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九月

本当はこんな話を望んでいた、のかもしれない

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 三日目は会長の計らいでフリーになれた。一日目、二日目とロクでもない目にあったし、これは俺に対しての労りでもあるのだろう。
 だがしかし困った。
 俺は誰かと回ろうにも、その回れるような友人などただの一人もいないのだ。悲しい。

「みーさおさんっ」
「あ、お前がいたわ」

 一人、中庭にて淋しくパンをかじっていた俺に、観手が「こんなとこにいたんですか~」と息を切らしながら駆け寄ってきた。昨日のローブ、ではなく普通に制服を着ている。

「探しましたよ~」
「奇遇だな、俺もお前に用があった」
「え? 本当ですか? 御竿さんのほうから御用があるなんて……。あ、攻略法についての質問ですか!?」
「お前の頭はそんなんばっかだな。会長に頼んでその頭、カボチャにでもしてもらえ」
「それは――むぐ」

 反論しようとした観手の頬を、親指と中指で挟むようにして半ば無理矢理閉じさせる。一瞬手のひらに唇が触れ、心臓が飛び跳ねた気がした。

「で、俺の用件だけど。どうせ暇だろ? 今日の学祭、俺に付き合え」
「むぐ」

 タコみたいな口のまま頷いた観手。やけに素直で逆に怖い。手を離してから「お前の用件は?」と聞いてやれば、

「終さんとどこまで――」

と鳥肌が立つような台詞を言ってきたため、俺は相手が女子ということも忘れて観手の頭をぶん殴った。ま、女神だしいいだろ。
 下獄たちが出しているお化け屋敷は、一昨日の騒ぎが嘘のように、まぁまぁ落ち着いて営業していた。受付をしている下獄が「あ!」と俺たち二人に笑顔を向けてきた。

「護先輩!」
「よ、よぉ下獄。昨日は、その、いきなりいなくなって悪かったな」

 一応謝るが、昨日のことに関して俺は不可抗力だと思っている。あれを止められる奴がいたなら是非会ってみたい。
 だが下獄は気にした様子もなく、むしろ「いえ」と眉尻を下げ俺の手を両手で包むようにして握ってきた。

「ますよ先輩から聞きました。なんでも、護先輩を狙う侵略者が来ていて、こっそり抜け出したのだとか。ウチは護先輩が無事だったことが嬉しいです!」
「へ、へぇ、侵略者、ね……」

 睨むようにして観手を見れば、奴はさっと視線を明後日の方向へ向けてしまった。後でまた頬を挟んでやろうかと考える。いや待てよ、ここはお化け屋敷。つまり。

「よし観手、入るか」
「えっ」
「下獄、邪魔するわ」

 観手の返事を待たずして、俺は二回目のお化け屋敷へと足を踏み入れた。


 一日目に入ったせいか、仕掛けに対し驚くことは少なかった。それでもコースが多少違うせいで、ビビることはまぁ、あった。
 それでも俺の隣で必要以上にビビる観手よりはだいぶマシだと自負している。

「ちょちょちょ御竿さん! 明かり! 明かりこっちに渡してください!」

 そう言って、俺が持つペンライトに手を伸ばしてきた。よく見えなかったのもあり、俺はその攻撃をもろに食らってしまいペンライトを落としてしまう。

「観手! お前なぁ」
「あわわわ、明かり、明かり……」

 俺のことなんて見えていないのか(実際見えてはないと思う)、観手の手がペンライトを求めるように伸ばされた。だけども慌てていたせいかその指先に当たり、ペンライトはセットとセットの隙間に転がっていってしまう。

「ぁ」
「あー」

 隙間からこちらを照らすように転がったペンライトは、暗闇に俺と観手の二人だけをぼんやりと、いや意外にもはっきりと浮かび上がらせている。

「手を伸ばせば取れますかね……?」
「あんなちっせぇ隙間、俺の手は入んないぞ」
「肝心な時に役に立ちませんね」
「お前はいつも役に立ってないけどな」

 観手は「失礼ですね」と口を尖らせるも、ペンライトがどうしても欲しいらしい。四つん這いになり、手を隙間へと差し入れた。

「ん、んー。もうちょっと、奥、に……」
「諦めろって。出たら下獄に謝って取ってもらえばいいだろ」
「あと少しで届くんです」

 そう言うと観手は何を思ったのか、上半身を床につける格好になり更に手を伸ばした。暗闇であまり見えてないが、それでもわかる。
 これは下半身を突き出している格好だと。

「……お前さ」
「んー。なんですか?」
「自分の格好、今どんなんかわかってるか?」
「まぁ、おおよそ想像はついてます。でも、こんな状況でそんなエッな展開になるわけありませんよ。ゲームじゃあるまいし」
「それお前が言っちゃう?」

 ゲームの世界で、登場人物でもない、更に言うなれば女神とかいう非現実的な存在が“ゲームじゃない”などと言うのは如何なものか。確かに、これが現実なら上手くはいかないだろう。
 むしろ女子とお化け屋敷に入って、こんなラッキー展開が来るわけない。しかしここはゲームであり、俺は主人公御竿護である。
 パチッ、パチチッ。

「え!? なんで電気がついちゃうんですか!」

 タイミングよく点灯した蛍光灯に、俺は内心ガッツポーズを決める。もちろんいい格好の観手を拝むチャンスではあるが、そう、そんなのはゲームだけでいいのだ。

「ほれ」

 俺はブレザーの上着を脱いで、突き出された観手の下半身にかけてやる。我ながらイケメンムーブが出来たのではと満足する、が。

「かかってませんよ、馬鹿!」
「え」

 そう言われ改めて見れば。
 あぁ確かに絶妙にかかってない。暗闇だったし、見えなかったんだ、仕方ない(と言い訳をする)。
 ちなみに色は、企業秘密だ。それを教えるのは、フェアじゃない気がするからな。
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