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十月
だってお前はそんなんじゃ……! その1
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無事(?)修学旅行も終わり、俺は土曜日の貴重な休みを有意義に過ごしていた。有意義といっても、溜めていたアニメを見たりゲームをしたりと、あまりいつもと変わらんが。
「あー。一人っていいなぁ」
誰に言うでもなく呟いた。
ここ最近、いや修学旅行中だったのもあり、一人の時間どころか、誰といてもどこにいても心休まる時なんてなかった。特に観手に関しては、変な期待の籠もった視線を向けてくるし。
「護ー! ご飯よー」
「今行く」
平屋なのだし、そんなに大声を出さずとも聞こえるんだけど。まぁいいか。
それにしてもやけにいい匂いがする。海鮮かな? だとすれば、今日の夕飯は少し豪華そうだ。
「母さん、いい匂いすんね」
台所に入れば、さらに濃厚な海鮮の匂いが充満していた。奥では鍋がグツグツと煮えている。海鮮鍋かな?
「そうなのよ、いいお出汁が手に入ってね。さぁ、早く座って。あ、お父さんはお風呂入ってるから、先に食べちゃいなさい」
「うん」
いつもより嬉しそうな母さん。その表情に俺も嬉しくなって、はにかみながら椅子に座ると。
「やぁ」
「……」
なんだこの牡蠣は。なぜ机にあの牡蠣がいるんだ。しかもご丁寧に、座布団代わりのミニタオルを敷いてある。
「……母さん、これは?」
「あぁ、その子はねぇ」
母さんは、小さく切った大根と白菜を小皿に乗せて「はい、どうぞ」と牡蠣の前に置いた。
「ママさんありがと! お風呂も最高だったよ!」
「あらあらよかったわ、毎日入っていいのよ」
パカパカと話す牡蠣、それに餌(いや夕飯か?)を与える母さん。真ん中に置かれたカセットコンロに、母さんが「よいしょ」と鍋を乗せた。
「母さん、あのさ……」
「ん?」
「いや、えっと」
カチカチとカセットコンロにも火をつける。そんな母さんを見ていると、俺の疑問は聞かないほうがいいのかもと思えてきた。
「こ、この牡蠣、どうしたの……」
そう。実はこいつ、修学旅行から帰ってすぐ太刀根に渡したのだ。こんな喋る牡蠣なんて気持ち悪いし、何より食べる気にならないし。
母さんは「それはね」とエプロンで手を拭いてから、ご飯をよそってくれた。
「今日のお昼、お父さんとお出掛けしたら、道端に倒れていたこの子を拾ったのよ」
「倒れ……いや、うん続けて」
「お父さんも賛成してくれたから、今日から家で飼うことにしたの」
「動物じゃないよ!? いた場所に返してこようよ!? つか父さん、賛成しちゃ駄目だろ!」
本当にうちの父親は母親に甘い。いや、逆かもしれんが。頭を抱えながらため息をつけば、大根にかぶりついていた牡蠣が、
「マモル、ワイっちだって素敵な宇宙船“地球号”の一員なんだよ」
と貝の中に汁を溜めながら話してきた。
「やかましい」
手で押さえて開けられないようにしてやれば、中からくぐもった声で「開けてぇ、暗いの怖いよぉ」となんとも情けない台詞が聞こえてきた。仕方がないので手をどけてやる。
「お前、牡蠣のくせに暗いの無理なのか」
「マモル、このご時世にモラハラはいけない」
「そう、なんだけど……え、俺牡蠣に説教されたの?」
確かにそうだが、それは牡蠣にも通じるのか? 何ぶん牡蠣と話したことなどないため、こいつ以外の牡蠣がどう思ってるかなんてわからない。それでも。
「そういうことだから、よろしくな、マモル!」
「……おう」
牡蠣との共同生活は避けて通れないようだ。
「あー。一人っていいなぁ」
誰に言うでもなく呟いた。
ここ最近、いや修学旅行中だったのもあり、一人の時間どころか、誰といてもどこにいても心休まる時なんてなかった。特に観手に関しては、変な期待の籠もった視線を向けてくるし。
「護ー! ご飯よー」
「今行く」
平屋なのだし、そんなに大声を出さずとも聞こえるんだけど。まぁいいか。
それにしてもやけにいい匂いがする。海鮮かな? だとすれば、今日の夕飯は少し豪華そうだ。
「母さん、いい匂いすんね」
台所に入れば、さらに濃厚な海鮮の匂いが充満していた。奥では鍋がグツグツと煮えている。海鮮鍋かな?
「そうなのよ、いいお出汁が手に入ってね。さぁ、早く座って。あ、お父さんはお風呂入ってるから、先に食べちゃいなさい」
「うん」
いつもより嬉しそうな母さん。その表情に俺も嬉しくなって、はにかみながら椅子に座ると。
「やぁ」
「……」
なんだこの牡蠣は。なぜ机にあの牡蠣がいるんだ。しかもご丁寧に、座布団代わりのミニタオルを敷いてある。
「……母さん、これは?」
「あぁ、その子はねぇ」
母さんは、小さく切った大根と白菜を小皿に乗せて「はい、どうぞ」と牡蠣の前に置いた。
「ママさんありがと! お風呂も最高だったよ!」
「あらあらよかったわ、毎日入っていいのよ」
パカパカと話す牡蠣、それに餌(いや夕飯か?)を与える母さん。真ん中に置かれたカセットコンロに、母さんが「よいしょ」と鍋を乗せた。
「母さん、あのさ……」
「ん?」
「いや、えっと」
カチカチとカセットコンロにも火をつける。そんな母さんを見ていると、俺の疑問は聞かないほうがいいのかもと思えてきた。
「こ、この牡蠣、どうしたの……」
そう。実はこいつ、修学旅行から帰ってすぐ太刀根に渡したのだ。こんな喋る牡蠣なんて気持ち悪いし、何より食べる気にならないし。
母さんは「それはね」とエプロンで手を拭いてから、ご飯をよそってくれた。
「今日のお昼、お父さんとお出掛けしたら、道端に倒れていたこの子を拾ったのよ」
「倒れ……いや、うん続けて」
「お父さんも賛成してくれたから、今日から家で飼うことにしたの」
「動物じゃないよ!? いた場所に返してこようよ!? つか父さん、賛成しちゃ駄目だろ!」
本当にうちの父親は母親に甘い。いや、逆かもしれんが。頭を抱えながらため息をつけば、大根にかぶりついていた牡蠣が、
「マモル、ワイっちだって素敵な宇宙船“地球号”の一員なんだよ」
と貝の中に汁を溜めながら話してきた。
「やかましい」
手で押さえて開けられないようにしてやれば、中からくぐもった声で「開けてぇ、暗いの怖いよぉ」となんとも情けない台詞が聞こえてきた。仕方がないので手をどけてやる。
「お前、牡蠣のくせに暗いの無理なのか」
「マモル、このご時世にモラハラはいけない」
「そう、なんだけど……え、俺牡蠣に説教されたの?」
確かにそうだが、それは牡蠣にも通じるのか? 何ぶん牡蠣と話したことなどないため、こいつ以外の牡蠣がどう思ってるかなんてわからない。それでも。
「そういうことだから、よろしくな、マモル!」
「……おう」
牡蠣との共同生活は避けて通れないようだ。
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