145 / 190
一月
俺は邪魔をされずにデートをしたい その3
しおりを挟む
鏡華ちゃんからもらったタコを、境内の隅にある屋根付きスペースで食べてから、次はお守りでも買うかと観手と向かう。太刀根と猫汰は勝手についてきてるだけだ、断じて誘ったわけではない。
「わ~、この商売繁盛可愛いですね。これにしようかな」
「見た目じゃなく効力で選べよ」
「だってずっとつけてるんですよ? 可愛いほうがいいじゃないですか~」
そう言って、観手は巫女さん(たぶんアルバイト)にクマモチーフのお守りを渡した。クマの背中に“商売繁盛”と書かれてあり、とりつけやすいように長い紐が頭についている。
可愛さで選ぶとか基準が全くわからんが、俺は俺で違うものを選ぶ。厄除け、学業成就、交通安全……、ここはやっぱり厄除けかと手を伸ばしたところで。
「護、これにしようぜ!」
「これ? ……安産祈願じゃねぇか!」
太刀根が意気揚々と指差したのは、可愛らしいピンク色の小袋に“安産祈願”と書かれたお守りだ。
「え、何? あぁ、わかった。太刀根、お前、メイドさんに悪さしたんだな。駄目だろ。でも責任持つのはいいことだと思う、頑張れよ」
口を挟む余地など与えず、俺は構うことなく厄除けを手に取った。それを近く巫女さんに「お願いします」と差し出した。巫女さんが「五〇〇円お納めください」と笑う。
「何言ってんだよ。俺と護に決まってるだろ? 大丈夫。俺が支えるからさ」
「俺の穴からは便しか出る予定はありません。はい、五〇〇円」
巫女さんがお守りを小袋に入れ、お金を渡してそれを受け取る。太刀根は一人妄想中なのか「俺がついてるから」とか「楽しみだなぁ」とかふざけたことを言いながら、安産祈願を買ったようだった。
少し離れたところでは、猫汰も何か買ったようで、巫女さんに代金を渡しているところだった。猫汰のわりに静かなのが気になり「猫汰」と平静を装いながら近づいていく。
「何買ったんだ?」
「大したものじゃないよ。それより御竿くん、唾液を少しくれないかな? 髪の毛と爪はもうあるから」
「待て。何をするつもりだ。一体何を買ったんだ」
嫌な予感しかしない。
俺はいけないと思いつつ、半ば無理やりに猫汰から袋を奪い取り、その中身を確認する。
中に入っていたのは赤色の四角いお守りだ。縛る部分に小さなハートの小物がついていて、それだけでそれがなんのお守りか察しがついた。
「これ、恋愛成就か?」
「一般的にはそう言われているね」
「“一般的”ってどゆこと」
なんだろう、これを猫汰に返しちゃいけない気がする。猫汰が「もういいかな」と返してほしそうにするのを「あ、や、まだ」と躊躇っていると、
「あれ? 護先輩?」
と社務所から声が聞こえてきた。
「下獄?」
巫女さんたちの中に、ひときわ目立つピンク髪が見え、俺も反射で名前を呼んだ。すると下獄は嬉しそうに「やっぱり先輩だったんですね!」と嬉しそうにこちらへやって来た。
着ている袴の色は何も言うまい。今は男女で色を分けるなんてしないし。
「初詣で護先輩と会えるなんてウチ嬉しいです! あれ、そのお守り……」
そう下獄が見ているのは、俺の手にある猫汰の恋愛成就のお守りだ。
「先輩、もしかして、ウチのために……? そんなことしなくてもいいのに」
「違う違う。これ猫汰が買ったやつ」
「猫汰先輩が?」
下獄は猫汰を見て「あぁ」と何か納得したような声を上げて、それから意地の悪い笑みを浮かべた。猫汰が悔しげに小さく舌打ちもした。
「それ、すごい効果なんですよ。確か意中の人の髪の毛、爪、それから体液を、自分のものと混ぜ合わせて袋の中に入れるんです。そしたらそれを七日間、蝋を垂らしてがっちり固めた後、垂らすのに使用した蝋燭で燃やすんです。そうすればその人の心は永遠に自分のモノに……。ですよね、猫汰先輩?」
「チッ。余計なことを」
余計でもなんでもねぇよ。なんつう怖いもん売ってんだ、この神社は。俺は新品未開封のお守りを下獄に突っ返しながら、
「返金対応出来る?」
「あ、はい、大丈夫ですよ。ではこちら、五万円お返ししますね」
「ごっ……!?」
と受け取ったお札を、渋い表情の猫汰に無理やり握らせた。
