【完結済】ケーキはフォークの共犯者

とかげになりたい僕

文字の大きさ
上 下
18 / 22

押し付けんな

しおりを挟む
 晴れて付き合い出した俺たち。
 もう季節は冬になるというのに、健全な男子高校生ならするであろうことを、俺たちはまだしていなかった。

「嘘だろ」
「嘘じゃねぇ」

 朝礼まで幸太郎と話して時間を潰す。蒼はとっくに自分の席に座っていて、ここからだとピンと伸びた背中がよく見える。相変わらず姿勢がいい。

「付き合ってどんくらいよ」
「二ヶ月……?」

 来月には私立入試も控えているし、あまり浮かれたことを言っている場合ではない。それはよくわかっているけれど。

「俺に喰われてくれっつったぞ」
「うわ、物騒」
「そっちの喰うじゃねぇわ」

 別に、そういう雰囲気にならんかったわけではない。
 蒼の家に行って、なんかこう、うだうだ話して、いざって時に蒼が真剣な目をして言いやがったのだ。

『食べるのに、これは必要?』と。

 瞬時に察した。
 喰われるの意味が微妙に伝わってなかったと。
 そうだよな。体液の接種は唾液で事足りる。肌を舐めたくとも、それは指先で充分なわけだ。

「今までと何が違うんだよ、これ」

 机に伏せて「ああああぁぁぁ」と情けない声を上げる。幸太郎が軽く笑いながら、慰めるように肩を叩いてきた。

「変わったことはいくらでもある気がするけどな。なんつーか、遠慮がなくなった気がする」
「遠慮、なぁ」

 それはそうかもしれない。
 自分の中の蒼に触れたい、舐めたい、喰ってしまいたいというのが、今まではフォークのせいだとばかり思っていた。でもそれがそうじゃなく(もちろんそれもあるけど)、自分が蒼を好きだからと自覚したからか、前よりは素直に蒼と向き合えるようになった。

「ま、あんま焦んなくていいんじゃね? 大学、同じとこ受けんだろ?」
「んー、いちお」
「ルームシェアすんの? 流石に無理か? アパートは?」
「……あ」

 なんも考えてなかった。
 まだ受けてないし、合格するかもわからんが、合格したとして、俺は一人暮らしをするわけで。それは蒼も同じはず。

「帰り、聞いてみっか」
「聞け聞け。お前らは会話が圧倒的に足りてねぇからよ」

 教室に入ってきた担任に合わせて、蒼が「起立」と号令をかける。立ち上がって礼をしながら、出来るならルームシェアがいいな、なんて呑気なことを考えていた。


 帰り道。
 灰色の雲が敷き詰められた空は、もうすぐ雪でも降ってきそうな雰囲気を出している。冬休みになるまで雪は降ってほしくねぇな、と真っ白い息を吐きながら、ついぼんやりと考えた。
 だからか、俺は蒼が「コンビニ入る」と言ったのを止めることが出来ず。

「これ、冬の新作」
「やめとけって」
「すみません、ホットアップルチキンひとつください」
「だから買うなっつの」

 止めたのも虚しく、コンビニで新作のホットアップルチキンを買って、春のうんこ事件で世話になった公園へと立ち寄る。チキンに後づけのアップルソースをかけて食べる肉とか、正直俺は食いたくない。けれど蒼の顔を見るに、俺が後始末をする結末が見えてきた。

「食べて」

 ほらな。ずいと出されたチキンから顔を背けるも、蒼のやつは遠慮なく頬に押しつけてきやがった。べったりとついたアップルソースが気持ち悪い。

「おい」
「あ、ついた」
「わざとだろが」
「逃げるほうが悪い」
「んじゃ、最初から買うな」

 仕方なしにチキンを受け取るが、蒼は俺を残飯処理機か何かだと思ってないか。
 頬の二チョッとした感覚に顔をしかめながら、チキンをひと口かじる。肉を食ったら、あの手洗い場でソースを洗い流そう。ハンカチなんてないが、袖で拭いときゃ大丈夫だろ。

「ん……」

 不意に蒼が顔を近づけてきたかと思えば、頬についたソースをぺろりと舐めてきやがった。

「は、はぁ!? おまっ、はぁ!?」

 変な声しか出せない俺をよそに、蒼は「リンゴだ」と無表情で言い切って、一緒に買ったペットボトルのミルクティーをひと口飲んだ。

「変な声出してないで早く処理して」
「やっぱ残飯処理かよ!」

 俺の嫌味にも特に顔をしかめず、蒼はスマフォを操作しだした。それが少し頭にきて、チキンの後味が残ったままキスしてやろうと顔を近づける。けれどそれは間に挟まれた鞄に拒まれ、敵わなかった。

「パス」
「は!?」
「だってそれ美味しくない」
「そもそもお前がなぁ……」

 鞄を無理やりずらして蒼の姿を視界に入れる。
 微かに見えた蒼の耳が赤くなってるのが見えて、俺は小さく舌打ちをして諦めた。

「ったく、俺はいつまで待ちゃあいいんだよ」
「大学入学まで」
「受かること前提かよっ。つか、あと四ヶ月待たせる気か」
「八年我慢出来たんだから出来るよ」

 鞄の合間から見えた蒼が、そう言って目元を柔らかくした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...