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三月
包み込んでいく世界
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鉄製の扉が粉々になるだけでもヤバいのに、会長はそれをよけることもせず、むしろ勇敢に、向かってくる破片を目にも止まらぬ速さでキャッチしていった。
「ふ……。やはり来たか」
「やはりってなんだよ!?」
つい二階席から叫んでしまい、こちらを見上げた会長と目が合った。
「やぁ、護くん。この素晴らしい、人生の分かれ道といっても過言ではない日にキミと会えるなんて、やはりオレは神に愛されているようだ」
「や、卒業式なんで……。これ学校行事なんで……」
これだけ生徒がいる中、確かに会えるのはラッキーかもしれないが、ところがどっこい。俺は主人公で会長は主要キャラ、そして今日は卒業式。
会わないほうが無理というものだ。
「そ、それより会長! 倉庫、倉庫!」
そうだ。扉が破壊されたということは、あの暗黒世界、いや真っ黒な手か? が出てくるかもしれない。
実際、俺たち二年生からはどよめきが上がっているし、一階に座る一年生はそれ以上に混乱している。その中で、列を乱すことなく律儀に整列したままの三年生は、尊敬を通り越して不気味さが漂っていた。
「安心したまえ、護くん。そして生徒諸君。このオレがいる。生徒会会長、屹立壱がいる限り、この学園はそう簡単に地には堕ちん!」
「そ、そうだ、会長がいる!」
「会長おおお!」
「いや、会長、会長、手、手!」
一年生からも二年生からも声援が上がる中、倉庫から伸びてきた手が会長を捕まえようと伸びる。だけど会長は慌てるでもなく、臆するでもなく、むしろ「待っていたぞ!」とその翠の目を嬉しそうにギラつかせた。
「あれは……、包み込んでいく世界か」
「なんだよ、リセットなんたらって……」
隣に座っていた牡蠣が、ぴょんと手すりに飛び乗って、逃げ回る会長を見下ろしながら呟いた。
「ま、言っちまえば、世界が終わる時に現れるバケモンだな。おれも実物は初めて見たぜ」
「世界が終わるって……、俺たち消えるってことかよ!?」
「さあて。おれも初めて見たっつったろ。どうなるかは知らねぇよ」
それはまるで他人事のようだったが、牡蠣から小さく漏れた「終わっちまうのか」の悲しそうな呟きに、俺は知らずのうちに椅子から立ち上がっていた。
「マモル、何考えてる?」
「……」
すぐには答えられなかった。
だけど俺が消えるとか。つか、これがエンディングのひとつだとしても。なんか納得いかなかった。
「……簡単に、消されてたまるかと思ってさ」
「それがこの世界の理だとしてもか?」
「はは」
ポケットへと押し込んだ、鏡華ちゃんからもらった飴玉をくしゃりと握りしめる。
「このゲームを、ぶっ壊す。ないルートなら、作ればいい。だろ?」
「……く、くく、ははは。そうだな、そうだぜ、マモル。危うくおれも、世界に呑まれるとこだった」
牡蠣が自嘲するように笑い、それからぽかんとしたままのラスを振り返る。
「ラス。ちと兄ちゃん行ってくるわ」
「うん! ぼく、まってるよ!」
元気な返事で跳ねるラス。牡蠣は「よし、行くぜ」と俺の足元まで跳ねてきた。それに呼応するように俺もまた頷くと、生徒の合間をぬって一階へと駆け下りた。
「ふ……。やはり来たか」
「やはりってなんだよ!?」
つい二階席から叫んでしまい、こちらを見上げた会長と目が合った。
「やぁ、護くん。この素晴らしい、人生の分かれ道といっても過言ではない日にキミと会えるなんて、やはりオレは神に愛されているようだ」
「や、卒業式なんで……。これ学校行事なんで……」
これだけ生徒がいる中、確かに会えるのはラッキーかもしれないが、ところがどっこい。俺は主人公で会長は主要キャラ、そして今日は卒業式。
会わないほうが無理というものだ。
「そ、それより会長! 倉庫、倉庫!」
そうだ。扉が破壊されたということは、あの暗黒世界、いや真っ黒な手か? が出てくるかもしれない。
実際、俺たち二年生からはどよめきが上がっているし、一階に座る一年生はそれ以上に混乱している。その中で、列を乱すことなく律儀に整列したままの三年生は、尊敬を通り越して不気味さが漂っていた。
「安心したまえ、護くん。そして生徒諸君。このオレがいる。生徒会会長、屹立壱がいる限り、この学園はそう簡単に地には堕ちん!」
「そ、そうだ、会長がいる!」
「会長おおお!」
「いや、会長、会長、手、手!」
一年生からも二年生からも声援が上がる中、倉庫から伸びてきた手が会長を捕まえようと伸びる。だけど会長は慌てるでもなく、臆するでもなく、むしろ「待っていたぞ!」とその翠の目を嬉しそうにギラつかせた。
「あれは……、包み込んでいく世界か」
「なんだよ、リセットなんたらって……」
隣に座っていた牡蠣が、ぴょんと手すりに飛び乗って、逃げ回る会長を見下ろしながら呟いた。
「ま、言っちまえば、世界が終わる時に現れるバケモンだな。おれも実物は初めて見たぜ」
「世界が終わるって……、俺たち消えるってことかよ!?」
「さあて。おれも初めて見たっつったろ。どうなるかは知らねぇよ」
それはまるで他人事のようだったが、牡蠣から小さく漏れた「終わっちまうのか」の悲しそうな呟きに、俺は知らずのうちに椅子から立ち上がっていた。
「マモル、何考えてる?」
「……」
すぐには答えられなかった。
だけど俺が消えるとか。つか、これがエンディングのひとつだとしても。なんか納得いかなかった。
「……簡単に、消されてたまるかと思ってさ」
「それがこの世界の理だとしてもか?」
「はは」
ポケットへと押し込んだ、鏡華ちゃんからもらった飴玉をくしゃりと握りしめる。
「このゲームを、ぶっ壊す。ないルートなら、作ればいい。だろ?」
「……く、くく、ははは。そうだな、そうだぜ、マモル。危うくおれも、世界に呑まれるとこだった」
牡蠣が自嘲するように笑い、それからぽかんとしたままのラスを振り返る。
「ラス。ちと兄ちゃん行ってくるわ」
「うん! ぼく、まってるよ!」
元気な返事で跳ねるラス。牡蠣は「よし、行くぜ」と俺の足元まで跳ねてきた。それに呼応するように俺もまた頷くと、生徒の合間をぬって一階へと駆け下りた。
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