「わ~、この商売繁盛可愛いですね。これにしようかな」
「見た目じゃなく効力で選べよ」
「だってずっとつけてるんですよ? 可愛いほうがいいじゃないですか~」
そう言って、観手は巫女さん(たぶんアルバイト)にクマモチーフのお守りを渡した。クマの背中に“商売繁盛”と書かれてあり、とりつけやすいように長い紐が頭についている。
可愛さで選ぶとか基準が全くわからんが、俺は俺で違うものを選ぶ。厄除け、学業成就、交通安全……、ここはやっぱり厄除けかと手を伸ばしたところで。
「護、これにしようぜ!」
「これ? ……安産祈願じゃねぇか!」
太刀根が意気揚々と指差したのは、可愛らしいピンク色の小袋に“安産祈願”と書かれたお守りだ。
「え、何? あぁ、わかった。太刀根、お前、メイドさんに悪さしたんだな。駄目だろ。でも責任持つのはいいことだと思う、頑張れよ」
口を挟む余地など与えず、俺は構うことなく厄除けを手に取った。それを近く巫女さんに「お願いします」と差し出した。巫女さんが「五〇〇円お納めください」と笑う。
「何言ってんだよ。俺と護に決まってるだろ? 大丈夫。俺が支えるからさ」
「俺の穴からは便しか出る予定はありません。はい、五〇〇円」
巫女さんがお守りを小袋に入れ、お金を渡してそれを受け取る。太刀根は一人妄想中なのか「俺がついてるから」とか「楽しみだなぁ」とかふざけたことを言いながら、安産祈願を買ったようだった。
少し離れたところでは、猫汰も何か買ったようで、巫女さんに代金を渡しているところだった。猫汰のわりに静かなのが気になり「猫汰」と平静を装いながら近づいていく。
「何買ったんだ?」
「大したものじゃないよ。それより御竿くん、唾液を少しくれないかな? 髪の毛と爪はもうあるから」
「待て。何をするつもりだ。一体何を買ったんだ」
嫌な予感しかしない。
俺はいけないと思いつつ、半ば無理やりに猫汰から袋を奪い取り、その中身を確認する。
中に入っていたのは赤色の四角いお守りだ。縛る部分に小さなハートの小物がついていて、それだけでそれがなんのお守りか察しがついた。
「これ、恋愛成就か?」
「一般的にはそう言われているね」
「“一般的”ってどゆこと」
なんだろう、これを猫汰に返しちゃいけない気がする。猫汰が「もういいかな」と返してほしそうにするのを「あ、や、まだ」と躊躇っていると、
「あれ? 護先輩?」
と社務所から声が聞こえてきた。
「下獄?」
巫女さんたちの中に、ひときわ目立つピンク髪が見え、俺も反射で名前を呼んだ。すると下獄は嬉しそうに「やっぱり先輩だったんですね!」と嬉しそうにこちらへやって来た。
着ている袴の色は何も言うまい。今は男女で色を分けるなんてしないし。
「初詣で護先輩と会えるなんてウチ嬉しいです! あれ、そのお守り……」
そう下獄が見ているのは、俺の手にある猫汰の恋愛成就のお守りだ。
「先輩、もしかして、ウチのために……? そんなことしなくてもいいのに」
「違う違う。これ猫汰が買ったやつ」
「猫汰先輩が?」
下獄は猫汰を見て「あぁ」と何か納得したような声を上げて、それから意地の悪い笑みを浮かべた。猫汰が悔しげに小さく舌打ちもした。
「それ、すごい効果なんですよ。確か意中の人の髪の毛、爪、それから体液を、自分のものと混ぜ合わせて袋の中に入れるんです。そしたらそれを七日間、蝋を垂らしてがっちり固めた後、垂らすのに使用した蝋燭で燃やすんです。そうすればその人の心は永遠に自分のモノに……。ですよね、猫汰先輩?」
「チッ。余計なことを」
余計でもなんでもねぇよ。なんつう怖いもん売ってんだ、この神社は。俺は新品未開封のお守りを下獄に突っ返しながら、
「返金対応出来る?」
「あ、はい、大丈夫ですよ。ではこちら、五万円お返ししますね」
「ごっ……!?」
と受け取ったお札を、渋い表情の猫汰に無理やり握らせた。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。


屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる