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十二月

七匹のオオカミと一人の人間、そして牡蠣? その10

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 ひとえに探すと言っても、この講堂は広い。しかも全生徒が来ているのだから、尚更目当ての奴を探すなんて厳しいだろう。
 ~~♪ ~♪
 とりあえず電話をかけてみる。だが一向に繋がる気配はなかった。あいつのことだ、見るのに夢中で気づいていないのかもしれない。

「Raineだけしておくか……」

 よくあるメッセージアプリで、簡単に“どこにいんだ?”とだけ送ってから、俺はまただだっ広い講堂を歩き出した。
 知る顔がいないかと辺りを見回すも、主要キャラや必要なキャラ以外にはコストをかけていないのか、その顔は点目であったり、モブと書かれてあるだけだったりと、改めて見るとぞっとするような光景が広がっている。

「あら、御竿ちゃん♪」

 呼ばれて振り返れば、担任の牧地がワイングラス片手に立っている。すらりとした紫のドレス(マーメイドドレスってやつ?)、それに合わせた紫のハイヒールも相まって、ただでさえ身長が高いのに更に高く見える。

「どもっす。つかよく俺だってわかりましたね」

 今の俺は、しつこいようだが被り物で顔を隠している状態だ。いくらモブの顔がああだからって、被り物の中まで覗けるもんなのか?

「んもう。アタシは御竿ちゃんの先生なのよ? わかって当たり前じゃない♪」
「……そっすか」

 あまり深くは聞くまい。

「あ。なら先生、観手がどこらへんかもわかります?」

 今の言い様なら、牧地は生徒がどこにいるかを把握してそうだし、聞いといて損はないはずだ。そんな気軽な気持ちで聞いたのに、牧地は俺の期待とは正反対に、

「観、手……?」

とまるで何も知らないかのように、その名前を繰り返した。その反応がやけに生々しくて。俺は自分の中に芽生えた疑念を振り払いたくて、もう一度牧地に、

「そうだよ。観手ですよ、先生。観手ますよ。クラスメイトの」

と今度は詰め寄るようにして聞いた。
 だけど、やっぱり牧地の反応はさっきと同じで、むしろ「駄目よ?」と咎めるような視線を向けてきた。

「先生をからかうなんて、いくら御竿ちゃんでも許さないんだからね♪」
「からかう……? 俺が先生を? ちょっと待ってくれ先生。ちゃんと調べてくれれば……」
「ほらほら、御竿ちゃんもパーティを楽しんでらっしゃいな。先生も今日は楽しんじゃうから♪」

 俺が引き止めるのも構わずに、牧地は「あら? 五里ゴリ先生♪」と違う教師の元へ歩いていく。
 伸ばした手が虚しく、とりあえず下げてから「なぁ」と俺は頭に乗る牡蠣に話しかける。

「どした、マモル」
「お前はわかるよな? 知ってるよな、観手のこと。ほら、修学旅行で見たあの黒髪の女子生徒だよ」

 こいつなら知ってるはずだ。だって散々、因果がどうのとか、囚われてない外部から連れてこいとか言ってたし。

「……残念だがマモル。おれも知らん」
「なんでっ」

 つい声を荒げてしまい、横を通り過ぎたバニーから変な目で見られてしまう。だけどそれを気にする余裕もなく、俺はもう一度「なんで……」と呟いて、牡蠣を両手で持った。

「まぁ、落ち着け、マモル。これは因果律が牙を剥いていやがるんだ。その存在を消そうとしている。だからあのカマ先生も、おれも、いや恐らく誰も知らないんだろう」

 牡蠣の声がやたら優しい。
 そんなに俺は情けない顔をしていただろうか。そんなに俺は、焦っていただろうか。

「じゃ、なんでお前は、俺が誰かを探してるってわかるんだよ。なんで俺は、俺だけは、あいつを……。あいつを、覚えて……あれ?」

 あいつ。あいつって誰だ?

「あ、あぁ、どうして。なんで俺まで……」

 名前が思い出せない。
 あいつの顔が黒く塗り潰されたように、そこだけはっきりと何も見えない。
 あの黒髪の、少しウザったい、破天荒なあいつは、誰だっけ。

「マモル! 負けるんじゃねぇ! 探せ! 走るんだ! 手を伸ばせ! 操を守りてぇんだろ!」

 手の中で牡蠣が跳ねる。
 俺はハッとして、それから首を横に振ってから、再び牡蠣を頭に乗せた。

「そうだ、俺は……、BLルートなんて、BLルートなんて」

 足が動き出す。
 どこに行けばいいかなんてわからない。だけどそうだ、俺は最初に、こう決めたんだ。

「俺は! 女神あいつの嗜好でBLルートなんてまっぴらだ!」
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