上 下
132 / 190
十二月

七匹のオオカミと一人の人間、そして牡蠣? その7

しおりを挟む
 べろりと舌舐めずりをしたセンパイは、いつまで経っても動こうとしない俺に痺れを切らしたのか、

「早くしなよね。これ以上、もう待てないんだから」

と言って、しゃがみ込むと俺のベルトをがしりと掴んできやがった。
 我に返った俺は、もちろんそんなことさせてたまるかと必死にベルトを掴み返し、外させないように妨害をする。センパイに言い様にされるのも癪だが、それ以上に、こんな大衆の場で出すのは絶対に嫌だ。

「抵抗しないでよ! ボクは奉仕するのが役目なんだから!」
「拒否する! される側にも人を選ぶ権利はあるはずだ!」
「ボクがしたいって言ってるんだってば!」
「されたくねぇんだよ!」

 これは何を言っても無駄だ。だけど諦めたくない。
 俺は「おい牡蠣!」と運ばれてきた料理にたかる牡蠣を呼んだ。呼ばれて一瞬動きが止まったが、飯の誘惑には勝てないのか再びがっつき始める。

「おいちょっと聞け! 無視すんな!」
「もぐもぐ」
「擬音語を話すな!」

 牡蠣と問答をしている間にも、センパイは力強く、そして器用にベルトの前をかちゃりと外しやがった。背中に鳥肌が立った。
 満足そうに笑うセンパイが、俺の足の間に強引に身体を滑り込ませ、ズボンを下ろそうと手を伸ばしてくる。

「大丈夫、安心しなよ。すぐにどうでもよくなるから」
「なってたまるか!」

 その手を掴んで必死に制止しながら、椅子を後ろに下げて逃げられないかと画策する。いや駄目だ、敷かれた絨毯につっかかって下がりにくい。クソが!
 と満足したのか、牡蠣がチッチッと爪楊枝を器用に使い、隙間に入ったカスを取りながら、

「げーっぷ。ごっそさーん」

と口から爪楊枝をプッと吐き出した。それはセンパイの額にぷすりと刺さる。

「ぎゃっ」

 小さな悲鳴を上げたセンパイは、くたくたと力を失くしたように倒れると、小さな寝息を上げ始めた。

「お前、何したん?」

 ベルトを元に戻して、それからセンパイの身体を足先で押すようにしてテーブルの下へ隠した。上手いことクロスを元に戻せば、まさか下に人がいるなんて誰も思わないだろう。

「何って。飯に入ってた睡眠薬をお返ししただけだ」
「睡眠薬……?」

 聞いてはいけない危ない単語に、俺はからになった皿をちらりと見る。残っているのはソースだけだが、こうして見る分にはただの料理にしか見えない。

「ま、ソレが運ぶ時にでも入れたんだろ。睡眠薬エキスをたっぷり爪楊枝に仕込んだから、明日の朝まで起きねぇぞ。安心しな」

 そう言って牡蠣は器用にコップによじ登ると、貝柱を伸ばして水を飲みだした。

「お前は大丈夫なのか?」
「なんだマモル、ワイっちを心配してくれてるの? 優しい! ちゅき!」
「牡蠣に好かれる趣味はない。だけど何かあるのも目覚めが悪い」

 俺はテーブルにあった違うコップを手に取ると、新しく水を注いだ。飲もうとして一瞬躊躇ったが、牡蠣から「それは大丈夫だ」と言われ、ひと口水を含む。

「なーんだ、ワイっちの心配じゃないのか。でも、ま、安心しな。おれはブラッドハウンド様だぜ? 毒見役なんて慣れっこさ」

 その言葉にあの映画が頭によぎった。盲目の少女のために、まっ先に料理を食べ、毎回と言っていいほど死の瀬戸際を彷徨ったあの“犬”のことを。

「そうだな、お前いつも死にかけてたもんな」
「それはちょいと語弊があるな。おれが死にかけたのは、マリーの手料理を食べた時だけだ。見えないからなんでも入れたもんさ」
「詳しくは聞かないでおくわ」
「そうしてくれると助かる」

 確かにあの映画は多少変わっているようだし、本人がそう言うならそうなんだろう。
 俺は少し笑って、また水を飲もうとした時。

危険デンジャー危険デンジャー危険因子デストロイヤー接近――』

 被り物から声が聞こえて、視界が赤く点滅しだしたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

愛無き子供は最強の神に愛される

神月るあ
ファンタジー
この街には、『鬽渦者(みかみもの)』という子供が存在する。この子供は生まれつき悪魔と契約している子供とされ、捨てられていた。13歳になった時の儀式で鬽渦者とされると、その子供を捨てる事で世界が救われる、としていたらしい。 捨てられた子供がどうなったかは誰も知らない。 そして、存在が生まれるのはランダムで、いつ生まれるかは全くもって不明らしい。 さて、捨てられた子供はどんな風に暮らしているのだろうか。 ※四章からは百合要素、R13ぐらいの要素を含む話が多くなってきます。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...