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この先も、ずっと
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四月。
県外へ向かう新幹線に乗るため、父親が運転する車で駅へと向かう。アオは自分の家族と先に駅に向かっているらしい。
「……光哉」
「あのさ、母さん」
同時に話を切り出して、なんとも言えない空気が漂った。しばらくの後、母さんから「あのね」と切り出してくれた。
「ご飯食べてくれて、ありがとうね」
「……は? いや、ちょっと母さん、何言って」
「お母さんもお父さんもね、気づいてたの。でも、光哉を施設に入れるなんて、したくなくて……」
助手席に座る母さんの声が、震えている。運転する父さんも、いつも通りに見えるけれど、きっと内心穏やかではないと思う。
それを見るのが辛くて、視線を窓へと移す。同じように駅に向かう家族連れが多いのか、他の車にも似たような年頃の子供が乗っているのが見えた。
「……黙っててごめん」
「ううん。お母さんも、言えなくてごめんね」
「いつから?」
車内に流れるラジオから、少し季節外れの卒業式ソングが流れてくる。
「小学五年生ぐらいから。だって光哉、美味しいものは美味しいって言ってくれてたのに、いきなり言わなくなっちゃうんだもの。不思議にも思うわよ」
「そっか」
この長い間、俺は二人を騙してたんだ。それが無性に不甲斐なくて、俺は小さく「ごめん」と呟いた。
「謝ってほしいわけじゃないの。蒼くんとも話していたから」
「は!? あいつ知ってたんか」
「六年生の時にね、こっそり聞いてみたの。そしたら“おばさん、ごめんなさい”って。私たちのほうが謝らないといけないのに、蒼くんは、内緒にしてごめんなさいって。光哉を連れて行かないでって」
「……そっか」
なんだよ、あいつ。
ずっとそんなもん抱えながら一緒にいてくれたんかよ。
何を考えてるかわからない、とよく思っていた自分が恥ずかしい。
「……蒼のことなら、もう大丈夫だから。俺、本能なんかに負けねぇから」
「そうよね。もう、きっと大丈夫よね」
駅の駐車場に車を止めて、三人で構内へ歩く。
遠目に見えてきた蒼が、俺を見て軽く微笑んだ。それからすぐに両親に向かって深く頭を下げる。
「じゃあ、いってくるわ」
「気をつけてね」
少し大きめの鞄を肩から下げて、蒼の元へと歩いていく。あんなに朧げだった料理の味が、少しだけ思い出せた気がして、途中、俺は振り返り「母さん!」と声を張り上げた。
「帰ったら、唐揚げ作ってくれよ! 俺、あれ好きだからさ!」
母さんが顔をくしゃりとさせて、こくりと頷いた。
「おばさんの唐揚げ、美味しいよね。俺も好き」
隣に並んだ蒼が懐かしそうに目を細めた。
「蒼も来いよ。どうせ一緒に帰るんだし」
「うん、そうする」
改札を通り、ホームまでの通りを進む。
賑やかで、誰も俺たちの会話なんて気にも止めていない。
「……アオ」
「何」
「今日はご馳走が喰いたい」
「じゃ、向こう着いたら焼き肉のお店を……」
新幹線を待つ間に店を探すつもりなのか、ホームに着いた瞬間、アオはスマフォを操作しだした。
「いや、そうじゃねぇ」
「だってご馳走でしょ? どうせ激しくするんだから、俺がしっかり食べないと続かないよ」
「う……、ごもっとも」
新幹線が入ってくる。少し巻き起こる風で、隣からふわりと甘い香りが漂った。アオ以外のケーキの匂いも混じっているはずなのに、あぁほら、やっぱりアオが一番美味そうだ。
「……何」
「いや。有象無象の魚より、やっぱり鮎が一番好きだなって思った」
「光哉、そんなに鮎好きだったっけ」
「例えに決まってんだろが」
アオを小突いて新幹線に乗り込む。
まだ先は長いし、どうなるかもわからないけど。
俺は一生、こいつ以外のケーキを求めることは、絶対にない。それだけは言える。
席に座ったアオに、唇が触れるくらいの軽いキスをすれば、微かに赤くなったアオから文句を言われた。
県外へ向かう新幹線に乗るため、父親が運転する車で駅へと向かう。アオは自分の家族と先に駅に向かっているらしい。
「……光哉」
「あのさ、母さん」
同時に話を切り出して、なんとも言えない空気が漂った。しばらくの後、母さんから「あのね」と切り出してくれた。
