178 / 185
三月
それは誰がためのバッドエンド
しおりを挟む
痛い。それしか考えられない。
「――さん、みさ――」
うるせぇな。そんなに必死になって呼ぶなよ。ちゃんと聞こえてるっての。
あれ? 返事が出来ない。声も出せない。いや、出そうと喉に力を込めるだけで、全身に鋭い痛みが走るんだ。
「護! 早く救急車――」
「もう呼んだよ! 御竿くん――」
慌てた様子の太刀根が、すごい剣幕で猫汰を急かしている。胸ぐらを掴むんじゃないかってくらいだ。太刀根にしては珍しいな、あんな顔するなんて。
あぁほら、猫汰が睨んでるだろ。もう少し落ち着けよ、ったく。
「鏡、こっちよ――」
「おい御竿、しっかりしろ――」
先生がたの声がやけに遠い。
俺を囲んでいた生徒たちを押しのけた鏡華ちゃんの顔が、今までにないくらい酷く歪んだ。何、そんな顔して。
「持ち堪えろ、御竿――」
手慣れた様子で、鏡華ちゃんが救急箱から道具を取り出して、俺に何かしら処置していく。触られているはずなのに、なぜだか感覚がなくなっていって、あれだけ痛かったのが、まるで夢のようだと感じる。
「このボクを置いていったら、許さないんだから!」
うるせぇ。お前は出てくんな。
「先輩、うぅ……、護先輩――」
メソメソと泣く下獄は、なぜか大のほうだ。しおらしく泣くならせめて小のほうがよかった。
必死な形相の生徒や先生。その隙間から見える青空に、あぁ俺は今、倒れているんだと、やっと理解することが出来た。
あれ? なんで倒れてるんだ? つか、なんでこんなに囲まれてんだ?
なんでだっけ、なんでだっけ。
「うっ……げほっ、がはっ」
苦しくて咳が出た。溜まった血が口の端を零れ落ちて、俺のブレザーを真っ赤に染め上げる。それをぼーっと見、そこで自分の腹部を改めて見ることが出来て、そして気づいた。
なんで、腹に、鉄柱が刺さってんだ?
「ぁ、あぁ……っ」
ぐるぐると目が回る感覚がする。いや、回っているのは頭だったのかもしれない。
「キミたち、どきたまえ! 救急隊のかたが到着――」
囲む生徒を追い払う会長の声。遠くから「怪我をした生徒は――」と焦る大人の声がする。
もう、無理に決まってんだろ。だってこの鉄柱、貫通してんだぞ? 見ろよ、この血の量。何をしても助からないなんて、俺が一番わかってるっつの。
「御竿さん! 御竿さん! こんなの、こんな終わり方、あんまりです……!」
俺もそう思う。
あぁでも、お前を助けられてよかったよ。こういう終わりなら、ちょっとはアリかななんて思うんだ。
眠い。すごく眠い。
なんだかんだで、楽しい一年だった。本当に、ありがとな――
「――さん、みさ――」
うるせぇな。そんなに必死になって呼ぶなよ。ちゃんと聞こえてるっての。
あれ? 返事が出来ない。声も出せない。いや、出そうと喉に力を込めるだけで、全身に鋭い痛みが走るんだ。
「護! 早く救急車――」
「もう呼んだよ! 御竿くん――」
慌てた様子の太刀根が、すごい剣幕で猫汰を急かしている。胸ぐらを掴むんじゃないかってくらいだ。太刀根にしては珍しいな、あんな顔するなんて。
あぁほら、猫汰が睨んでるだろ。もう少し落ち着けよ、ったく。
「鏡、こっちよ――」
「おい御竿、しっかりしろ――」
先生がたの声がやけに遠い。
俺を囲んでいた生徒たちを押しのけた鏡華ちゃんの顔が、今までにないくらい酷く歪んだ。何、そんな顔して。
「持ち堪えろ、御竿――」
手慣れた様子で、鏡華ちゃんが救急箱から道具を取り出して、俺に何かしら処置していく。触られているはずなのに、なぜだか感覚がなくなっていって、あれだけ痛かったのが、まるで夢のようだと感じる。
「このボクを置いていったら、許さないんだから!」
うるせぇ。お前は出てくんな。
「先輩、うぅ……、護先輩――」
メソメソと泣く下獄は、なぜか大のほうだ。しおらしく泣くならせめて小のほうがよかった。
必死な形相の生徒や先生。その隙間から見える青空に、あぁ俺は今、倒れているんだと、やっと理解することが出来た。
あれ? なんで倒れてるんだ? つか、なんでこんなに囲まれてんだ?
なんでだっけ、なんでだっけ。
「うっ……げほっ、がはっ」
苦しくて咳が出た。溜まった血が口の端を零れ落ちて、俺のブレザーを真っ赤に染め上げる。それをぼーっと見、そこで自分の腹部を改めて見ることが出来て、そして気づいた。
なんで、腹に、鉄柱が刺さってんだ?
「ぁ、あぁ……っ」
ぐるぐると目が回る感覚がする。いや、回っているのは頭だったのかもしれない。
「キミたち、どきたまえ! 救急隊のかたが到着――」
囲む生徒を追い払う会長の声。遠くから「怪我をした生徒は――」と焦る大人の声がする。
もう、無理に決まってんだろ。だってこの鉄柱、貫通してんだぞ? 見ろよ、この血の量。何をしても助からないなんて、俺が一番わかってるっつの。
「御竿さん! 御竿さん! こんなの、こんな終わり方、あんまりです……!」
俺もそう思う。
あぁでも、お前を助けられてよかったよ。こういう終わりなら、ちょっとはアリかななんて思うんだ。
眠い。すごく眠い。
なんだかんだで、楽しい一年だった。本当に、ありがとな――
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ②
KZ
ファンタジー
初めましての人は初めまして。プロデューサーこと、主人公の白夜 零斗(はくや れいと)です。
2回目なので、俺については特に何もここで語ることはありません。みんなが知ってるていでやっていきます。
では、今回の内容をざっくりと紹介していく。今回はホワイトデーの話だ。前回のバレンタインに対するホワイトデーであり、悪魔に対するポンこ……天使の話でもある。
前回のバレンタインでは俺がやらかしていたが、今回はポンこ……天使がやらかす。あとは自分で見てくれ。
※※※
※小説家になろうにも掲載しております。現在のところ後追いとなっております※
ただあなたを守りたかった
冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。
ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。
ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。
両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。
その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。
与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。
令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。
ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。
だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。
領地にいたティターリエが拐われたというのだ。
どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。
婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。
表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。
ただティターリエの身を案じて。
そうして明らかになっていく真実とはーーー
※作者的にはハッピーエンドにするつもりですが、受け取り方はそれぞれなので、タグにはビターエンドとさせていただきました。
分かりやすいハッピーエンドとは違うかもしれません。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる