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十月

だってお前はそんなんじゃ……! その5

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 観手はこれからどうなるのかと、目をギラつかせて俺たちを見ている。猫汰は観手に呼ばれた(という名目)太刀根を、これでもかというほどに冷たく見ている。
 では太刀根はといえば。

「巧巳もいるのか。なら早く言えよな! 俺、巧巳とまた遊べたらなと思ってたんだよ」

 本心からの言葉であろう台詞を言って、太刀根は「流石護だ」と眩しいほどの笑顔を向けてきた。その眩しさに若干「うっ」と目を背けたものの、俺はすぐに、

「は、はは。そりゃ良かった、な」

と顔を引きつらせながら笑った。これ以上ややこしくしてたまるかと、俺は誰にも話を割り込ませないように話し続ける。

「ほ、ほら、とりあえず買い物に行こうぜ。まずはなんだ、あ、観手の買いたいものでも買いに行くか!?」
「私は別に何も」
「え、何? 新発売のゆるマスコット欲しいって? そうだな確か専門店あったもんな!」

 俺は「三階だったか?」とギクシャクしながら歩いていく。右手右足と左手左足が同時に出た。そのくらい焦っていたんだ、多目に見てくれ。
 多少不思議に思いながらも、三人はついてきてくれたようで、俺たちは三階にあるゆるマスコット、通称ゆるコット売り場へと来た。

「何この、ヤバそうな人形」

 ゆるコットとは名ばかりの、見るに耐えない姿形をした人形がずらりと並ぶ棚。その中のひとつを取り、俺は正直な感想を言った。
 ちなみに色々あるが、俺が持っているのは一番マシな部類で、恐らくはクマであろう人形に、豚の鼻と天使の羽根みたいなものがついている。口から見える牙には、赤い塗装が塗られていた。

「護、知らないのか? それはブラッドハウンドってんだ」
「どこに犬要素があんだ」

 さっきも言ったが、クマに見えるのだ。いや、クマに見えるが一番近い。しかし犬ではない、絶対に。
 隣の観手が「それはですね」と違うブラッドハウンドを手にして、その丸っこい耳をちょこんと触った。

「この子の設定ですよ。この子を拾った飼い主、あぁ飼い主は小さい女の子なんですけど、その子は犬をお話の中でしか知らないのです。モフモフしているこの子を見て、犬だと信じ切った飼い主のために、ブラッドハウンドは自身を“犬”として過ごしているんですよ」
「じゃなんでこんなに赤いの」

 “犬”であるなら口元が赤い理由がないはずだ。それに答えてくれたのは猫汰だ。猫汰もまた、手には違う人形が握られている。一見すればブラッドハウンドに似ているが、口からは蛇のように長い舌を出している。

「その女の子の両親はお金持ちだったんだけどね。ある日事故で亡くなってしまう。その遺産目当てで送り込まれてくる刺客から、ブラッドハウンドは女の子を守っているんだよ」
「おも……」
「でも可愛いじゃないですか~」

 観手に言われ、改めてブラッドハウンドを見る。犬とはとても似ても似つかない目と耳、そして尻尾。赤く染まった口も爪も、気味の悪いものに見えるのに。俺はその人形を持ったままレジに向かう。

「あれ? 御竿さん、買うんですか?」
「まぁ。嫌いじゃないし、持っちまったし」

 安い買い物ではないが、別に後悔もしていない。

「護、ブラッドハウンド気に入ったんならさ、映画でも行かね? 今やってるだろ」

 太刀根に言われ、レジ近くにあったチラシに目をやる。確かに最近始まったばかりのようで、専門店では大々的に宣伝しているようだった。

「ま、いいか」

 キラ☆キュアを見たかったが、折角教えてもらったのだし。俺が了承するやいなや、猫汰が颯爽と店を出ていった。

「御竿くん。僕は先に行って三人分の席を取っておくから、ゆっくり追いかけてくるといいよ」

 手にはあの人形を持ったまま。

「お、おい巧巳! 三人じゃなくて四人だろ! つか金、金、金払ってないぞ!」

 慌てた様子で太刀根が店を出ようとし、急に振り返り俺にカードを渡してきた。ブラックカードってやつじゃね、これ。

「それで払っといてくれよ! 俺は巧巳を追いかけるさ!」

 俺は二人を唖然としたまま見送って、それから肩を叩かれそちらを見る。観手が巨大なブラッドハウンドのぬいぐるみを抱え微笑んでいた。

「これも一緒にお願いします!」
「お前……、悪女だろ……」

 そう答えながらも払う辺り、俺もいい友達ではないんだろうけど。
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