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一月
俺は邪魔をされずにデートをしたい その2
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四人で鳥居をくぐり、まず最初に参拝だけ済ませようと、少し並んでいる列の最後尾についた。何が嬉しくて、男二人に挟まれ手を合わせにゃならんのかわからんが、とりあえず願掛けするため拝む。
もちろん願いは“ゲームクリア”ではなく“この二人が早く帰りますように”だ。それくらい願ってもバチは当たらんだろう。
参拝をして、おみくじを引いて。あとは定番の出店だ。
とりあえず一番近くにあったたこ焼き屋に向かう。その店先に立つ紫髪の長身野郎が「あら♪」と笑顔になるのを見て、俺は「うわ」と反射で顔をしかめた。
「御竿ちゃんじゃない♪ 今日は……、観手ちゃんと初詣かしら?」
含み笑いを見せた牧地に、俺は「ま、まぁ」と赤くなるのを押し隠しながら答えれば、
「違いますよ牧地先生。御竿くんは僕と観手さんにそこで会って僕と初詣を回る予定だったんですけどたまたま太刀根くんが来てしまったから成り行きでいるだけで、そもそも初詣という一年の幸先を決めるといっても過言ではない大事な行事をなぜ太刀根くんと回らなければならないのか僕は心底疑問なのですが」
「牧地センセー、今日は小遣い稼ぎっすか?」
と割り込んできた二人に小さく舌打ちするも、猫汰はまだなんか言ってるし、太刀根に関しては目を輝かせながら箱に入っているたこ焼きを見つめている。
「違うわよ♪ 今日は地域活動の一環として出店をやってるだけ。ほら」
牧地に言われて出店の奥を見れば、ものすごい早さでタコを切り刻み、生地をこねくり回し、たこ焼きを回転させている鏡華ちゃんがいた。
到底一人とは思えないその早さに、屹立家に携わる奴らは、人外じゃないといけないルールでもあるのかと考えた。
「じゃ、じゃあ、とりあえずたこ焼きふたつ……って、牧地先生、この“たこ焼きひとつ六〇〇円”って何?」
お品書きには一箱二〇〇円とある。ちなみに六個入りだ。
ならこっちの六〇〇円はなんだ?
「あぁこっち? じゃ、先生のおごりにしてあげるから食べてみなさいな♪ 鏡、タコふたつぅ♪」
ご機嫌な牧地の声が響く。鏡華ちゃんは視線をちらりと上げ、俺たちに「よう」と口だけで受け答えすると、足元のクーラーボックスを開けた。
そこからヌメヌメとした赤い触手が出てくるのが見えて、俺はまさか……と引きつった笑いを浮かべる。
「すぐに焼けるからこっちで待っててねぇ♪ 次のお客様ぁ」
俺たちは言われた通りに横にずれ、鏡華ちゃんが取り出した物体、タコをただ呆然と見つめていた。
鉄板に乗せられ丸ごと焼かれていくタコ。それを上手いこと焼きながら、鏡華ちゃんは「おい」と裏手に向かって話しかけた。
「終、そっちからもう一杯持ってこい」
「なんでボクが……。ボクは屹立家なのに……」
裏から顔を覗かせたのはセンパイだ。心底嫌そうな顔をするも、鏡華ちゃんには逆らえないのか、ブツブツと何か口にしながらも裏からクーラーボックスを持ってきた。
結構デカい。人ひとりくらい難なく入りそうだ。
「はい」
「“はい”じゃねぇ。タコ出して鉄板に乗せやがれ」
「ただの主治医のくせに命令しないで」
「昼のおやつ出さねぇぞ」
「……わかった」
おやつに釣られ、センパイは渋々ながらクーラーボックスを開ける。触手がヌメっと出てきたかと思うと、そのままセンパイの手に巻き付いて、クーラーボックスに引っ張り込んだ。
「あぁ!?」
上半身をクーラーボックスに突っ込んだまま、センパイは足をバタバタさせ、なんとか出ようと試行錯誤しているようだ。
「や、やだ! ちょっと鏡華、ねぇ! あ、やっ」
最初はバタついていた足が、ビクビクと震えだしたところで、俺は鏡華ちゃんに「ひとつでいいわ」と現在進行中で焼かれているタコを指差した。
「そうか、すまねぇな。終の奴が手際が悪いばっかりに」
「いや、うん、てかあのタコは食べたくないっつうか」
なるべく視界に入らないようにしているが、時折聞こえてくる「やっ、そこぉ」だの「吸いつかないでぇ……っ」だのは耳を塞がない限り聞こえてきそうだ。
「ほれ、待たせたな」
「ありがと、鏡華ちゃん」
湯気が上がるタコを立派な紙皿に乗せられ、俺は鏡華ちゃんからタコを受け取る。
ちらりとクーラーボックスを見れば、そこにはセンパイの姿はなく、代わりにセンパイの履いていたであろう靴と服が、クーラーボックスの近くに落ちていた。
もちろん願いは“ゲームクリア”ではなく“この二人が早く帰りますように”だ。それくらい願ってもバチは当たらんだろう。
参拝をして、おみくじを引いて。あとは定番の出店だ。
とりあえず一番近くにあったたこ焼き屋に向かう。その店先に立つ紫髪の長身野郎が「あら♪」と笑顔になるのを見て、俺は「うわ」と反射で顔をしかめた。
「御竿ちゃんじゃない♪ 今日は……、観手ちゃんと初詣かしら?」
含み笑いを見せた牧地に、俺は「ま、まぁ」と赤くなるのを押し隠しながら答えれば、
「違いますよ牧地先生。御竿くんは僕と観手さんにそこで会って僕と初詣を回る予定だったんですけどたまたま太刀根くんが来てしまったから成り行きでいるだけで、そもそも初詣という一年の幸先を決めるといっても過言ではない大事な行事をなぜ太刀根くんと回らなければならないのか僕は心底疑問なのですが」
「牧地センセー、今日は小遣い稼ぎっすか?」
と割り込んできた二人に小さく舌打ちするも、猫汰はまだなんか言ってるし、太刀根に関しては目を輝かせながら箱に入っているたこ焼きを見つめている。
「違うわよ♪ 今日は地域活動の一環として出店をやってるだけ。ほら」
牧地に言われて出店の奥を見れば、ものすごい早さでタコを切り刻み、生地をこねくり回し、たこ焼きを回転させている鏡華ちゃんがいた。
到底一人とは思えないその早さに、屹立家に携わる奴らは、人外じゃないといけないルールでもあるのかと考えた。
「じゃ、じゃあ、とりあえずたこ焼きふたつ……って、牧地先生、この“たこ焼きひとつ六〇〇円”って何?」
お品書きには一箱二〇〇円とある。ちなみに六個入りだ。
ならこっちの六〇〇円はなんだ?
「あぁこっち? じゃ、先生のおごりにしてあげるから食べてみなさいな♪ 鏡、タコふたつぅ♪」
ご機嫌な牧地の声が響く。鏡華ちゃんは視線をちらりと上げ、俺たちに「よう」と口だけで受け答えすると、足元のクーラーボックスを開けた。
そこからヌメヌメとした赤い触手が出てくるのが見えて、俺はまさか……と引きつった笑いを浮かべる。
「すぐに焼けるからこっちで待っててねぇ♪ 次のお客様ぁ」
俺たちは言われた通りに横にずれ、鏡華ちゃんが取り出した物体、タコをただ呆然と見つめていた。
鉄板に乗せられ丸ごと焼かれていくタコ。それを上手いこと焼きながら、鏡華ちゃんは「おい」と裏手に向かって話しかけた。
「終、そっちからもう一杯持ってこい」
「なんでボクが……。ボクは屹立家なのに……」
裏から顔を覗かせたのはセンパイだ。心底嫌そうな顔をするも、鏡華ちゃんには逆らえないのか、ブツブツと何か口にしながらも裏からクーラーボックスを持ってきた。
結構デカい。人ひとりくらい難なく入りそうだ。
「はい」
「“はい”じゃねぇ。タコ出して鉄板に乗せやがれ」
「ただの主治医のくせに命令しないで」
「昼のおやつ出さねぇぞ」
「……わかった」
おやつに釣られ、センパイは渋々ながらクーラーボックスを開ける。触手がヌメっと出てきたかと思うと、そのままセンパイの手に巻き付いて、クーラーボックスに引っ張り込んだ。
「あぁ!?」
上半身をクーラーボックスに突っ込んだまま、センパイは足をバタバタさせ、なんとか出ようと試行錯誤しているようだ。
「や、やだ! ちょっと鏡華、ねぇ! あ、やっ」
最初はバタついていた足が、ビクビクと震えだしたところで、俺は鏡華ちゃんに「ひとつでいいわ」と現在進行中で焼かれているタコを指差した。
「そうか、すまねぇな。終の奴が手際が悪いばっかりに」
「いや、うん、てかあのタコは食べたくないっつうか」
なるべく視界に入らないようにしているが、時折聞こえてくる「やっ、そこぉ」だの「吸いつかないでぇ……っ」だのは耳を塞がない限り聞こえてきそうだ。
「ほれ、待たせたな」
「ありがと、鏡華ちゃん」
湯気が上がるタコを立派な紙皿に乗せられ、俺は鏡華ちゃんからタコを受け取る。
ちらりとクーラーボックスを見れば、そこにはセンパイの姿はなく、代わりにセンパイの履いていたであろう靴と服が、クーラーボックスの近くに落ちていた。
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