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二月
食べられたら即終了。恐怖のチョコレート その1
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その日の俺は、朝からニヤけ顔が止まらなかった。どうしてかって?
そりゃあ、今日がバレンタインだからよ。まぁ、朝起きて母さんから「今日はチョコケーキ焼いとくわね」と言われて思い出したんだけど。
こんなBL世界で、果たしてバレンタインがあるのかは疑問でしかないが、一応、観手という彼女がいるのだ。少しくらい期待してもいいんじゃないだろうか。
「にしても……」
今日は静かだ。いつもなら、登校する生徒や出社するサラリーマン、送迎バスに乗り込んでいく幼稚園児たちがいるはず。
だけど、その誰ひとりとも、俺はすれ違ってすらいない。
「皆バレンタインで早いとか? いや、そんなまさか……」
奇妙な出来事に嫌な予感しかしないが、登校しないわけにもいかない。
いつもなら校門に立っている生徒指導の五里もいない。もちろん風紀の生徒も。
「なんだ? 一体どうしたんだ?」
誰もいない校門をくぐり、内履きに履き替えてから教室へと向かう。その間にも、誰とも会うことはなかった。
「おはよー……お!?」
ガラガラと教室の扉を開いて、俺はその光景に恐怖し再び扉を閉めた。なんだ? 俺の見間違いか? いや待て、そんなことあるわけない。
俺は自身を落ち着かせるため息を深く吸って、そして吐いてから、今度は恐る恐る扉を開いた。
「あ、護。はよー!」
声をかけてきたのは太刀根、のはずだ。
どういうことかって?
驚かないで聞いてほしい。教室内には、人型のチョコレートが大量にいたのだ。きちんとブレザーまで着込んで。
「護? どうしたんだよ、こっちに来いよー」
チョコレートがこちらに向かってくる。能面のどこから声が出ているのか不思議でならないが、とにかくそのチョコレートが恐くて、俺はもう一度扉を閉めた。
「バレンタインて、え? こういうイベントなの? “私を食べて(物理)”ってこと?」
舐めたら溶けるのかとか、むしろ食べたらどうなるんだとかあるけど、これだけは言える。
恐い。
「あらん? 御竿ちゃん、HR始めるわよぉ♪」
「牧地せんせっ……!?」
後ろから声が聞こえて振り返り、俺は言葉を失った。
そこには牧地の姿を型どったチョコレートが立っていた。そうだよな、やっぱりそうくるよな。
「や、あの、先生」
「なぁに?」
「なんか、こう、体調とか大丈夫っすか。その、熱くて溶けそうとか……」
わかっているとは思うが、今は二月、冬だ。夏なら“暑くて溶けそう”はアリだが、冬に“熱くて溶けそう”は自分でもなかなかに可笑しいと思う。
牧地はそんな俺に「やぁだぁ♪」と笑ってみせ、それから恥ずかしそうに身体をくねらせながら、
「昨日、鏡とやったこと、バレてるのかしら……?」
と知りたくもない情報を教えてくれた。
「いや。それならいいっす。なんかすみませんっした」
「うふふ♪ 今度、御竿ちゃんも来る?」
「遠慮するっす」
尚も恥ずかしがる牧地をほっといて、俺は三度扉を開いた。太刀根が「護!」と呼んできたのに対し「……よう」となるべく目を合わさないようにして返し、自分の席へと座る。
牧地が「HR始めるわよぉ♪」と入ってくるのを横目に見ながらあいつを探せば、あいつもまた、チョコレートへと変貌しているのが見えた。
そりゃあ、今日がバレンタインだからよ。まぁ、朝起きて母さんから「今日はチョコケーキ焼いとくわね」と言われて思い出したんだけど。
こんなBL世界で、果たしてバレンタインがあるのかは疑問でしかないが、一応、観手という彼女がいるのだ。少しくらい期待してもいいんじゃないだろうか。
「にしても……」
今日は静かだ。いつもなら、登校する生徒や出社するサラリーマン、送迎バスに乗り込んでいく幼稚園児たちがいるはず。
だけど、その誰ひとりとも、俺はすれ違ってすらいない。
「皆バレンタインで早いとか? いや、そんなまさか……」
奇妙な出来事に嫌な予感しかしないが、登校しないわけにもいかない。
いつもなら校門に立っている生徒指導の五里もいない。もちろん風紀の生徒も。
「なんだ? 一体どうしたんだ?」
誰もいない校門をくぐり、内履きに履き替えてから教室へと向かう。その間にも、誰とも会うことはなかった。
「おはよー……お!?」
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俺は自身を落ち着かせるため息を深く吸って、そして吐いてから、今度は恐る恐る扉を開いた。
「あ、護。はよー!」
声をかけてきたのは太刀根、のはずだ。
どういうことかって?
驚かないで聞いてほしい。教室内には、人型のチョコレートが大量にいたのだ。きちんとブレザーまで着込んで。
「護? どうしたんだよ、こっちに来いよー」
チョコレートがこちらに向かってくる。能面のどこから声が出ているのか不思議でならないが、とにかくそのチョコレートが恐くて、俺はもう一度扉を閉めた。
「バレンタインて、え? こういうイベントなの? “私を食べて(物理)”ってこと?」
舐めたら溶けるのかとか、むしろ食べたらどうなるんだとかあるけど、これだけは言える。
恐い。
「あらん? 御竿ちゃん、HR始めるわよぉ♪」
「牧地せんせっ……!?」
後ろから声が聞こえて振り返り、俺は言葉を失った。
そこには牧地の姿を型どったチョコレートが立っていた。そうだよな、やっぱりそうくるよな。
「や、あの、先生」
「なぁに?」
「なんか、こう、体調とか大丈夫っすか。その、熱くて溶けそうとか……」
わかっているとは思うが、今は二月、冬だ。夏なら“暑くて溶けそう”はアリだが、冬に“熱くて溶けそう”は自分でもなかなかに可笑しいと思う。
牧地はそんな俺に「やぁだぁ♪」と笑ってみせ、それから恥ずかしそうに身体をくねらせながら、
「昨日、鏡とやったこと、バレてるのかしら……?」
と知りたくもない情報を教えてくれた。
「いや。それならいいっす。なんかすみませんっした」
「うふふ♪ 今度、御竿ちゃんも来る?」
「遠慮するっす」
尚も恥ずかしがる牧地をほっといて、俺は三度扉を開いた。太刀根が「護!」と呼んできたのに対し「……よう」となるべく目を合わさないようにして返し、自分の席へと座る。
牧地が「HR始めるわよぉ♪」と入ってくるのを横目に見ながらあいつを探せば、あいつもまた、チョコレートへと変貌しているのが見えた。
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