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一月
大パニック!? 寒中マラソン大会 その3
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運動が得意でも不得意でもないが、この世界で過ごすうちに体力だけはやたらついていたらしい。それほど息切れすることなく、俺は順調に街中を走っていた。
「結構余裕そうだね」
隣を涼しい顔で走る猫汰が、汗ひとつかいている素振りを見せずに言う。「そっちこそ」と若干汗をかきながら答えれば、猫汰は口の端に少しだけ持ち上げてみせた。
「なぁ、武器ってどこにあんの」
だいぶ走ったと思う。実際、観客が持つプラカードには“あと七キロ!”とあるし、つまりはこの三キロ以内で武器などひとつも見ていない。
武器がどんなんかは知らんが。
「そうだね……。多分、そろそろ武器を手に入れる人が出てくると思うんだけど」
そう言い、猫汰は辺りを見回してから「ほら」と右斜め前を指差した。
「武器もらってる人、見えるかい?」
「ん?」
指の先を追えば、俺たちと同じ色のジャージを着た生徒が、商店街の軒先で、おじちゃんから何かしら受け取っているところだった。
「待って武器って買うの!? つか商店街に売ってんの!?」
「まさか。この時期になると支給されるだけだよ」
「支給って何!」
一体どこの軍隊だ。
とりあえず俺も武器をもらおうとするが、いかんせん、どの店に入れば武器をもらえるのかがわからない。もう少し走りながら様子を見るかと、俺はそのまま商店街を駆け抜けた。
商店街を抜け、まばらになってきた家屋を横目に走り、次に見えてきたのは河川敷だ。大きな川のあるここは、夏になると花火大会があるらしいのだが、今回の俺は無人島に連れて行かれたため、その花火を見逃している。
だからといって二週目をする気など全くないのだが。
「そういや太刀根がいねぇな」
どこではぐれたのかすらわからんし、いてもいなくても変わらんから気にもしてなかったわ。
隣の猫汰なんかは最初から気にしてないのか「さぁね」とまともに答えるつもりはないらしい。
「でもそろそろ足が……」
ハイペースではないにしろ、それなりのペースで走ってきた。ここまで来るのにどれだけの生徒を追い抜いたか、それすらももう数えていない。
「御竿くん、疲れたら言って。僕がおぶるから」
「もうそれマラソンじゃないんだわ」
「いつでも準備は出来てるから」
「なんの準備だよ」
もちろんおぶられるつもりなど毛頭ない。なんとか足を叱咤しながら走っていると、
「まーもーるー!」
とどこかに消えていた奴の声が後ろから聞こえてきた。
「おー、太刀根、どこ行って……って何それ」
後ろから現れた太刀根は、ガラガラガラガラとすごい音を響かせながら、台車を走らせてきたのだ。荷物でも入っているのか、段ボールが乗っている。
「それ何!?」
「いつも世話んなってる商店街のばあちゃんから借りた!」
「返してきなさい! ばあちゃん困っちゃうだろ!」
「大丈夫だって! ばあちゃん応援してくれたし!」
「そういう問題じゃねぇよ!」
第一こんなもん持ってどうするつもりなんだとか、これ持って追いついてこれたのとか、色々言いたいことはそりゃあ、あるさ。
でも無駄に話して体力を使いたくはない。俺はもう無視しようと決め込んだ。
「なぁ、護! 乗れよ! 疲れてんだろ?」
「だからこれマラソンな。それじゃ意味ないよな」
「これ武器だから違反でも反則でもないぞ!」
「武器!? 思ってたのとなんか違う!」
攻撃するために持つんじゃないのかよ!
いやでも、反則じゃないならいいんじゃないか? そんな邪な気持ちが芽生え、少しくらい乗せてもらおうかとちらりと見た時だ。
「もう、乗るなら早く乗りなよね!」
段ボールのフタがパカリと開いて、中からセンパイが出てきやがったのだ。
「おい! なんつうもん乗せてきやがったんだ!」
俺は慌ててフタを閉めてから、鬼のような形相で太刀根を睨みつけた。
「あれ、乗らねぇの?」
「乗るか馬鹿! これ三年生じゃねぇか! 捨ててこいよ!」
「いやぁ、なんか道端で倒れてたからさ」
「拾っていいやつと駄目なやつの判断くらいわかれよ!」
尚も内側からフタを開けようと叩く音がする。つかなんでこのセンパイはこういう箱に入れちゃうの!?
