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第四部
呼べなくなる
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スマフォの時計は二十三時を示している。
意識のないリヒトからスーツを脱がしてやり、シャワーで身体を洗って、髪を乾かしてからナイトウェアを着せベッドへと運んだ。掛け布団を肩までかけてやれば、それはもう幸せそうに包まるものだから、軽く右耳のピアスに口づけてから離れる。
床の汚れもタオルで拭き取り、自分もスーツを脱いで軽くシャワーを浴びた。髪を拭きながら戻れば、起き上がっているのか、布団に丸く膨らみが出来ていた。それに笑みが溢れ、けれどバレないように平静を保ちながら「リヒト」と布団ごと腕の中へ収めた。
「起きたの?」
「……ん」
「淋しかったんだ?」
「別に」
そこははっきり否定するんだ。そう思ってないくせに。愛しさが湧き上がってきて、俺はまた「リヒト」と呼んだ。
「顔、見せて?」
「嫌だ」
「恥ずかしい?」
「別に」
ベッドに放り投げられたスマフォに手を伸ばす。リヒトのそれは、アラームがスヌーズのままで止まっていた。あぁ、だから起きれたのかと納得すると同時に、このままじゃラチがあかないなとも思う。
仕方がないので、頭の部分だけを少し剥いでやれば、後ろからでもわかるくらいに耳を真っ赤にしていた。誘われるようにうなじに唇を寄せ、そっと舌を這わせる。リヒトが身じろぎをして「駄目だって」とやっとこちらを向いてくれた。
「……さっきのは、その、忘れて」
恥ずかしそうに目を伏せる姿に、つい意地悪をしたくなってしまう。
「さっき? リヒトのお漏らしなら別に」
「言うなってば」
むぐ、と口を手で押さえられてしまった。これぐらい引き剥がせるんだけど、リヒトが可愛いからこのままにしておく。
「は、二十歳越えてるのに、あんな、あんな……。もうやだ死にたい」
「んー……」
「また記憶なくして後始末させてるし。これで守りたいとか、大ぐち叩くなって話だよね……」
悲観モードに入るのは少し俺が嫌なので、リヒトの手を軽く引き剥がしてから、今度は自分の口でリヒトの口を塞いでやる。
「ん、んぅ……」
必死で息を吸うように口を開けつつも、可愛らしく舌を絡ませてくる姿に、俺はまた心臓が高鳴るのを感じる。
「はあっ、リヒト、いい? 全然足りない」
「ん……」
リヒトが両手を伸ばした際に布団がずり落ちる。そこから見えた肌に、ナイトウェアを着せなかったかと数十分前の記憶を手繰り寄せた。
いや、ちゃんと着せたはず。
「……もしかしてリヒト、自分で脱いだ?」
「だっ……て、暑かったから……」
「本当? 熱いの間違いじゃなくて?」
俺が触るのを待つように、胸の先端は既につんと立っている。右手でそれを摘んでやれば、リヒトは「ああっ」と身体を大袈裟なほどに反らせた。
左手はリヒトの腰に添えて、負担がかからないようにしてベッドへと横たえてやる。掛け布団を剥ぎ取れば、さっき適当に置いたスマフォが床に落ちる音がした。
「スマフォ、壊れる……」
「これぐらいなら大丈夫だよ」
俺も着ていたウェアを脱いで床へと放り投げてから、リヒトへと覆い被さった。腰、胸、首筋にと痕をつけたところで、リヒトからの「ねぇ」と何か言いたげな声で顔を上げた。
「何?」
「……神宮さんって、誰?」
このタイミングで聞くかなと言いたい。けれど、リヒトの頭の中にアレが居着くのも気に食わないし、俺は仕方なしに「あー」と頭をガリガリと掻いた。
