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九月
大改造! 屹立パワーで大☆学祭! その12
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一年生企画のお化け屋敷は、二階全部を使ったそれなりに大きなもののようだ。階段を上れば、そこにはおどろおどろしい雰囲気の入口が作られていて、受付であろう何人かの生徒たちが座っていた。
「生徒会だけど。見回りにきたぞ」
「あ、護先輩!」
生徒の中から聞き覚えのある声と一緒に、下獄が顔をひょこりと覗かせる。それに軽く挨拶してやれば、下獄は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「生徒会から先輩が来てくれるなんて! ウチ、嬉しいです!」
「そうか、そりゃよかった」
近くに来た下獄の頭をぽんぽんと撫でてやる。犬、いや猫? これはハムスターか? なんにしろ、小動物を相手にしているみたいでなんか好きだ。
「んで、見回りなんだが」
「はい! 中も見てくれるとのことで、ウチ、護先輩が来てくれて本当に嬉しいです!」
「ん? 中?」
俺は下獄の言葉を繰り返す。聞き間違いであってほしいと願うも、下獄の「はい!」と笑う笑顔の前では、どうやら願いは聞き届けてくれなさそうだ。
さっきも言ったが、入口からおどろおどろしい雰囲気が出ているし、心なしか冷気も溢れ出ている気がする。更に聞こえてくる悲鳴が「きゃー」とか「うわー」ではなく、明らかに命の危険が迫った時に出るような声なのも頂けない。
「入らなきゃ、駄目?」
「大丈夫です、ウチもいますから!」
むしろ後輩の前で情けない姿を見せたくない気持ちのほうがデカいのだが、だからといって一人で入る勇気なんて更にない。だから俺は震える声をなんとか押さえつけて、
「イコウカ」
と引き笑い気味で下獄に手を差し出した。
入る際、グループひとつにつき、ペンライトをひとつ持たされ、その明かりを頼りに歩いていく。最初に出るための条件を書いた紙も渡され、それをクリアすれば出口に向かえるらしいのだが。
「お化け屋敷ってか、脱出ゲーム……」
いや、ホラー要素もあるのだ。ひとりでに動くマネキン、空飛ぶ洋服、誰も立っていないのにお会計をするキャッシャー。条件を満たすために入った倉庫では、段ボールが雪崩のように倒れてきた。当たる寸前で止まったけれど。
それよりも手が込んでいると感じたのは、脱出ゲームそのものの仕掛けだ。意外と頭を使わせる内容で、人によっては解けないんじゃないかと心配になる。
「なかなか難しいな……」
「ウチは内装を考えただけで、問題は他のクラスの子がやってくれたんです」
「へぇ。あ、こうか?」
部屋にあったパネルをポチポチと操作していく。俺たちが今いるのは、どうやら監視カメラの映像が全部見える部屋のようで、モニターには他の催し物を楽しむ生徒の姿が写っている。と。
ビーッ、ビーッ、ビーッ。
「え? やば、間違えた?」
「これは……、先輩、逃げましょう!」
「逃げる?」
話の意味がわからず、モニターと下獄を交互に見やる。するとモニターに目が写りだし、その目が一斉にギロリとこちらを睨んできた。
「は?」
そのまま見ていると、目から赤いビームのようなものが発射された。
「先輩!」
「っ」
咄嗟に引っ張られ、俺は下獄のほうへ倒れ込む。ビームが床に当たり、今まで俺が立っていたその場所が一瞬にして蕩けた。いいか、溶けたんじゃない、蕩けたんだ。
「は、え? どういうこと……」
「先輩、こっちです!」
「えええ!?」
俺は下獄に横抱きにされ、無理やり監視室から出された。逃げる最中にも、廊下の天井やら壁に目が現れては、容赦なくビームを打ち込んでくる。
「待って待って! どうなってんのこれ!」
「お化け屋敷の真の力、剥がれゆく心が発動したんです!」
「だから何それ!」
足元に撃たれたビームをジャンプでよける。カツン、と落ちたペンライトに当たってペンライトが蕩けた。
「人は自分の心を化かしたり、嘘で覆い隠しながら生きています。あのビームに当たると、その膜や嘘を剥がし、本当の心を曝け出すようになるんです!」
「そんな機能なんで入れた!?」
「吊り橋効果を更に高めるためです!」
「それで喧嘩しちゃったらどうすんの!」
余計も余計な機能だ。つかそんな機能どうやって作ったんだ。お化け屋敷の他の場所でもビームが出ているのか、当たったらしい被害者たちの悲鳴が聞こえた。なんか俺のせいですまん。
