登録期間だし、誰も来ないよ」
少し屈んだユーリが、僕の耳元に唇を寄せる。かかる息が熱くて、こっちの体温もつられて上がっていく。
「俺は見られてもいいよ?」
「嫌だ、って」
「ふーん」
「ひあっ……」
耳を軽く噛まれ、身体が嘘のように跳ねる。そのまま身体の中心にこもる熱を右足で軽く押され、僕は「んんんっ」とユーリの服をひと際強く握りしめた。
じわ、とジャージに薄く染みが出来たのが恥ずかしくて、僕は顔を隠すようにユーリの胸元に顔を埋めた。
「軽くイッちゃったね。そこ、トイレあるよ? ラクになりたくない?」
「……大学は、嫌だ」
それは本音だ。第一、大学に来てまでそんなことをしたくはない。
「じゃ、帰ろっか」
「ん……」
本当はこの熱をどうにかしてほしいのも本音だ。
だからそれをぶつけるように、少しだけ背伸びをして、こちらから口を重ねてやった。もちろんすぐに離したけれど。
「……ヤバ。俺のが家まで保たないかも」
ユーリの目に欲が潜むのに見ないフリをした。それから離れて、いつもユーリがするように意地悪く笑ってやる。
「じゃ、お互い様だな」
「自覚して煽ってるんだから、今日は覚悟出来てるんだよね?」
「そっちこそ先にバテるなよ」
「へぇ。誰に言ってんの」
口ではそう言いつつも、絡める左手はいつもみたいに優しい。だから僕も、手だけは素直に絡めて、指先で甘えるようにユーリの手の甲を撫でた。
「……甘え下手だなぁ」
笑うユーリが愛しくて、少しだけユーリのほうに首を傾ける。このまま何もなく、卒業して就職して……って、僕はどこに就職するつもりなんだろう。
急激に冷えてきた頭に、無意識に歩みが止まる。
「リヒト?」
「え……? あ、ううん、なんでもない。ごめん」
「……今すぐに話してとは言わないからさ。思ってることあれば、言えばいいから」
「うん……」
また二人で歩き出す。
いつもの帰り道は、桜並木へとその姿を変えていた。
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