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十一月
絶体絶命! 予測不能の期末勉強!? その9
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翌朝。
昨日の出来事が嘘だったかのように、保健室内は、いや校内は静かで穏やかだった。身体を起こしてから隣のベッドを見てみる。
やはりセンパイはいなかった。まぁ、いいか。
「鏡華ちゃん、おはよ」
欠伸をしながらベッドを降り、朝食の用意をしている鏡華ちゃんに笑った。鏡華ちゃんは「はよ」と目玉焼きの乗った皿を置いてから、センパイのいないベッドに視線をやった。
「終はどうした」
「あー、外で寝てんじゃね?」
頭をボリボリ掻きながら洗面所へ向かう。顔を適当に洗ってふわふわのタオルを押し付ける。ホテルでしか使わないようなその柔らかさに、思わず「ふぅ」と息が漏れてしまった。
「外って……。お前ら開けたのか?」
「え!? あ、それは……つか鏡華ちゃん、昨日のはなんだよ。鏡華ちゃんがいなくなってから大変だったんだからな?」
使ったタオルを使用済みの札が下がるカゴに入れ、朝食が並ぶ席へと着いた。
白飯に味噌汁、目玉焼きの乗る皿には、鮭がひと切れとサラダ、ウインナーが一緒に乗っている。そこらのビジホみたいな朝食に、自分でも気づかないうちに頬が緩んだ。
「昨日? あぁ、やっぱり保健室にも来たのか。あいつら無限に湧いてくるからな、面倒なことこの上ない」
「あいつら……?」
「数を減らしてはいるんだが、なかなか減らなくてな。まぁ、御竿がなんともないならそれでいい。ほれ、飯を食え。今日は夕方までしか時間がないんだからな」
鏡華ちゃんはそれ以上説明する気はないのか「いただきます」と自分の分に手をつけ始める。
本当は、アレはなんだとか、結構怖かったんだがとか、色々言いたいことはあった。だけど鏡華ちゃんから無言で「早く食え」と言われている気がして、それ以上を聞くことは出来なかった。
ちなみにセンパイは、部活をしに来た野球部だかサッカー部だかが見つけるまで、窓の外に放り出されたままだった。なぜか全裸で全身濡れていたのは、深く聞くまい。
そうして月曜になり、そのまま一週間を終え、きつい期末週間は終わりを迎えた。
金曜の放課後、死んだ顔で机に突っ伏していると、余裕そうな笑みを浮かべた太刀根が席の横へとやって来た。
「やっと終わったな! 最近忙しくてさ、全く構えなくて本当にごめんな?」
「いや全然いいけど」
「俺も淋しかったんだけどさ。来月試合も控えてるし、来月からは家のパーティに出なきゃいけねぇから部活控えめになるしで、今月しか部活出来なくてさ。でも毎日、護のことは考えてたから」
「いやまじでいいっつの」
早く帰ってしまおう。更に疲れそうだ。
俺は引き出しから筆記用具やらノートやらを取り出して、ロッカーからカバンを取ってこようと席を立った。
そこで気づく。隣の席の猫汰が、冷え切った視線を太刀根にやっていることに。相変わらず怖い奴だ、無視しよう。
「……ねぇ、御竿くん」
やっぱそうなりますよね。
「えぇと、何?」
仕方がないので猫汰のほうを向いてやる。猫汰は肘をつきながら、何かを探るような目つきで俺を見上げてきた。
「放課後、鏡華先生に補習してもらったって聞いたんだけど」
「そのことか。鏡華ちゃん、教えるの上手くてさ、今回の期末、たぶん赤点はないと思う」
そうなのだ。自己採点でしかないが、高得点まではいかずとも、赤点はギリギリ回避してるはずである。鏡華ちゃんには頭が上がらない。
満足気に頷く俺とは反対に、太刀根は残念そうに「えー」と漏らしている。そう簡単にお前の期待通りにさせてたまるか。
「……それってまさか週末も?」
「え、あ、おう。泊まりで補習してたけど」
俺の言葉に、太刀根だけでなく猫汰の顔にも緊張が走った。珍しく二人はお互いの顔を見合い、それから心配そうな眼差しを俺へと向けてきた。
「護、大丈夫だったか? なんともないか?」
「え? え、何? やっぱりアレはヤバいのか?」
“アレ”発言に、二人は更に表情を固くしていく。
「御竿くん、もしかして見たのかい?」
「いや、見てないし、何もなかったけど。鏡華ちゃんからも開けるなって言われてたし」
「そう、ならいいよ」
俺の言葉に二人は安心したように胸を撫で下ろした。そんなにヤバいのかと気になり「な、なぁ」と俺は苦笑いを張りつけて、
「アレはなんだ? 鏡華ちゃんに聞いても教えてくんないんだよな」
と冗談めかしながら聞いた。
太刀根が「えっと」と口籠り、猫汰に話を振るように見下ろした。それに小さなため息をつきながらも、猫汰は「そうだな……」と立ち上がり、俺のロッカーからカバンを取ってきてくれた。
「知らないほうがいいこともあるよ? もしアレが何かを知りたい時、そして知ってしまった時。君は知らなければよかったと後悔するだろうね」
「それって……」
猫汰は続いて自分のロッカーから自分のカバンを取ってくると、簡単に荷物を詰めて、
「それじゃ、部活があるから。太刀根くん、君も部活だろう? また益洲先輩に怒られるよ」
と教室を出ていってしまった。太刀根も「そうだ部活!」と慌ててカバンを取ると、教室を出る寸前で振り返る。
「じゃ、また明日! バニー、楽しみにしてるからな!」
「……勝手に赤点決定すんなよ」
既に教室を出ていった太刀根には、俺の呟きなぞ届いてはいなかった。
昨日の出来事が嘘だったかのように、保健室内は、いや校内は静かで穏やかだった。身体を起こしてから隣のベッドを見てみる。
やはりセンパイはいなかった。まぁ、いいか。
「鏡華ちゃん、おはよ」
欠伸をしながらベッドを降り、朝食の用意をしている鏡華ちゃんに笑った。鏡華ちゃんは「はよ」と目玉焼きの乗った皿を置いてから、センパイのいないベッドに視線をやった。
「終はどうした」
「あー、外で寝てんじゃね?」
頭をボリボリ掻きながら洗面所へ向かう。顔を適当に洗ってふわふわのタオルを押し付ける。ホテルでしか使わないようなその柔らかさに、思わず「ふぅ」と息が漏れてしまった。
「外って……。お前ら開けたのか?」
「え!? あ、それは……つか鏡華ちゃん、昨日のはなんだよ。鏡華ちゃんがいなくなってから大変だったんだからな?」
使ったタオルを使用済みの札が下がるカゴに入れ、朝食が並ぶ席へと着いた。
白飯に味噌汁、目玉焼きの乗る皿には、鮭がひと切れとサラダ、ウインナーが一緒に乗っている。そこらのビジホみたいな朝食に、自分でも気づかないうちに頬が緩んだ。
「昨日? あぁ、やっぱり保健室にも来たのか。あいつら無限に湧いてくるからな、面倒なことこの上ない」
「あいつら……?」
「数を減らしてはいるんだが、なかなか減らなくてな。まぁ、御竿がなんともないならそれでいい。ほれ、飯を食え。今日は夕方までしか時間がないんだからな」
鏡華ちゃんはそれ以上説明する気はないのか「いただきます」と自分の分に手をつけ始める。
本当は、アレはなんだとか、結構怖かったんだがとか、色々言いたいことはあった。だけど鏡華ちゃんから無言で「早く食え」と言われている気がして、それ以上を聞くことは出来なかった。
ちなみにセンパイは、部活をしに来た野球部だかサッカー部だかが見つけるまで、窓の外に放り出されたままだった。なぜか全裸で全身濡れていたのは、深く聞くまい。
そうして月曜になり、そのまま一週間を終え、きつい期末週間は終わりを迎えた。
金曜の放課後、死んだ顔で机に突っ伏していると、余裕そうな笑みを浮かべた太刀根が席の横へとやって来た。
「やっと終わったな! 最近忙しくてさ、全く構えなくて本当にごめんな?」
「いや全然いいけど」
「俺も淋しかったんだけどさ。来月試合も控えてるし、来月からは家のパーティに出なきゃいけねぇから部活控えめになるしで、今月しか部活出来なくてさ。でも毎日、護のことは考えてたから」
「いやまじでいいっつの」
早く帰ってしまおう。更に疲れそうだ。
俺は引き出しから筆記用具やらノートやらを取り出して、ロッカーからカバンを取ってこようと席を立った。
そこで気づく。隣の席の猫汰が、冷え切った視線を太刀根にやっていることに。相変わらず怖い奴だ、無視しよう。
「……ねぇ、御竿くん」
やっぱそうなりますよね。
「えぇと、何?」
仕方がないので猫汰のほうを向いてやる。猫汰は肘をつきながら、何かを探るような目つきで俺を見上げてきた。
「放課後、鏡華先生に補習してもらったって聞いたんだけど」
「そのことか。鏡華ちゃん、教えるの上手くてさ、今回の期末、たぶん赤点はないと思う」
そうなのだ。自己採点でしかないが、高得点まではいかずとも、赤点はギリギリ回避してるはずである。鏡華ちゃんには頭が上がらない。
満足気に頷く俺とは反対に、太刀根は残念そうに「えー」と漏らしている。そう簡単にお前の期待通りにさせてたまるか。
「……それってまさか週末も?」
「え、あ、おう。泊まりで補習してたけど」
俺の言葉に、太刀根だけでなく猫汰の顔にも緊張が走った。珍しく二人はお互いの顔を見合い、それから心配そうな眼差しを俺へと向けてきた。
「護、大丈夫だったか? なんともないか?」
「え? え、何? やっぱりアレはヤバいのか?」
“アレ”発言に、二人は更に表情を固くしていく。
「御竿くん、もしかして見たのかい?」
「いや、見てないし、何もなかったけど。鏡華ちゃんからも開けるなって言われてたし」
「そう、ならいいよ」
俺の言葉に二人は安心したように胸を撫で下ろした。そんなにヤバいのかと気になり「な、なぁ」と俺は苦笑いを張りつけて、
「アレはなんだ? 鏡華ちゃんに聞いても教えてくんないんだよな」
と冗談めかしながら聞いた。
太刀根が「えっと」と口籠り、猫汰に話を振るように見下ろした。それに小さなため息をつきながらも、猫汰は「そうだな……」と立ち上がり、俺のロッカーからカバンを取ってきてくれた。
「知らないほうがいいこともあるよ? もしアレが何かを知りたい時、そして知ってしまった時。君は知らなければよかったと後悔するだろうね」
「それって……」
猫汰は続いて自分のロッカーから自分のカバンを取ってくると、簡単に荷物を詰めて、
「それじゃ、部活があるから。太刀根くん、君も部活だろう? また益洲先輩に怒られるよ」
と教室を出ていってしまった。太刀根も「そうだ部活!」と慌ててカバンを取ると、教室を出る寸前で振り返る。
「じゃ、また明日! バニー、楽しみにしてるからな!」
「……勝手に赤点決定すんなよ」
既に教室を出ていった太刀根には、俺の呟きなぞ届いてはいなかった。
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