「護が言うなら仕方ないな。ほいっ」
「あああああっ」
太刀根はすんなりと台車を傾け、段ボールを河川敷へと放り捨てた。そのまま転がっていき、どぶんと川に入っていく。響き渡る悲鳴を後ろに聞きながら、どうせ死なんだろと俺は空いた台車に乗り込んだ。
「結構余裕そうだね」
隣を涼しい顔で走る猫汰が、汗ひとつかいている素振りを見せずに言う。「そっちこそ」と若干汗をかきながら答えれば、猫汰は口の端に少しだけ持ち上げてみせた。
「なぁ、武器ってどこにあんの」
だいぶ走ったと思う。実際、観客が持つプラカードには“あと七キロ!”とあるし、つまりはこの三キロ以内で武器などひとつも見ていない。
武器がどんなんかは知らんが。
「そうだね……。多分、そろそろ武器を手に入れる人が出てくると思うんだけど」
そう言い、猫汰は辺りを見回してから「ほら」と右斜め前を指差した。
「武器もらってる人、見えるかい?」
「ん?」
指の先を追えば、俺たちと同じ色のジャージを着た生徒が、商店街の軒先で、おじちゃんから何かしら受け取っているところだった。
「待って武器って買うの!? つか商店街に売ってんの!?」
「まさか。この時期になると支給されるだけだよ」
「支給って何!」
一体どこの軍隊だ。
とりあえず俺も武器をもらおうとするが、いかんせん、どの店に入れば武器をもらえるのかがわからない。もう少し走りながら様子を見るかと、俺はそのまま商店街を駆け抜けた。
商店街を抜け、まばらになってきた家屋を横目に走り、次に見えてきたのは河川敷だ。大きな川のあるここは、夏になると花火大会があるらしいのだが、今回の俺は無人島に連れて行かれたため、その花火を見逃している。
だからといって二週目をする気など全くないのだが。
「そういや太刀根がいねぇな」
どこではぐれたのかすらわからんし、いてもいなくても変わらんから気にもしてなかったわ。
隣の猫汰なんかは最初から気にしてないのか「さぁね」とまともに答えるつもりはないらしい。
「でもそろそろ足が……」
ハイペースではないにしろ、それなりのペースで走ってきた。ここまで来るのにどれだけの生徒を追い抜いたか、それすらももう数えていない。
「御竿くん、疲れたら言って。僕がおぶるから」
「もうそれマラソンじゃないんだわ」
「いつでも準備は出来てるから」
「なんの準備だよ」
もちろんおぶられるつもりなど毛頭ない。なんとか足を叱咤しながら走っていると、
「まーもーるー!」
とどこかに消えていた奴の声が後ろから聞こえてきた。
「おー、太刀根、どこ行って……って何それ」
後ろから現れた太刀根は、ガラガラガラガラとすごい音を響かせながら、台車を走らせてきたのだ。荷物でも入っているのか、段ボールが乗っている。
「それ何!?」
「いつも世話んなってる商店街のばあちゃんから借りた!」
「返してきなさい! ばあちゃん困っちゃうだろ!」
「大丈夫だって! ばあちゃん応援してくれたし!」
「そういう問題じゃねぇよ!」
第一こんなもん持ってどうするつもりなんだとか、これ持って追いついてこれたのとか、色々言いたいことはそりゃあ、あるさ。
でも無駄に話して体力を使いたくはない。俺はもう無視しようと決め込んだ。
「なぁ、護! 乗れよ! 疲れてんだろ?」
「だからこれマラソンな。それじゃ意味ないよな」
「これ武器だから違反でも反則でもないぞ!」
「武器!? 思ってたのとなんか違う!」
攻撃するために持つんじゃないのかよ!
いやでも、反則じゃないならいいんじゃないか? そんな邪な気持ちが芽生え、少しくらい乗せてもらおうかとちらりと見た時だ。
「もう、乗るなら早く乗りなよね!」
段ボールのフタがパカリと開いて、中からセンパイが出てきやがったのだ。
「おい! なんつうもん乗せてきやがったんだ!」
俺は慌ててフタを閉めてから、鬼のような形相で太刀根を睨みつけた。
「あれ、乗らねぇの?」
「乗るか馬鹿! これ三年生じゃねぇか! 捨ててこいよ!」
「いやぁ、なんか道端で倒れてたからさ」
「拾っていいやつと駄目なやつの判断くらいわかれよ!」
尚も内側からフタを開けようと叩く音がする。つかなんでこのセンパイはこういう箱に入れちゃうの!?
「護が言うなら仕方ないな。ほいっ」
「あああああっ」
太刀根はすんなりと台車を傾け、段ボールを河川敷へと放り捨てた。そのまま転がっていき、どぶんと川に入っていく。響き渡る悲鳴を後ろに聞きながら、どうせ死なんだろと俺は空いた台車に乗り込んだ。
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