「神宮セナ。前世の名前は、神官巫女セーニャ。俺と旅してた奴。これでいい?」
「何か、忘れてるような気がする……」
「リヒト」
ちょっと苛ついてきた。
思わずその細い首に手をかけ、喉仏辺りを親指で軽く押し込んだ。
「ン゙ン゙ン゙ッ」
「俺以外を呼ぶなら、潰しちゃおっか」
「ァ゙……ガッ……」
これ以上は流石に死ぬと経験上わかっていたから、そっと手を緩めてやった。リヒトの薄い胸が、酸素を必死で取り入れようと大きく動く。
「わかったら、次からは」
「……べなく」
「何?」
リヒトの手がノロノロと上がり、俺の手首を弱々しく掴んだ。
「こ、え、出せなくなっ……たら、ユーリを呼べなくなる、から、嫌だ。おめでと、まだ、言ってない……」
「リヒト……」
優しくて甘い恋人は、俺にもっと怒ったっていいはずなのに、なんでこんなにも、俺を溶かそうとしてくるのだろう。
手首を掴むリヒトの手を取り、指を絡ませてから、ベッドへと優しく縫いつけた。目尻を何度か啄んでから「ごめんね」と消え入るような声で呟いた。
「……忘れてるなら、思い出さないほうがいいと思うし、正直、思い出してほしくない。リヒトのあんな顔はもう見たくないし、あんな顔させたくない。だから、お願い、思い出さないで」
勝手だと思う。自分は知っているのに、知ってほしくないなんて。でももし、リヒトがそれでも知りたいって言うなら、その時は……。
「……じゃあ、忘れたままでいいよ」
「本当に?」
「うん」
リヒトが空いている手を自分から俺に絡ませ、その指先で手の甲をなぞる。
「僕もユーリにそんな悲しい顔、してほしくないから」
「……ごめんね」
「ううん、いいんだ。ね、ユーリ」
名前を呼ばれ、改めてリヒトに視線をやる。
「十九歳、おめでとう。来年の誕生日は、もっと穏やかに過ごしたいな」
「……もちろん。リヒトが望むならいくらでも」
どちらかともなく重ね合った唇は、今までのどのキスよりも甘く、柔らかかった。
意識のないリヒトからスーツを脱がしてやり、シャワーで身体を洗って、髪を乾かしてからナイトウェアを着せベッドへと運んだ。掛け布団を肩までかけてやれば、それはもう幸せそうに包まるものだから、軽く右耳のピアスに口づけてから離れる。
床の汚れもタオルで拭き取り、自分もスーツを脱いで軽くシャワーを浴びた。髪を拭きながら戻れば、起き上がっているのか、布団に丸く膨らみが出来ていた。それに笑みが溢れ、けれどバレないように平静を保ちながら「リヒト」と布団ごと腕の中へ収めた。
「起きたの?」
「……ん」
「淋しかったんだ?」
「別に」
そこははっきり否定するんだ。そう思ってないくせに。愛しさが湧き上がってきて、俺はまた「リヒト」と呼んだ。
「顔、見せて?」
「嫌だ」
「恥ずかしい?」
「別に」
ベッドに放り投げられたスマフォに手を伸ばす。リヒトのそれは、アラームがスヌーズのままで止まっていた。あぁ、だから起きれたのかと納得すると同時に、このままじゃラチがあかないなとも思う。
仕方がないので、頭の部分だけを少し剥いでやれば、後ろからでもわかるくらいに耳を真っ赤にしていた。誘われるようにうなじに唇を寄せ、そっと舌を這わせる。リヒトが身じろぎをして「駄目だって」とやっとこちらを向いてくれた。
「……さっきのは、その、忘れて」
恥ずかしそうに目を伏せる姿に、つい意地悪をしたくなってしまう。
「さっき? リヒトのお漏らしなら別に」
「言うなってば」
むぐ、と口を手で押さえられてしまった。これぐらい引き剥がせるんだけど、リヒトが可愛いからこのままにしておく。
「は、二十歳越えてるのに、あんな、あんな……。もうやだ死にたい」
「んー……」
