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三月

それは誰がためのバッドエンド

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 痛い。それしか考えられない。

「――さん、みさ――」

 うるせぇな。そんなに必死になって呼ぶなよ。ちゃんと聞こえてるっての。
 あれ? 返事が出来ない。声も出せない。いや、出そうと喉に力を込めるだけで、全身に鋭い痛みが走るんだ。

「護! 早く救急車――」
「もう呼んだよ! 御竿くん――」

 慌てた様子の太刀根が、すごい剣幕で猫汰を急かしている。胸ぐらを掴むんじゃないかってくらいだ。太刀根にしては珍しいな、あんな顔するなんて。
 あぁほら、猫汰が睨んでるだろ。もう少し落ち着けよ、ったく。

「鏡、こっちよ――」
「おい御竿、しっかりしろ――」

 先生がたの声がやけに遠い。
 俺を囲んでいた生徒たちを押しのけた鏡華ちゃんの顔が、今までにないくらい酷く歪んだ。何、そんな顔して。

「持ち堪えろ、御竿――」

 手慣れた様子で、鏡華ちゃんが救急箱から道具を取り出して、俺に何かしら処置していく。触られているはずなのに、なぜだか感覚がなくなっていって、あれだけ痛かったのが、まるで夢のようだと感じる。

「このボクを置いていったら、許さないんだから!」

 うるせぇ。お前は出てくんな。

「先輩、うぅ……、護先輩――」

 メソメソと泣く下獄は、なぜか大のほうだ。しおらしく泣くならせめて小のほうがよかった。
 必死な形相の生徒や先生。その隙間から見える青空に、あぁ俺は今、倒れているんだと、やっと理解することが出来た。
 あれ? なんで倒れてるんだ? つか、なんでこんなに囲まれてんだ?
 なんでだっけ、なんでだっけ。

「うっ……げほっ、がはっ」

 苦しくて咳が出た。溜まった血が口の端を零れ落ちて、俺のブレザーを真っ赤に染め上げる。それをぼーっと見、そこで自分の腹部を改めて見ることが出来て、そして気づいた。
 なんで、腹に、鉄柱が刺さってんだ?

「ぁ、あぁ……っ」

 ぐるぐると目が回る感覚がする。いや、回っているのは頭だったのかもしれない。

「キミたち、どきたまえ! 救急隊のかたが到着――」

 囲む生徒を追い払う会長の声。遠くから「怪我をした生徒は――」と焦る大人の声がする。
 もう、無理に決まってんだろ。だってこの鉄柱、貫通してんだぞ? 見ろよ、この血の量。何をしても助からないなんて、俺が一番わかってるっつの。

「御竿さん! 御竿さん! こんなの、こんな終わり方、あんまりです……!」

 俺もそう思う。
 あぁでも、お前を助けられてよかったよ。こういう終わりなら、ちょっとはアリかななんて思うんだ。

 眠い。すごく眠い。
 なんだかんだで、楽しい一年だった。本当に、ありがとな――
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