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十二月

七匹のオオカミと一人の人間、そして牡蠣? その16

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「ああああぁぁぁぁぁ――」

 俺の悲鳴が後ろから聞こえる。いや、これは音を置き去りにしているのか? それくらい、とにかく速かった。首がもげなかったのが不思議なくらいだ。

「お、見えてきたぜマモル!」
「ぎゃああああああ!?」

 この風速(光速?)の中でも平常運転の牡蠣が「ほれほれ」と先を見るよう促してきた。正直速すぎて景色も何もあったもんじゃなかったが、俺の目指す先に暗闇が広がっていることはわかる。
 隣を流れていく窓や教室が、俺に追いつこうと速度を上げるが、それをじっくり確実に引き離していく。俺は無限を超えるって可能なんだなと、どこか他人事のように思っていた。
 そうして暗闇の中に突っ込んでいった頃、被り物はプスプスと焦げた臭いを発しだし、俺を射出するように床へと吐き出した。

「いっ……!」

 尻から打ったからまだいいが、頭からいってたらやばかったんじゃないだろうか。そんなことを思いながら被り物を見れば、青白い炎に包まれて燃えていた。

「これ帰れなくね?」
「まだ帰る必要ないだろ?」

 いつの間に降りたのやら。
 牡蠣は軽快に跳ねながら、ずんずんと臆することなく先を歩いていく。俺も見失わないようにと、その真っ暗な中を歩き始めた。
 そこはまるで、ゲームでいうバグみたいな場所だと思った。通常プレイでは行けない、裏ワザを使わないと行けないような場所。データも何も存在しない、無。

「実際に歩くと不思議なもんだな」
「ま、そりゃあ普通は来ねぇトコだし。ほれ、いたぞ?」

 牡蠣に示されるまま先を見れば、ぼんやりと人影が動くのが見えた。俺は合流しようと足早に地面を蹴る。

「おい!」

 名前が出てこないため、失礼かとも思ったがそう呼んだ。すると黒髪のそいつは、歩んでいた足を止め、ゆったりとした動作で振り返り、驚いたようにその目を大きく見開いた。

「御竿、さん?」

 色素の少し薄い唇から出てきた声は、なぜ俺がここにいるのか理解出来てない、そんな感じの言い方だった。

「あぁそうだよ、俺だ。やっと見つけた」
「見つけた……?」

 そいつは俺の言葉を繰り返し、それから可笑しくて堪らないとばかりに声を出して笑った。

「な、何が可笑しいんだよ!?」

 俺は少し気恥ずかしくなって、それを誤魔化すようにわざと声を荒らげて言い放った。そいつは「だ、だって……っ」と切らしていた息を整えてから、

「私の“名前”すら出てこないのに見つけたって……。一体誰を見つけたっていうんですか」

と皮肉めいた笑みを張りつけた。確かにそうだ。俺はこいつの名前を知らない、顔もやっと今知った、いや思い出せたところだ。
 何も言い返せず、俺は悔しさから唇を噛んだ。

「じゃ、私、もう行きますね」

 そう背を向けたそいつは、やけにゆっくりと歩いているように見えた。だから俺は「なぁ」と絞り出すように声を発した。そいつは立ち止まってはくれたものの、振り返ることはしない。

「なんで、行っちまうんだよ」
「これ以上、ここに留まるのが無理そうだからです。元々、貴方の“死”はイレギュラーでした。それを無理に転生させたことで、私はほとんど力を失くしてしまいましたし」
「なんだイレギュラーって。俺を転生し直してくれるんじゃねぇのかよ」

 そいつは「忘れてませんよ」と振り返る。その目には、強い意志が感じられた。

「だから私は、自分を形造る力そのもので、貴方を転生させるんです。まぁ、クリアしないと転生は出来ないので、そこは頑張って頂きますけど……」
「なんだよ、そりゃ」

 気づかなかった。いや、言ってこなかったのはこいつだし、知らなくて当然だ。だけどその勝手な行動に、俺は段々苛立ってきた。

「御竿さんが誰を選ぶのか気になりますが、仕方ありません。どうか、幸せになってくださいね」
「……っせえ」

 なんだ、その身勝手な思いは。

「うっせえんだよ! 俺のことを、なんでも勝手に決めてんじゃねぇよ!」

 自分でも驚くほどに出たデカい声は、その暗い場所を、確かに震わせた。 
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