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第四部
敵わない。
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※※※
魔王の居城は、海底の、さらに深い場所。到底人間では辿り着けない場所にある。そこへ行くためになんか必要とかで、オレたちはとある遺跡へと来ていた。
道中うようよいる骨人間の山を相手にしながら、こんなんけしかけてくるのって一人しかいないよなぁと剣を振る。
最奥の広間へ出ると、予想していた通り、白を基調としたコートを羽織ったリヒトがいた。フードを目深に被り、その顔と目を見せないようにして。
「や、屍人のリヒトさん。今日は招待状を受け取りにきました」
オレたちは雪の大木以来、一週間に一回の頻度で会っていたりする。リヒトに暇人? と聞いたら、見張ってるだけと言われた。そんなのは嘘で、お互いのことなんて一切漏らしはしなかったけれど。
ちなみにリヒトと会ったのは三日前だったりする。早めに会えて嬉しい。あとそろそろキス以上もしたい。
「……ふざけるのも大概にしろ、人間」
一応体裁は守ってくれるらしい、真面目だ、好き。じゃなくて。
「ふざけてませんよ。そちらこそ、一人で来るなんて舐めてるんですか?」
「人間四人くらい、ボクだけで十分だ」
実際その通りなんだから困る。
リヒトになんで死体を使うのか、前に聞いたことがある。動くのが面倒くさいからと答えられ、それっぽいとその時は笑い飛ばしたのだけど、実際、リヒトは国ひとつを壊滅させるくらいには、意思のある死体を同時に蘇らせることが出来る。
それくらい、彼には力がある。オレが対抗出来るのは、神とやらの加護のおかげでしかない。だからオレ以外が膝をつくのも、大して驚きはしなかった。
「つ、強い……」
近衛隊長の、なんだっけ、そうだアイフェルドだ。そいつが息も絶え絶えに床に這いつくばり、リヒトがその汚い顔に足を乗せため息をついた。え、何あれ羨ま……いやいや、駄目だしっかりしろオレ。
オレは咳払いをひとつして、剣先をリヒトにチラつかせてみせる。
「その足、どけてくれません?」
訳:オレにもやってください。むしろオレ以外やらないで。
「人間風情がボクに指図するな」
ギリ、と足に力がこもり、アイフェルドの顔が歪んだ。あとであいつの顔をタオルで拭く。絶対に。リヒトの痕跡をオレ以外に残しておくなんて許せない。
早くどけてほしくて、剣に炎を宿して剣を振るう。それをリヒトは難なくかわしてみせるが、熱風で被っていたフードがずれ、白髪と二重の瞳が明るみの元に晒された。
オレにすれば見慣れた光景だ。少しクセのある白髪も、白い肌も、色素の薄い唇も、そしてあの金の目だって。
「綺麗……」
足元から声が聞こえた。そこに転がっていた神官巫女、セーニャだ。
リヒトの姿を見せたくなかった。ただそれだけだった。
剣を右手に持ち直し、左手でセーニャを抱き寄せて、自分の胸に顔を埋めさせた。傍から見れば、まるで恋人を守る騎士様、いや王子様だ。
いつも感情をあまり出さないリヒトが、その端正な顔を酷く歪ませた。しまった、と思った時には既に遅く、動揺したリヒトは、起き上がった近衛隊長と賢者のやけに見事な連携で、右腕から右脇腹辺りを抉るように吹っ飛ばされ床へと倒れ込んだ――
※※※
窓から見える風景が、一面の雪景色に染まる頃。
背を向けた格好で眠るリヒトが「ん……」と身じろぎをした。そのうなじにそっと口づけて、また痕をひとつ増やす。
同じシャンプー、同じコンディショナー、同じ石鹸を使っているのに、どうしてこうも、リヒトの香りは俺を堪らなくさせるのだろう。
耳の裏、首筋、肩に舌を這わせて、腰に回した手を上へと移動させそっと胸に触れてやる。意識がないのに反応しだしたそれにほくそ笑んで、俺はそのまま首に痕を残しながら先端を摘んだ。
「ぁ……っ」
昨夜、散々啼かせたせいで掠れたリヒトの声が耳に響く。もっと聞きたくなって、今度は耳を甘く噛んでやりながら舌を這わせれば「ぇ……なに」と舌っ足らずな反応が返ってきた。
「おはよ、リヒト」
「ぁ、おはよ……?」
胸を弄っていた手を下へと伸ばし、リヒトのモノを軽く握り込む。ぼんやりしたままのリヒトは、俺に何をされているか理解出来てないながらも「んっ」と甘い声を室内に響かせた。
「リヒト、いい?」
「ん……、まだ、するの……?」
「全然足りない。リヒトが欲しい。リヒトしかこんなに求めないよ」
リヒト自身から手を離し覆いかぶさってから、リヒトを仰向けにさせる。頭の横に手をつけば、リヒトはその手にすり寄り、軽く唇を寄せてから、
「ふふ、しかた、ないなぁ」
とふにゃりと笑い、両手を伸ばしてきた。可愛さでつい顔がにやけそうになるのを抑えて、俺はリヒトの両足を開かせた。
「後で文句言うのはなしね」
「ん、はやく、きて……」
「……ッ、だから、あぁもう」
余裕なんてない。いつも必死に、長生きした君に似合うように、並べるように、頼られるように、ただただ背伸びしてるだけなんだ。
なのに簡単に崩していくから、だから本当。
「敵わないなぁ」
「なに、が……?」
「なんでもないよ」
リヒトの両手を背中に回させて、もうどれくらいかわからないほどに抱いてきたその身体に、優しさに、俺はまた溺れていくんだ。
魔王の居城は、海底の、さらに深い場所。到底人間では辿り着けない場所にある。そこへ行くためになんか必要とかで、オレたちはとある遺跡へと来ていた。
道中うようよいる骨人間の山を相手にしながら、こんなんけしかけてくるのって一人しかいないよなぁと剣を振る。
最奥の広間へ出ると、予想していた通り、白を基調としたコートを羽織ったリヒトがいた。フードを目深に被り、その顔と目を見せないようにして。
「や、屍人のリヒトさん。今日は招待状を受け取りにきました」
オレたちは雪の大木以来、一週間に一回の頻度で会っていたりする。リヒトに暇人? と聞いたら、見張ってるだけと言われた。そんなのは嘘で、お互いのことなんて一切漏らしはしなかったけれど。
ちなみにリヒトと会ったのは三日前だったりする。早めに会えて嬉しい。あとそろそろキス以上もしたい。
「……ふざけるのも大概にしろ、人間」
一応体裁は守ってくれるらしい、真面目だ、好き。じゃなくて。
「ふざけてませんよ。そちらこそ、一人で来るなんて舐めてるんですか?」
「人間四人くらい、ボクだけで十分だ」
実際その通りなんだから困る。
リヒトになんで死体を使うのか、前に聞いたことがある。動くのが面倒くさいからと答えられ、それっぽいとその時は笑い飛ばしたのだけど、実際、リヒトは国ひとつを壊滅させるくらいには、意思のある死体を同時に蘇らせることが出来る。
それくらい、彼には力がある。オレが対抗出来るのは、神とやらの加護のおかげでしかない。だからオレ以外が膝をつくのも、大して驚きはしなかった。
「つ、強い……」
近衛隊長の、なんだっけ、そうだアイフェルドだ。そいつが息も絶え絶えに床に這いつくばり、リヒトがその汚い顔に足を乗せため息をついた。え、何あれ羨ま……いやいや、駄目だしっかりしろオレ。
オレは咳払いをひとつして、剣先をリヒトにチラつかせてみせる。
「その足、どけてくれません?」
訳:オレにもやってください。むしろオレ以外やらないで。
「人間風情がボクに指図するな」
ギリ、と足に力がこもり、アイフェルドの顔が歪んだ。あとであいつの顔をタオルで拭く。絶対に。リヒトの痕跡をオレ以外に残しておくなんて許せない。
早くどけてほしくて、剣に炎を宿して剣を振るう。それをリヒトは難なくかわしてみせるが、熱風で被っていたフードがずれ、白髪と二重の瞳が明るみの元に晒された。
オレにすれば見慣れた光景だ。少しクセのある白髪も、白い肌も、色素の薄い唇も、そしてあの金の目だって。
「綺麗……」
足元から声が聞こえた。そこに転がっていた神官巫女、セーニャだ。
リヒトの姿を見せたくなかった。ただそれだけだった。
剣を右手に持ち直し、左手でセーニャを抱き寄せて、自分の胸に顔を埋めさせた。傍から見れば、まるで恋人を守る騎士様、いや王子様だ。
いつも感情をあまり出さないリヒトが、その端正な顔を酷く歪ませた。しまった、と思った時には既に遅く、動揺したリヒトは、起き上がった近衛隊長と賢者のやけに見事な連携で、右腕から右脇腹辺りを抉るように吹っ飛ばされ床へと倒れ込んだ――
※※※
窓から見える風景が、一面の雪景色に染まる頃。
背を向けた格好で眠るリヒトが「ん……」と身じろぎをした。そのうなじにそっと口づけて、また痕をひとつ増やす。
同じシャンプー、同じコンディショナー、同じ石鹸を使っているのに、どうしてこうも、リヒトの香りは俺を堪らなくさせるのだろう。
耳の裏、首筋、肩に舌を這わせて、腰に回した手を上へと移動させそっと胸に触れてやる。意識がないのに反応しだしたそれにほくそ笑んで、俺はそのまま首に痕を残しながら先端を摘んだ。
「ぁ……っ」
昨夜、散々啼かせたせいで掠れたリヒトの声が耳に響く。もっと聞きたくなって、今度は耳を甘く噛んでやりながら舌を這わせれば「ぇ……なに」と舌っ足らずな反応が返ってきた。
「おはよ、リヒト」
「ぁ、おはよ……?」
胸を弄っていた手を下へと伸ばし、リヒトのモノを軽く握り込む。ぼんやりしたままのリヒトは、俺に何をされているか理解出来てないながらも「んっ」と甘い声を室内に響かせた。
「リヒト、いい?」
「ん……、まだ、するの……?」
「全然足りない。リヒトが欲しい。リヒトしかこんなに求めないよ」
リヒト自身から手を離し覆いかぶさってから、リヒトを仰向けにさせる。頭の横に手をつけば、リヒトはその手にすり寄り、軽く唇を寄せてから、
「ふふ、しかた、ないなぁ」
とふにゃりと笑い、両手を伸ばしてきた。可愛さでつい顔がにやけそうになるのを抑えて、俺はリヒトの両足を開かせた。
「後で文句言うのはなしね」
「ん、はやく、きて……」
「……ッ、だから、あぁもう」
余裕なんてない。いつも必死に、長生きした君に似合うように、並べるように、頼られるように、ただただ背伸びしてるだけなんだ。
なのに簡単に崩していくから、だから本当。
「敵わないなぁ」
「なに、が……?」
「なんでもないよ」
リヒトの両手を背中に回させて、もうどれくらいかわからないほどに抱いてきたその身体に、優しさに、俺はまた溺れていくんだ。
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