179 / 190
三月
太刀根 攻
しおりを挟む
三月一日。
桜の花びらが舞う道を、いつも通りに登校する。いつもと違うところといえば、今日が卒業式ということぐらいか。
三年生だけ式に出ればいいのにと思わなくもないが、そういうわけにもいかない。何より、俺には生徒会の仕事という名の雑務がある。特になんの打ち合わせもしてないが、まぁ、なんとかなるだろう。
「あ! 護!」
約束したわけではないのだが、校門前で待っていた太刀根と合流する。なぜか太刀根は、全裸にマワシだけをつけた状態で仁王立ちしていた。
マワシって知ってるか? そう、お相撲さんがつけているあれだ。なんでつけてるのか? 知るか。
「護、おはよ!」
無視して通り過ぎようとしたのに、太刀根は俺が聞こえてないとでも思ったのか、もう一度呼んできやがった。もちろん返事するはずもなく、俺は黙って校門をくぐり抜けた。
「護!」
後ろから小走りに駆け寄ってきた太刀根が、先に行かせまいと俺の前に立ち塞がった。俺は明らかに嫌そうな顔でため息をついたのだが、太刀根は構うことなく、満面の笑顔を浮かべた。
「なぁ、護。ちょっと話があるんだ」
「俺はない」
「ちょっとでいいからさ。さきっちょだけでいいから」
「同意がない限り少しでも犯罪は犯罪なんだよ。わかったら早くどけ、遅刻するだろ」
太刀根をよけるように横にずれて、俺はまた歩き出した。少し早めに家を出たから余裕があるとはいえ、こんなところでエセ相撲野郎と話す時間は惜しい。
若干早足で歩く俺の背に、それでも太刀根が「護!」と半ば叫ぶようにして名前を呼んでくる。誰が止まるかと、振り返ることもせずに歩き続けようとし、
「俺さ、俺、護には感謝してるんだ!」
「は?」
つい足が止まってしまった。
「会長に……、壱に俺が負けた時。何もかもを、それこそ自分の尊厳さえも失くした俺に、護は言ってくれたよな? 緩いほうが好きだって」
「言ってない。断じて“俺”は言ってない」
「その言葉に俺は救われたし、俺はまた生きる希望を見出したんだ。それで俺、その時に、護……、お前を」
キーンコーン――
予鈴だ。やばい。早いとこ教室に向かわないと。
「じゃ、太刀根。俺先に教室向かうわ。お前も、ほら、あれだ。早く着替えてこいよ?」
「大丈夫だ、護。牧地に“護と肌と肌のぶつかり合いするから遅れる”って伝えてあるから」
「全然大丈夫じゃねぇよ! むしろ卒業式にナニやってんだ!」
「肌と肌のぶつかり合いといえば、相撲だろ? ほら、護の分のマワシもあるから」
どうやって仕舞っていたのか、太刀根は自身のマワシから、新品未使用のマワシを出してきて俺に差し出してきやがった。
「護、初めては恥ずかしいと思うけど、俺がついてるからさ」
「誰がするか!」
「ああっ、護!」
太刀根の手からマワシをぶんどると、俺はそれを校門の外に向かって投げつけた。慌ててマワシを取りに行く太刀根を放っといて、俺は急いで校舎へ向かっていく。
背後では、風紀委員が校門を閉める音が響いていた。
桜の花びらが舞う道を、いつも通りに登校する。いつもと違うところといえば、今日が卒業式ということぐらいか。
三年生だけ式に出ればいいのにと思わなくもないが、そういうわけにもいかない。何より、俺には生徒会の仕事という名の雑務がある。特になんの打ち合わせもしてないが、まぁ、なんとかなるだろう。
「あ! 護!」
約束したわけではないのだが、校門前で待っていた太刀根と合流する。なぜか太刀根は、全裸にマワシだけをつけた状態で仁王立ちしていた。
マワシって知ってるか? そう、お相撲さんがつけているあれだ。なんでつけてるのか? 知るか。
「護、おはよ!」
無視して通り過ぎようとしたのに、太刀根は俺が聞こえてないとでも思ったのか、もう一度呼んできやがった。もちろん返事するはずもなく、俺は黙って校門をくぐり抜けた。
「護!」
後ろから小走りに駆け寄ってきた太刀根が、先に行かせまいと俺の前に立ち塞がった。俺は明らかに嫌そうな顔でため息をついたのだが、太刀根は構うことなく、満面の笑顔を浮かべた。
「なぁ、護。ちょっと話があるんだ」
「俺はない」
「ちょっとでいいからさ。さきっちょだけでいいから」
「同意がない限り少しでも犯罪は犯罪なんだよ。わかったら早くどけ、遅刻するだろ」
太刀根をよけるように横にずれて、俺はまた歩き出した。少し早めに家を出たから余裕があるとはいえ、こんなところでエセ相撲野郎と話す時間は惜しい。
若干早足で歩く俺の背に、それでも太刀根が「護!」と半ば叫ぶようにして名前を呼んでくる。誰が止まるかと、振り返ることもせずに歩き続けようとし、
「俺さ、俺、護には感謝してるんだ!」
「は?」
つい足が止まってしまった。
「会長に……、壱に俺が負けた時。何もかもを、それこそ自分の尊厳さえも失くした俺に、護は言ってくれたよな? 緩いほうが好きだって」
「言ってない。断じて“俺”は言ってない」
「その言葉に俺は救われたし、俺はまた生きる希望を見出したんだ。それで俺、その時に、護……、お前を」
キーンコーン――
予鈴だ。やばい。早いとこ教室に向かわないと。
「じゃ、太刀根。俺先に教室向かうわ。お前も、ほら、あれだ。早く着替えてこいよ?」
「大丈夫だ、護。牧地に“護と肌と肌のぶつかり合いするから遅れる”って伝えてあるから」
「全然大丈夫じゃねぇよ! むしろ卒業式にナニやってんだ!」
「肌と肌のぶつかり合いといえば、相撲だろ? ほら、護の分のマワシもあるから」
どうやって仕舞っていたのか、太刀根は自身のマワシから、新品未使用のマワシを出してきて俺に差し出してきやがった。
「護、初めては恥ずかしいと思うけど、俺がついてるからさ」
「誰がするか!」
「ああっ、護!」
太刀根の手からマワシをぶんどると、俺はそれを校門の外に向かって投げつけた。慌ててマワシを取りに行く太刀根を放っといて、俺は急いで校舎へ向かっていく。
背後では、風紀委員が校門を閉める音が響いていた。
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
愛無き子供は最強の神に愛される
神月るあ
ファンタジー
この街には、『鬽渦者(みかみもの)』という子供が存在する。この子供は生まれつき悪魔と契約している子供とされ、捨てられていた。13歳になった時の儀式で鬽渦者とされると、その子供を捨てる事で世界が救われる、としていたらしい。
捨てられた子供がどうなったかは誰も知らない。
そして、存在が生まれるのはランダムで、いつ生まれるかは全くもって不明らしい。
さて、捨てられた子供はどんな風に暮らしているのだろうか。
※四章からは百合要素、R13ぐらいの要素を含む話が多くなってきます。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる