【完結済】ケーキはフォークの共犯者

とかげになりたい僕

文字の大きさ
上 下
14 / 22

ずっと見てた

しおりを挟む
 否定しないと。それか誤魔化す?
 身体がやけに冷えて、まるで血が全身を巡ってないみたいだ。

「んな、わけ、ねぇだろ」

 それだけを言うのが精一杯だった。

「さっきのたこ焼き、光哉のが激辛だった」
「は、あ? いやだってお前、自分のが辛いって」

 幸太郎が言いづらそうに目を伏せる。
 あ、これは誤魔化せないやつだと、瞬時に悟った。
 俺は施設に送られるのか?
 ここまで隠し通してきたのに?
 頭の中に蒼の姿が浮かぶ。

「た、頼む。蒼は関係ないから、だから蒼は」

 まるで隠し事が親にバレた気持ちだ。それでも蒼だけは巻き込みたくなくて、俺は幸太郎の腕を掴んだ。

「ま、待てよ、落ち着けって。おれはどうこうしようってわけじゃねぇよ。つか何、蒼は知ってんのか?」
「あ……」

 思わず口から出てしまった。
 たぶん今の俺は顔面蒼白に違いない。
 心臓の音がやけに煩くて、息が上手く吸えなくなってくる。
 どうする? どうすればいい? いっそのこと、言えなくなるようにしちまえば……。

「やっぱ蒼は知ってたんかー」
「へ……?」

 幸太郎は悪びれもなくへらりと笑うと「いやぁ」と頬を搔いた。

「だって二人ともいつも一緒だもんな」

 その表情はいつもと変わらない幸太郎のままで、俺を軽蔑するでもなく、怖がってもいなかった。あれほど煩かった心臓の音が少し静かになって、幸太郎の声がさっきよりも聞こえるようになる。

「つーことはあれか、蒼はケーキなん?」
「え、あ……、あぁ」
「へぇ! じゃ、おれ、めっちゃすげぇじゃん! 友達ダチにフォークとケーキがいるナチュラルだぜ!」

 そう無邪気に笑ってくれた幸太郎が眩しくて、俺は鼻の奥がツンとしてきた。もちろん見られるのは恥ずかしいから「馬鹿じゃねぇの」と笑ってみせた。

「いつから気づいてた?」
「高二ぐらいかな」
「去年じゃねぇか」
「そうそう、結構最近」

 幸太郎は思い出すように視線を左上へと反らせた。

「確信したのは修学旅行。普通に蒼の口つけたもん食ってただろ? 幼馴染だし、中学からそんなんだったし、あんま気にしてなかったんだけどさ」
「あー、あぁ」
「必ず箸でもスプーンでも交換すんだよ。お前らって」
「あー……」

 よく見てるダチだこと。でも、それが幸太郎でよかったのかもしれない。俺は頭をガリガリと搔いてから「怖くねぇんかよ」とぽつりと呟いた。
 俺の質問が意外だったのか、幸太郎は「ほぇ?」と間抜けヅラを晒してから、歯を見せて笑った。

「怖く? んー、だって知ったの去年だし。だから、怖いとか怖くねぇなんて、全然考えたことなかったわ。だってダチだしな。あ、でも会った時から愛想ねぇやつとは思ってた」
「んだそれ」

 幸太郎の言いように吹き出す。でもそうだった、こいつはこういうやつだったわ。

「それにさ、光哉、蒼のこと大事にしてんじゃん」
「大事っつうか、それは……」

 夏のあの日。俺が蒼を傷つけたから、それを蒼が庇ってくれたから、その思いを無駄にしたくないから……。

「おれはフォークもケーキもよくわかんねぇけど、光哉がフォークの本能っつうの? それに負けずに、ずっと蒼と一緒にいれるの、まじですげぇと思う。それって、蒼のことが大事だからだろ?」
「俺は……」

 たぶんあいつは、俺が“好き”だと言えば簡単に頷くだろうし、これからも一緒にいてくれる。秘密の共有者として、約束を交わした幼馴染として、だ。

「俺は、よくわかんね……。蒼が好きだ。でもそれって、俺がフォークだからか? あいつが幼馴染だからか?」

 好き、なはずなのに、これがどこからくる気持ちなのかがはっきりしない。

「なーんか難しいこと考えてんなぁ」
「はぁ?」
「だってさぁ」

 幸太郎が小便器に近づき、そのまま用を足し始める。こんな時にかよ、と思うが生理現象だ、仕方ない。

「好きって結局、全部本能じゃん。飯食いてぇも、ションベンしてぇって思うのも、寝てぇってのも、全部自然なんだわ」

 用を終えた幸太郎が俺の肩をバシバシと叩く。

「好きなものは好きで、いいんじゃね?」
「幸太郎、お前……」
「ん? なんだなんだ、感謝なら別にいらねぇぞ?」
「手、洗ったか?」
「……あ」

 俺は有無も言わさず、幸太郎の頭をぶん殴った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...