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十二月
七匹のオオカミと一人の人間、そして牡蠣? その7
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べろりと舌舐めずりをしたセンパイは、いつまで経っても動こうとしない俺に痺れを切らしたのか、
「早くしなよね。これ以上、もう待てないんだから」
と言って、しゃがみ込むと俺のベルトをがしりと掴んできやがった。
我に返った俺は、もちろんそんなことさせてたまるかと必死にベルトを掴み返し、外させないように妨害をする。センパイに言い様にされるのも癪だが、それ以上に、こんな大衆の場で出すのは絶対に嫌だ。
「抵抗しないでよ! ボクは奉仕するのが役目なんだから!」
「拒否する! される側にも人を選ぶ権利はあるはずだ!」
「ボクがしたいって言ってるんだってば!」
「されたくねぇんだよ!」
これは何を言っても無駄だ。だけど諦めたくない。
俺は「おい牡蠣!」と運ばれてきた料理に集る牡蠣を呼んだ。呼ばれて一瞬動きが止まったが、飯の誘惑には勝てないのか再びがっつき始める。
「おいちょっと聞け! 無視すんな!」
「もぐもぐ」
「擬音語を話すな!」
牡蠣と問答をしている間にも、センパイは力強く、そして器用にベルトの前をかちゃりと外しやがった。背中に鳥肌が立った。
満足そうに笑うセンパイが、俺の足の間に強引に身体を滑り込ませ、ズボンを下ろそうと手を伸ばしてくる。
「大丈夫、安心しなよ。すぐにどうでもよくなるから」
「なってたまるか!」
その手を掴んで必死に制止しながら、椅子を後ろに下げて逃げられないかと画策する。いや駄目だ、敷かれた絨毯につっかかって下がりにくい。クソが!
と満足したのか、牡蠣がチッチッと爪楊枝を器用に使い、隙間に入ったカスを取りながら、
「げーっぷ。ごっそさーん」
と口から爪楊枝をプッと吐き出した。それはセンパイの額にぷすりと刺さる。
「ぎゃっ」
小さな悲鳴を上げたセンパイは、くたくたと力を失くしたように倒れると、小さな寝息を上げ始めた。
「お前、何したん?」
ベルトを元に戻して、それからセンパイの身体を足先で押すようにしてテーブルの下へ隠した。上手いことクロスを元に戻せば、まさか下に人がいるなんて誰も思わないだろう。
「何って。飯に入ってた睡眠薬をお返ししただけだ」
「睡眠薬……?」
聞いてはいけない危ない単語に、俺は空になった皿をちらりと見る。残っているのはソースだけだが、こうして見る分にはただの料理にしか見えない。
「ま、ソレが運ぶ時にでも入れたんだろ。睡眠薬エキスをたっぷり爪楊枝に仕込んだから、明日の朝まで起きねぇぞ。安心しな」
そう言って牡蠣は器用にコップによじ登ると、貝柱を伸ばして水を飲みだした。
「お前は大丈夫なのか?」
「なんだマモル、ワイっちを心配してくれてるの? 優しい! ちゅき!」
「牡蠣に好かれる趣味はない。だけど何かあるのも目覚めが悪い」
俺はテーブルにあった違うコップを手に取ると、新しく水を注いだ。飲もうとして一瞬躊躇ったが、牡蠣から「それは大丈夫だ」と言われ、ひと口水を含む。
「なーんだ、ワイっちの心配じゃないのか。でも、ま、安心しな。おれはブラッドハウンド様だぜ? 毒見役なんて慣れっこさ」
その言葉にあの映画が頭によぎった。盲目の少女のために、まっ先に料理を食べ、毎回と言っていいほど死の瀬戸際を彷徨ったあの“犬”のことを。
「そうだな、お前いつも死にかけてたもんな」
「それはちょいと語弊があるな。おれが死にかけたのは、マリーの手料理を食べた時だけだ。見えないからなんでも入れたもんさ」
「詳しくは聞かないでおくわ」
「そうしてくれると助かる」
