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十月
そこはそれとない都会の出来事 その2
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俺たちはあっという間に、日本三大名所のひとつである、あの有名な海岸に着いた。移動時間? そんなのはあれだ、よくある一枚絵にバスが左から右に移動していくあんな感じで着いた。
「なぁ」
俺はそう言いながら、いそいそとバスを降りてきた観手の肩を叩いた。
「はい?」
「こういう移動なら北海道でも行けんじゃね?」
「なら二周目のお楽しみですね!」
「ねぇよ」
何がニ周目だ、絶対にやってたまるか。そもそも、一周目をどうやってクリアするかもまだ思いついていないのに。
そんな俺の胸中など知るわけない太刀根が「おー」と一人勝手に走っていく。バスを降りてからは自由行動なので、それを牧地が止めるはずもなく。
「おい太刀……じゃない、攻。勝手に行くな」
観手に「先行くわ」と軽く言い、俺は太刀根の後を追いかける。パンフレットを見ていたらしい猫汰が何か言った気がするが、聞こえていないフリをした。
「攻、何してんだよ。いくら自由行動でも限度があるだろ」
「わりっ。いやさ、ここに来るならやっぱこれ食わなきゃって思っててさ」
「これ?」
太刀根がバスから降りて真っ先に向かったのは、小さな店のようだ。看板には“牡蠣カレーパン”と書かれてある。ラミネートされた張り紙には“テレビや雑誌でも取り上げられました”などという、まぁよくある謳い文句が書かれている。
「ああ……、これか……」
「ここって牡蠣が有名なんだろ? やっぱ旨いもんは食っておかねぇとな!」
そう言って太刀根は嬉々としてパンを買いに並ぶ。といっても今日は平日だ。それほど並ばずして買えたであろうカレーパンを、器用に四つ持っていた。
「護も食うだろ?」
「まぁ嫌いじゃないけどさ」
「じゃ、これ」
差し出されたカレーパンを仕方なく受け取ってやる。勘違いないよう言っておくが、俺は牡蠣もカレーパンも嫌いじゃない。嫌いじゃないが、俺はこの牡蠣カレーパンなるものを食べたことはない。
遅れてやって来た観手と猫汰にも渡せば、やはりと言うべきか。観手は「ありがとうございます!」と柔らかく笑って、猫汰は「……はぁ」と渋々受け取った。
「太刀根くん。今回は勿体ないから頂くけど、次からはこんなことしなくていいよ。ただでさえ、僕は君から物を受け取りたくないからね」
「猫汰……じゃない巧巳。流石にそれは」
言いすぎじゃないかと思ったが、当の太刀根は聞こえていないのか、それとも気にしていないのか。なんにしろ、早速カレーパンにかぶりついて「うんめー!」とご満悦の様子。
観手も一口サイズに千切ってから「美味しいですね」と満足そうに笑っている。なら俺が何か言って空気を悪くすることもないだろう。
「じゃ、頂くわ」
俺もカレーパンにかぶりつけば、丸々太った牡蠣が、これでもかというほどに存在を強調していた。
「なぁ」
俺はそう言いながら、いそいそとバスを降りてきた観手の肩を叩いた。
「はい?」
「こういう移動なら北海道でも行けんじゃね?」
「なら二周目のお楽しみですね!」
「ねぇよ」
何がニ周目だ、絶対にやってたまるか。そもそも、一周目をどうやってクリアするかもまだ思いついていないのに。
そんな俺の胸中など知るわけない太刀根が「おー」と一人勝手に走っていく。バスを降りてからは自由行動なので、それを牧地が止めるはずもなく。
「おい太刀……じゃない、攻。勝手に行くな」
観手に「先行くわ」と軽く言い、俺は太刀根の後を追いかける。パンフレットを見ていたらしい猫汰が何か言った気がするが、聞こえていないフリをした。
「攻、何してんだよ。いくら自由行動でも限度があるだろ」
「わりっ。いやさ、ここに来るならやっぱこれ食わなきゃって思っててさ」
「これ?」
太刀根がバスから降りて真っ先に向かったのは、小さな店のようだ。看板には“牡蠣カレーパン”と書かれてある。ラミネートされた張り紙には“テレビや雑誌でも取り上げられました”などという、まぁよくある謳い文句が書かれている。
「ああ……、これか……」
「ここって牡蠣が有名なんだろ? やっぱ旨いもんは食っておかねぇとな!」
そう言って太刀根は嬉々としてパンを買いに並ぶ。といっても今日は平日だ。それほど並ばずして買えたであろうカレーパンを、器用に四つ持っていた。
「護も食うだろ?」
「まぁ嫌いじゃないけどさ」
「じゃ、これ」
差し出されたカレーパンを仕方なく受け取ってやる。勘違いないよう言っておくが、俺は牡蠣もカレーパンも嫌いじゃない。嫌いじゃないが、俺はこの牡蠣カレーパンなるものを食べたことはない。
遅れてやって来た観手と猫汰にも渡せば、やはりと言うべきか。観手は「ありがとうございます!」と柔らかく笑って、猫汰は「……はぁ」と渋々受け取った。
「太刀根くん。今回は勿体ないから頂くけど、次からはこんなことしなくていいよ。ただでさえ、僕は君から物を受け取りたくないからね」
「猫汰……じゃない巧巳。流石にそれは」
言いすぎじゃないかと思ったが、当の太刀根は聞こえていないのか、それとも気にしていないのか。なんにしろ、早速カレーパンにかぶりついて「うんめー!」とご満悦の様子。
観手も一口サイズに千切ってから「美味しいですね」と満足そうに笑っている。なら俺が何か言って空気を悪くすることもないだろう。
「じゃ、頂くわ」
俺もカレーパンにかぶりつけば、丸々太った牡蠣が、これでもかというほどに存在を強調していた。
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