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第一部

どういうつもり?

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 なんでも僕は、合コンでトイレに入り、どうやらそのまま倒れていたらしい。そこを心配で見に来たユーリに発見され、家まで送られたと、あの友人から届いていたRAINEでそこまでは理解した。
 待て。ちょっと待てよ。
 そもそもトイレで、僕はユーリに抱かれて、えぇとあの後どうしたんだっけ。記憶がない。たぶん意識を失くしたのだろう。
 そこまではいい。
 なんでユーリが僕の家を知ってるんだ? いや、この掃除もしてない現状を見られた? というか、トイレを汚してしまったはずだけど、あれは一体どうなったんだ?

「……あの店、もう行けなくない?」

 そう言ってはみたものの、結構オシャレなお店だったし、もう僕が行くことはないかもしれない。
 スマフォの時間は、既に朝十時を示そうとしている。祝日に入る前の最後の日のため、一応大学に顔を出して、連休中の集中講義やゼミがあるなら確認しなければならない。

「学食も今日までだし。明日から一日一食生活かな……」

 居酒屋でまかないがないわけではないし、あの店長のことだ。僕がまた店先で倒れていれば、なんだかんだでご飯を食べさせてくれるに違いない。
 だけど甘えるわけにはいかない。自分でなんとか出来るといって、地元を出てきたのだから。

 ゼミ室に寄り、教授から資料をいくつか受け取り、それを元にしたレポート課題をいくつか言い渡された。他のゼミは、スマフォで課題の連絡が来たり、データで送れば構わないとこもあるのだが、僕の教授は少し古い人なので、全部持ってこいと言われている。

「この時代に用紙出せとか、エコはどうなってんだよ、エコは」

 口を尖らせる友人を宥め、二人で学食へとやって来た。その際、前を歩く見慣れた金髪が見え、僕は「ユー……」と手を伸ばし、そこで止まってしまった。
 隣を歩いているのは、あの長髪の女性ひとだった。後ろからでもわかる。二人は楽しそうに笑い、時折女性のほうがユーリの腕をからかうように突いている。

「ごめん。今日は学食、やめと」
「あ、優利くんじゃねぇか。おーい」
「ちょっと……!」

 止める間もなく、友人は手を振りながら二人へと駆け寄っていく。僕は足が全く動かず、友人を振り返ったユーリを、ただ遠目に眺めていた。
 あぁ、そうだ。昨日のお礼を言って、なんで家の場所を知ってるんだって問い詰めて、それから、それから。
 好きだって伝えたい。昨日の行為はなんだったの? 僕をまだ好きだと言ってくれるの? それなら彼女は一体誰なの?

 頭の中に色んな疑問が浮かんで、でもそれを言える勇気がどこにもない。
 だって僕は男だ。ただ、前世からの繋がりで好きだと言ってもらえてただけなんだ。それに甘えすぎてたんだ。綺麗な人がいたら、そっちにいくに決まってるじゃないか。

「……っ」

 駄目だ、また泣きそうになってきた。
 ユーリの前で、僕はいつも泣いてばかりだ。前世でも、そして今世でも。せめて泣き顔を見られないよう、僕は急いで三人に背を向けた。

 先週通り、コンビニバイトを終えてアキくんの家へと向かう。
 多少行きづらくはあるが、前も言った通り、家庭教師は割がいい。貧乏学生にはいい収入源になる。

「こんばんは」

 軽く挨拶をし、階段を一段ずつ昇っていく。魔王城にあった仕掛け階段みたいに、どこまでも続いて、永遠に辿り着けなければいいのに。と思うが、ここは不思議な力なんてない、それが当たり前の世界。
 昇れば確実に着いてしまうその先の、つい先日まではなんとも思わなかった扉の前で、僕はノブに触れたまま立ちすくんでいた。

「……」
「おい、何してんだよ」
「うあっ!?」

 突然扉が開かれ、指先にノブががつんと当たる。

「いっ……」

 痛みと驚きで、開けた人物をわざと睨みつけるようにして見上げてやった。
 眼鏡を外し、前髪をピンで留めたアキくんが突っ立っている。僕が来たことに喜びを隠せないのか、口の端がひくついている。本人はあれで笑いを隠してるつもりなんだろう。

「何してんだよ、センセ。早く入れよ」
「……わかってるよ」

 なるべく冷たくならないように、至って冷静を保ちながら足を踏み入れる。背後で、鍵を閉められる音がした。
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