確かにあの映画は多少変わっているようだし、本人がそう言うならそうなんだろう。
俺は少し笑って、また水を飲もうとした時。
『危険、危険。危険因子接近――』
被り物から声が聞こえて、視界が赤く点滅しだしたのだ。
「早くしなよね。これ以上、もう待てないんだから」
と言って、しゃがみ込むと俺のベルトをがしりと掴んできやがった。
我に返った俺は、もちろんそんなことさせてたまるかと必死にベルトを掴み返し、外させないように妨害をする。センパイに言い様にされるのも癪だが、それ以上に、こんな大衆の場で出すのは絶対に嫌だ。
「抵抗しないでよ! ボクは奉仕するのが役目なんだから!」
「拒否する! される側にも人を選ぶ権利はあるはずだ!」
「ボクがしたいって言ってるんだってば!」
「されたくねぇんだよ!」
これは何を言っても無駄だ。だけど諦めたくない。
俺は「おい牡蠣!」と運ばれてきた料理に集る牡蠣を呼んだ。呼ばれて一瞬動きが止まったが、飯の誘惑には勝てないのか再びがっつき始める。
「おいちょっと聞け! 無視すんな!」
「もぐもぐ」
「擬音語を話すな!」
牡蠣と問答をしている間にも、センパイは力強く、そして器用にベルトの前をかちゃりと外しやがった。背中に鳥肌が立った。
満足そうに笑うセンパイが、俺の足の間に強引に身体を滑り込ませ、ズボンを下ろそうと手を伸ばしてくる。
「大丈夫、安心しなよ。すぐにどうでもよくなるから」
「なってたまるか!」
その手を掴んで必死に制止しながら、椅子を後ろに下げて逃げられないかと画策する。いや駄目だ、敷かれた絨毯につっかかって下がりにくい。クソが!
と満足したのか、牡蠣がチッチッと爪楊枝を器用に使い、隙間に入ったカスを取りながら、
「げーっぷ。ごっそさーん」
と口から爪楊枝をプッと吐き出した。それはセンパイの額にぷすりと刺さる。
「ぎゃっ」
小さな悲鳴を上げたセンパイは、くたくたと力を失くしたように倒れると、小さな寝息を上げ始めた。
「お前、何したん?」
ベルトを元に戻して、それからセンパイの身体を足先で押すようにしてテーブルの下へ隠した。上手いことクロスを元に戻せば、まさか下に人がいるなんて誰も思わないだろう。
「何って。飯に入ってた睡眠薬をお返ししただけだ」
「睡眠薬……?」
聞いてはいけない危ない単語に、俺は空になった皿をちらりと見る。残っているのはソースだけだが、こうして見る分にはただの料理にしか見えない。
「ま、ソレが運ぶ時にでも入れたんだろ。睡眠薬エキスをたっぷり爪楊枝に仕込んだから、明日の朝まで起きねぇぞ。安心しな」
そう言って牡蠣は器用にコップによじ登ると、貝柱を伸ばして水を飲みだした。
「お前は大丈夫なのか?」
「なんだマモル、ワイっちを心配してくれてるの? 優しい! ちゅき!」
「牡蠣に好かれる趣味はない。だけど何かあるのも目覚めが悪い」
俺はテーブルにあった違うコップを手に取ると、新しく水を注いだ。飲もうとして一瞬躊躇ったが、牡蠣から「それは大丈夫だ」と言われ、ひと口水を含む。
「なーんだ、ワイっちの心配じゃないのか。でも、ま、安心しな。おれはブラッドハウンド様だぜ? 毒見役なんて慣れっこさ」
その言葉にあの映画が頭によぎった。盲目の少女のために、まっ先に料理を食べ、毎回と言っていいほど死の瀬戸際を彷徨ったあの“犬”のことを。
「そうだな、お前いつも死にかけてたもんな」
「それはちょいと語弊があるな。おれが死にかけたのは、マリーの手料理を食べた時だけだ。見えないからなんでも入れたもんさ」
「詳しくは聞かないでおくわ」
「そうしてくれると助かる」
確かにあの映画は多少変わっているようだし、本人がそう言うならそうなんだろう。
俺は少し笑って、また水を飲もうとした時。
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