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九月

ガラスの靴は誰のもの? その2

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 “むかーし、昔。あるところに、それはそれは可愛い女の子が暮らしていました”

「ちょっと、ねぇ! なんでこのボクが呼んでるのに、誰も来ないわけ!?」

 そう地団駄を踏みながら叫びまわっているのは、薄汚れたドレスを着たセンパイ、ではなく“メンヘレラ”。なぜだかこの演目の主役をしている、高慢高飛車な双子弟だ。

「えーとえーと、終先輩、じゃなかったメンヘレラ。少しは待ってください。今お掃除の確認をしていますから」

 そう言って、メンヘレラより少し豪華なドレスを着た下獄が、台本片手に右に左に移動する。多少棒だが、あの見た目なら誤魔化せるだろう。
 ちなみに奴の役は上の姉だ。

「本当に目障りだなぁ。このまま虐めて虐めて虐め抜いて、そのまま……」

 ぶっそうなことを小声で言うのは猫汰。下の姉というやつだ。色々上下関係がおかしいが気にしてはいけない。
 そこに「オーホッホッホー」とデフォルトでよく聞く高笑いをしながら、益州先輩が現れた。継母ままははらしく、更に豪華な全身金色のドレスを着て、口元は扇子で隠している。つか扇子て……。

「おら、屹立弟! じゃないメンヘレラ! わざわざ呼んだんだ、今日もいい思いさせてくれるんだろうな!?」
「はぁ? 鏡見てからいいなよね! 第一、アンタただのエキストラのくせに、しゃしゃり出すぎなの! わかんない!?」
「ただの益州虎じゃねぇ! 剣道部部長、益州虎だ!」
「そんなの知らないし!」

 舞台でわーきゃー喧嘩しているが、あれを止めれる奴は壇上にいない。え? 俺はどこにいるのかって? そりゃ舞台袖よ。

「おい観手、ナレーションで強制的に退場させろよ」

 俺は同じく、袖から劇を眺めている観手に耳打ちをした。ちなみに観手は、この後出てくる魔女の格好をしている。背中が大きく開いたマーメイドドレスから覗く肌に、思わず生唾を飲み込んでしまう。
 そんな俺の動揺を知ってか知らずか。観手は見せつけるようにくるりと回ってみせ、

「え~。楽しみを取るつもりですかぁ?」

と小首を傾げてにやりと笑った。チッ。こんな奴を可愛いとか一瞬でも思った俺が馬鹿だった。

「お前個人の娯楽なんぞ知るか。早くなんとかしろ」
「御竿さん、もしかして……。早く自分の出番に回したいんですね?」
「誰がそう言った」

 がしりと観手の顎を片手で握る。そのまま少し力を入れてやれば、観手は「痛いれす~」と俺の手を叩いた。仕方なく離してやる。このままじゃ話せないだろうし。

「わかりましたよ、もう」

 観手はこほん、とわざとらしく咳払いをする。
 “そうやって毎日毎日、メンヘレラは母親や姉たちと喧嘩をしながら過ごしていました。そんなある日、お城でが行われることになったのです”

「お城でがあるらしい。娘たちよ、もちろん行くよな?」

 そう言って、益州先輩演じる継母が鼻息荒く下獄と猫汰に詰め寄るも、二人は特に興味がないようで、

「ウチ、そういうの苦手で……」
「王子って太刀根くんだよね? 僕は遠慮しておくよ」

と用意された茶菓子(本物)をお構いなく食べている。

「そんな態度なら俺一人で行っちゃうよ? いいんだな!?」
「はい、いってらっしゃいませ!」
「早く行きなよ。じゃないと、御竿くんの出番が来ないじゃないか」

 猫汰に関しては、相当イライラが募ってきたのかダン! と強く机を叩いた。乗っていた菓子が一瞬宙に浮く。

「ね、猫汰、くん?」

 しどろもどろになる益州先輩とは反対に、猫汰は足を優雅に組み替えてみせる。ちらりと見えた足に、客席から黄色い歓声が上がった。

「エキストラはエキストラ以上にはなれないんだよ。わかったら早く消えることだね。益州先輩」

 その視線は相変わらず冷たい。益州先輩が「ちくしょう!」と半泣き状態で反対の袖に消えていく。あの人も大変だなぁと感傷に浸っていると、

「では行きますよ、御竿さん!」
「あ、あぁ……」

 出番が来てしまった。魔女の背中に半分見惚れながら、俺もまた明るみの元へと出ていった――
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