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第一部

学食でも縛られる

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 ピピッ、ピピッ、ピピッ――

「うぅ……」

 翌朝、いつものアラームで目が覚めた。
 全体的に身体が怠いのは、バイトの疲れだけではないと思う。
 昨日、あれからなんだかんだ忙しくなり、気づけばいつの間にやらユーリは帰っていた。特に用事もなければ、むしろ顔を見たくないと思っていたので、これ幸いにとバイトを終えたが、こうしてゆっくりと考えてみれば、色々大変なことに気づいていく。
 いくら三年と一年だからといって、学内で会わないなんてことはないだろう。特にユーリは僕を探している。捕まえる機会なんて、いくらでもあるのだ。

「はああぁぁぁ……」

 憂鬱だ。
 だけど単位の関係上、休むなんて選択肢はない。代返も考えたが、毎回毎回頼むわけにもいかない。

「……逃げ切るしかない」

 答えはそれしかなかった。
 昨日と同じように用意を終え、また干しっぱなしにしてある服の中から適当なシャツを頭から被った。今日も桜が、とても綺麗に咲いていた。


 よく考えれば、ユーリにはユーリの必修科目があるわけで、それは僕と被るわけではない。自由科目もあるが、一年次に取れるものは取ってあるため、そもそも講義でユーリと一緒になることはなかった。

「なんか、馬鹿みたいだな」

 自分だけが気にして、自分だけが相手の姿を必死に探して、まるでこれでは僕がユーリを好きみたいではないか。そんなわけがないのに。

「帰ろ……」

 今日は午前だけの講義だ。この後はお昼を学食で安く済ませた後、コンビニのバイトが入っている。その後は家庭教師が……。
 自分でも休む暇のないスケジュールに、確かに友人の言う通り、少しバイトを減らしたほうがいいかもしれないと自嘲した。

「あ、リヒト先輩」
「え?」

 学食の列に並んでいると、後ろから聞き慣れた声がかかり、僕は反射で振り返った。

「ユー、リ……」

 黒髪や茶髪が多い中、地毛の金色はとても目立つ。特に光を反射するように輝いているのだから尚更だ。
 唖然とする僕のすぐ後ろに並んで、ユーリは一緒に学食へ来ていたであろう友人たちに「ほら、話してた」と切り出している。

「話し、てた?」
「友達に、先輩のこと話してたんですよ。がいるって」

 もちろんそんなのは嘘だ。だけどユーリの友人たちは「へー」だの「綺麗じゃん」だの、好き勝手なことを言っている。それに反発したく口を開きかけるが、ユーリが僕の腰を何気なく触れたものだから「ひうっ」と情けない声しか出せなかった。
 成り行きで、僕とユーリ、それから友人二人と一緒に、学食内の隅の席へと着いた。

「じゃ、先輩そっちね」
「へっ? あ、ちょっと」

 文句を言う間もなく、僕はそのさらに隅に追いやられ、後ろと左隣は壁に、右にはユーリという逃げ場のない最悪な状況になってしまった。怒りを込めて睨むも、ユーリは何食わぬ顔で「バイト、遅刻しますよ」と教えてもないスケジュールを指摘してきた。

「……いただきます」

 遅刻するわけにもいかず、僕は黙って昼に選んだカレーにスプーンを突っ込んだ。
 まぁ、流石にこれだけ人がいるんだ。ユーリも何もしてこないに決まっている。そうタカをくくり、僕はルーのたっぷりかかったカレーを口に入れ――

「っ!?」

 下半身に突然走った感覚に、息を呑んだ。
 おそるおそる視線を自分の太ももに落とせば、そこには緩く太ももを撫でるユーリの左手があった。

「ユーリ……!」

 やめろの意を込めて隣を睨む。だがこいつは器用に右手で同じようにカレーを口に運びつつ、目の前に座る友人たちと談笑している。

「え、何、どうしたんですか、先輩。もしかして、カレーが辛いとか?」
「手、を……」
「手?」

 にやり、とユーリが笑った気がした。背筋にぞくりと悪寒が走り、僕はもうこれ以上気にしないようにと「なんでもない……っ」とカレーに視線を戻す。
 だがそれがよくなかった。無視を決めこもうとする僕に腹を立てたのか、太ももの上を撫でるだけだった手が、するりと内側まで伸びてきたのだ。

「ひ……っ」

 ジャージの上からするすると、まるで形を確認するかのように撫でられ、恥ずかしくも僕自身、その動きに答えるように硬さを持ち始める。

「やめ、て……」
「ん? 何か言いました?」

 にやにやと笑う姿は、どう見ても僕の反応を楽しんでいる。たまらず僕も左手を伸ばし、反抗するようにユーリの左手首を掴んだ。だけど、まるでお仕置きとばかりに、勃ち上がりかけたソレをジャージの上から強く握られる。

「ああっ」

 悲鳴に近い声を上げてしまい、反対側に座る友人が驚きで目を見開いた。

「だ、大丈夫っすか?」
「う、ん……っ、だいじょ、ぶ」

 呂律の回らない口でそう答える。涙目で隣をちらりと見れば、満ち足りた目で僕を見下ろすユーリと目が合う。

「先輩、ほら、早く食べないと」
「……っ」

 先ほど強く握ってきたのとはうってかわって、今度は優しく、やわやわと軽く揉むような手つきになっている。

「ふぅ……んぁ」

 声を洩らしそうになるのをなんとか抑えつつ、僕はスプーンをカレーに突っ込んだ。それを見計らってまた強めに握られ、僕の手からカランとスプーンが落ちた。

「大丈夫っすか? ちょうど俺らこれ片付けに行くんで、食べられなさそうなら一緒に片しますよ?」
「ま……って、だいじょ……んあぁっ」

 既にジャージの中を濡らしていた僕は、その滑りと相まってもたらされる微かな快楽に、我慢の限界とばかりに腰を左右に揺らした。もうこれ以上は我慢出来そうもなく、せめてもの抵抗にと口を両手で隠した。

「じゃ、持っていきますわ。ユーリのもついでに持ってってやるよ」
「はは、悪い、ありがと」

 まだ半分も食べれていないカレーが、無慈悲にも持っていかれていく。せっかく学食のおばちゃんたちが作ってくれたというのに。
 情けなさから涙が零れるのに、こんな状態でも快楽を求めてしまう自分が、本当に嫌になった。
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