【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕

文字の大きさ
上 下
167 / 190
二月

食べられたら即終了。恐怖のチョコレート その7

しおりを挟む
 調理室を出てた俺は、とにかく助けを呼ばないとと考えていた。

「でも助けって……」

 ぶつぶつ呟きながら歩けば、いつの間にやら四階へ続く階段まで来ていたようだった。そうだ、この上は生徒会室がある。会長なら……!

「いや、今は授業中だよな。流石の会長もいるわけないか」
「呼んだか?」
「うわ!? 会長!?」

 背後から声をかけられ振り向けば、なんら姿の変わっていない会長が、片手に教科書を持って立っていた。そんな会長にツッコむヒマもなく、俺は会長の腕をがっしりと掴み、

「よかった会長! 大変なことになっていて……」

と強く揺さぶった。反動で教科書が落ち、俺は慌てて「すんません」と手を離した。会長は「構わん」と薄く笑い、教科書を拾い上げてから、

「それで護くん、大変なことというのは、もしや床を這うチョコレートのことだろうか」
「そ、そうなんすよ! 流石会長、なんでもお見通しっすね!」
「ふむ。高く評価しているところ悪いが、オレは状況を見て察しただけなのだが」

と俺に、いや俺の後ろに視線をやった。
 嫌な汗が背中を伝う。ギギギと効果音でも鳴りそうなほど、ぎこちなく、首を後ろに回せば、そのチョコは床をゆっくりと侵食してきていた。

「来てるううう!」

 思わず飛び上がり、チョコから離れるように会長の後ろに隠れた。

「これだけのチョコ、このオレでも食い切れんかもしれん」
「食うこと前提で話すな!」
「食物には違いない。ならば食さねば、作った者に対しても、形を変えた物に対しても失礼ではないか」
「ここでそれ言う!?」

 相変わらず変な会長である。
 確かに、食べ物は粗末にしちゃいけませんって散々言われてきたが、もはやこれを食べ物扱いしていいものか。
 慌てる俺とは反対に、会長は至って冷静に、床を這うチョコレートの前まで歩いていきしゃがむと、なんの脈絡もなくチョコレートを指先でペロリと舐めやがった。

「会長!?」
「ふむ。これはまた、なかなか味わい深い……」
「味わうなよ!」

 会長はあと二口、三口食べると、何かに気づいたのか「なるほど」と唇をぺろりと舐めた。

「どうやら誰かが給水塔に忍び込んだようだ」
「給水塔って……、屋上にあるアレか?」
「うむ」

 給水塔っていうのは、学校や団地の屋上についてる丸いアレのことな。確かにこの学校にもあった気がする。

「てか、今どき給水塔つけてたんすね」
「見た目にもいいかと思ってな。おもむき、というやつだ」
「金持ちのやることはよくわかんねぇ……」

 そう会長はドヤ顔でキメているが、その足元はチョコレートに侵食されている。折角現れた助っ人を呑まれてたまるかと、俺は「会長、危ない!」と再び腕を掴んだ。

「慌てるな、護くん」

 会長は問題ないというように片足を上げてみせる。クラスメイトみたいに呑まれるわけでもなく、会長の足はちゃんと存在していた。

「こんな混ざり物に、純粋培養育ちのオレが負ける理由はない」
「……」

 ふん、と鼻を鳴らしてみせる会長。俺は馬鹿らしくなって、掴んだ腕を突き放すように力を込めて離した。そんなんで会長がぐらつくはずはないんだけど。

「で? どうするつもりなんすか」

 会長に冷たい視線を当てながら聞いた。ウニョウニョとチョコにまとわりつかれた会長は、頭まですっぽりと覆われた格好のまま、

「何、簡単だ。キミがなんとかすればいい」

とどっから声を出してんのかわからん状態で答えてくれた。

「いや、俺ただのいち生徒だし。つか会長、どうやって喋ってんの? 息出来てる?」
「問題ない。少しくらい息が出来ずとも死にはせん」
「あぁ、そう……」

 人外、いや生物外の心配はいらないようだ。

「で、俺ただの生徒なんすけど」
「安心したまえ。キミは少し、他と違うだろう? それに甘んじればいい」

 会長の言葉に、ドキリと心臓が嫌な音を立てた。いや、会長はこのゲームの主要キャラなだけで、俺のことなんて、俺自身がなんなのかなんて、知るわけはないのに。

「まぁ、案ずるな。どちらに転んでもオレとしては面白い」
「は? それって……」

 ぐいと手を引かれ、俺は足をもつらせながらチョコへとダイブした。小さく悲鳴を上げて足を動かそうにも、重くて上手く持ち上がらない。
 そのまま全身が呑まれていき――


 ※


「うわあっ!?」

 意識が戻った時、そこは見慣れた自分の部屋だった。少し固いせんべい布団、紐がつけられた電灯、横で眠る牡蠣。窓からうっすらと差すのは、朝日だ。

「え……」

 慌ててスマフォを確認する。日付は二月十五日。時はいつの間にか進んでいた。
 いつも通り用意し学校へ向かう。
 教室には、呑まれたはずのクラスメイトたちがいて、今日はいつもの人間の姿のようだ。太刀根が「護!」と駆け寄ってくるのもいつも通り。

「……なぁ、昨日、何があったんだ?」
「昨日? あぁ、昨日は大変だったよなぁ。でもありがとな、護のおかげで助かったぜ!」
「は?」

 もちろん何かした覚えはこれっぽっちもない。それでも他のクラスメイトから「ありがとよ」や「助かったぜ」と言われる辺り、俺は何かをしたんだろう。
 このイベントには、どうやらもっと、違う攻略法があったらしい。二週目をするつもりは、全くないんだがな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...