「また記憶なくして後始末させてるし。これで守りたいとか、大ぐち叩くなって話だよね……」
悲観モードに入るのは少し俺が嫌なので、リヒトの手を軽く引き剥がしてから、今度は自分の口でリヒトの口を塞いでやる。
「ん、んぅ……」
必死で息を吸うように口を開けつつも、可愛らしく舌を絡ませてくる姿に、俺はまた心臓が高鳴るのを感じる。
「はあっ、リヒト、いい? 全然足りない」
「ん……」
リヒトが両手を伸ばした際に布団がずり落ちる。そこから見えた肌に、ナイトウェアを着せなかったかと数十分前の記憶を手繰り寄せた。
いや、ちゃんと着せたはず。
「……もしかしてリヒト、自分で脱いだ?」
「だっ……て、暑かったから……」
「本当? 熱いの間違いじゃなくて?」
俺が触るのを待つように、胸の先端は既につんと立っている。右手でそれを摘んでやれば、リヒトは「ああっ」と身体を大袈裟なほどに反らせた。
左手はリヒトの腰に添えて、負担がかからないようにしてベッドへと横たえてやる。掛け布団を剥ぎ取れば、さっき適当に置いたスマフォが床に落ちる音がした。
「スマフォ、壊れる……」
「これぐらいなら大丈夫だよ」
俺も着ていたウェアを脱いで床へと放り投げてから、リヒトへと覆い被さった。腰、胸、首筋にと痕をつけたところで、リヒトからの「ねぇ」と何か言いたげな声で顔を上げた。
「何?」
「……神宮さんって、誰?」
このタイミングで聞くかなと言いたい。けれど、リヒトの頭の中にアレが居着くのも気に食わないし、俺は仕方なしに「あー」と頭をガリガリと掻いた。
「神宮セナ。前世の名前は、神官巫女セーニャ。俺と旅してた奴。これでいい?」
「何か、忘れてるような気がする……」
「リヒト」
ちょっと苛ついてきた。
思わずその細い首に手をかけ、喉仏辺りを親指で軽く押し込んだ。
「ン゙ン゙ン゙ッ」
「俺以外を呼ぶなら、潰しちゃおっか」
「ァ゙……ガッ……」
これ以上は流石に死ぬと経験上わかっていたから、そっと手を緩めてやった。リヒトの薄い胸が、酸素を必死で取り入れようと大きく動く。
「わかったら、次からは」
「……べなく」
「何?」
リヒトの手がノロノロと上がり、俺の手首を弱々しく掴んだ。
「こ、え、出せなくなっ……たら、ユーリを呼べなくなる、から、嫌だ。おめでと、まだ、言ってない……」
「リヒト……」
優しくて甘い恋人は、俺にもっと怒ったっていいはずなのに、なんでこんなにも、俺を溶かそうとしてくるのだろう。
手首を掴むリヒトの手を取り、指を絡ませてから、ベッドへと優しく縫いつけた。目尻を何度か啄んでから「ごめんね」と消え入るような声で呟いた。
「……忘れてるなら、思い出さないほうがいいと思うし、正直、思い出してほしくない。リヒトのあんな顔はもう見たくないし、あんな顔させたくない。だから、お願い、思い出さないで」
勝手だと思う。自分は知っているのに、知ってほしくないなんて。でももし、リヒトがそれでも知りたいって言うなら、その時は……。
「……じゃあ、忘れたままでいいよ」
「本当に?」
「うん」
リヒトが空いている手を自分から俺に絡ませ、その指先で手の甲をなぞる。
「僕もユーリにそんな悲しい顔、してほしくないから」
「……ごめんね」
「ううん、いいんだ。ね、ユーリ」
名前を呼ばれ、改めてリヒトに視線をやる。
「十九歳、おめでとう。来年の誕生日は、もっと穏やかに過ごしたいな」
「……もちろん。リヒトが望むならいくらでも」
どちらかともなく重ね合った唇は、今までのどのキスよりも甘く、柔らかかった。
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