「ご飯食べてくれて、ありがとうね」
「……は? いや、ちょっと母さん、何言って」
「お母さんもお父さんもね、気づいてたの。でも、光哉を施設に入れるなんて、したくなくて……」
助手席に座る母さんの声が、震えている。運転する父さんも、いつも通りに見えるけれど、きっと内心穏やかではないと思う。
それを見るのが辛くて、視線を窓へと移す。同じように駅に向かう家族連れが多いのか、他の車にも似たような年頃の子供が乗っているのが見えた。
「……黙っててごめん」
「ううん。お母さんも、言えなくてごめんね」
「いつから?」
車内に流れるラジオから、少し季節外れの卒業式ソングが流れてくる。
「小学五年生ぐらいから。だって光哉、美味しいものは美味しいって言ってくれてたのに、いきなり言わなくなっちゃうんだもの。不思議にも思うわよ」
「そっか」
この長い間、俺は二人を騙してたんだ。それが無性に不甲斐なくて、俺は小さく「ごめん」と呟いた。
「謝ってほしいわけじゃないの。蒼くんとも話していたから」
「は!? あいつ知ってたんか」
「六年生の時にね、こっそり聞いてみたの。そしたら“おばさん、ごめんなさい”って。私たちのほうが謝らないといけないのに、蒼くんは、内緒にしてごめんなさいって。光哉を連れて行かないでって」
「……そっか」
なんだよ、あいつ。
ずっとそんなもん抱えながら一緒にいてくれたんかよ。
何を考えてるかわからない、とよく思っていた自分が恥ずかしい。
「……蒼のことなら、もう大丈夫だから。俺、本能なんかに負けねぇから」
「そうよね。もう、きっと大丈夫よね」
駅の駐車場に車を止めて、三人で構内へ歩く。
遠目に見えてきた蒼が、俺を見て軽く微笑んだ。それからすぐに両親に向かって深く頭を下げる。
「じゃあ、いってくるわ」
「気をつけてね」
少し大きめの鞄を肩から下げて、蒼の元へと歩いていく。あんなに朧げだった料理の味が、少しだけ思い出せた気がして、途中、俺は振り返り「母さん!」と声を張り上げた。
「帰ったら、唐揚げ作ってくれよ! 俺、あれ好きだからさ!」
母さんが顔をくしゃりとさせて、こくりと頷いた。
「おばさんの唐揚げ、美味しいよね。俺も好き」
隣に並んだ蒼が懐かしそうに目を細めた。
「蒼も来いよ。どうせ一緒に帰るんだし」
「うん、そうする」
改札を通り、ホームまでの通りを進む。
賑やかで、誰も俺たちの会話なんて気にも止めていない。
「……アオ」
「何」
「今日はご馳走が喰いたい」
「じゃ、向こう着いたら焼き肉のお店を……」
新幹線を待つ間に店を探すつもりなのか、ホームに着いた瞬間、アオはスマフォを操作しだした。
「いや、そうじゃねぇ」
「だってご馳走でしょ? どうせ激しくするんだから、俺がしっかり食べないと続かないよ」
「う……、ごもっとも」
新幹線が入ってくる。少し巻き起こる風で、隣からふわりと甘い香りが漂った。アオ以外のケーキの匂いも混じっているはずなのに、あぁほら、やっぱりアオが一番美味そうだ。
「……何」
「いや。有象無象の魚より、やっぱり鮎が一番好きだなって思った」
「光哉、そんなに鮎好きだったっけ」
「例えに決まってんだろが」
アオを小突いて新幹線に乗り込む。
まだ先は長いし、どうなるかもわからないけど。
俺は一生、こいつ以外のケーキを求めることは、絶対にない。それだけは言える。
席に座ったアオに、唇が触れるくらいの軽いキスをすれば、微かに赤くなったアオから文句を言われた。
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初めてのコメント失礼します。
最近、ケーキバースにハマっているのですが今まで読んだ話の中で1番好きです!!!!幼なじみの2人がずっとお互いを想い合い続けている関係性も同じクラスの友人との関係性も本当に本当に尊いです…!!!!
最後のお母さんとの会話では涙腺が大崩壊しました……
思わず2回も読み返しました…これからもずっと読み返したいぐらい最高です…
素敵な作品を書いてくださりありがとうございます( ; ; )
みりん様。
感想ありがとうございます!
二人の関係性は私自身、すごく気を使って書いた箇所なので、そう言って頂けて嬉しいです! 読み返しまでして頂けて…、もうなんと言っていいやら…、感無量です!
本当にありがとうございました!