出口っぽい明かりが見え、俺は下獄に「あそこだ!」と腕に抱えられながら叫んだ。この際、男に横抱きにされているのは気にしちゃ駄目だ。
「……っ!」
「下獄!?」
どうやら下獄の足をビームが掠れたらしい。下獄は顔を歪め、そのまま転んでしまう。俺に怪我を負わせまいとしたのか、俺には怪我ひとつない。
「おい、下獄! 下獄!」
「はあっ、はっ……。護先輩、行って、ください。ウチはもう、ダメ、ですっ」
「何言ってんだよ、ここまで来たのに」
そこまで言って俺は気づく。這い寄る呻き声が、出口を目指して向かってきているのを。そして下獄の頬が高潮し、息が荒くなっているのを。
「護先輩。ウチ、護先輩に乱暴したくないんです。だから」
「よしわかった。ありがとな、下獄」
「え? 護先輩、え? え?」
冷たい奴と言うなかれ。
俺は辛そうな下獄をほっといて、とっとと出口から外に出た。背後からいやに艶めいた声がたくさん聞こえてきたが、もう考えないことにして。
「生徒会だけど。見回りにきたぞ」
「あ、護先輩!」
生徒の中から聞き覚えのある声と一緒に、下獄が顔をひょこりと覗かせる。それに軽く挨拶してやれば、下獄は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「生徒会から先輩が来てくれるなんて! ウチ、嬉しいです!」
「そうか、そりゃよかった」
近くに来た下獄の頭をぽんぽんと撫でてやる。犬、いや猫? これはハムスターか? なんにしろ、小動物を相手にしているみたいでなんか好きだ。
「んで、見回りなんだが」
「はい! 中も見てくれるとのことで、ウチ、護先輩が来てくれて本当に嬉しいです!」
「ん? 中?」
俺は下獄の言葉を繰り返す。聞き間違いであってほしいと願うも、下獄の「はい!」と笑う笑顔の前では、どうやら願いは聞き届けてくれなさそうだ。
さっきも言ったが、入口からおどろおどろしい雰囲気が出ているし、心なしか冷気も溢れ出ている気がする。更に聞こえてくる悲鳴が「きゃー」とか「うわー」ではなく、明らかに命の危険が迫った時に出るような声なのも頂けない。
「入らなきゃ、駄目?」
「大丈夫です、ウチもいますから!」
むしろ後輩の前で情けない姿を見せたくない気持ちのほうがデカいのだが、だからといって一人で入る勇気なんて更にない。だから俺は震える声をなんとか押さえつけて、
「イコウカ」
と引き笑い気味で下獄に手を差し出した。
入る際、グループひとつにつき、ペンライトをひとつ持たされ、その明かりを頼りに歩いていく。最初に出るための条件を書いた紙も渡され、それをクリアすれば出口に向かえるらしいのだが。
「お化け屋敷ってか、脱出ゲーム……」
いや、ホラー要素もあるのだ。ひとりでに動くマネキン、空飛ぶ洋服、誰も立っていないのにお会計をするキャッシャー。条件を満たすために入った倉庫では、段ボールが雪崩のように倒れてきた。当たる寸前で止まったけれど。
それよりも手が込んでいると感じたのは、脱出ゲームそのものの仕掛けだ。意外と頭を使わせる内容で、人によっては解けないんじゃないかと心配になる。
「なかなか難しいな……」
「ウチは内装を考えただけで、問題は他のクラスの子がやってくれたんです」
「へぇ。あ、こうか?」
部屋にあったパネルをポチポチと操作していく。俺たちが今いるのは、どうやら監視カメラの映像が全部見える部屋のようで、モニターには他の催し物を楽しむ生徒の姿が写っている。と。
ビーッ、ビーッ、ビーッ。
「え? やば、間違えた?」
「これは……、先輩、逃げましょう!」
「逃げる?」
話の意味がわからず、モニターと下獄を交互に見やる。するとモニターに目が写りだし、その目が一斉にギロリとこちらを睨んできた。
「は?」
そのまま見ていると、目から赤いビームのようなものが発射された。
「先輩!」
「っ」
咄嗟に引っ張られ、俺は下獄のほうへ倒れ込む。ビームが床に当たり、今まで俺が立っていたその場所が一瞬にして蕩けた。いいか、溶けたんじゃない、蕩けたんだ。
「は、え? どういうこと……」
「先輩、こっちです!」
「えええ!?」
俺は下獄に横抱きにされ、無理やり監視室から出された。逃げる最中にも、廊下の天井やら壁に目が現れては、容赦なくビームを打ち込んでくる。
「待って待って! どうなってんのこれ!」
「お化け屋敷の真の力、剥がれゆく心が発動したんです!」
「だから何それ!」
足元に撃たれたビームをジャンプでよける。カツン、と落ちたペンライトに当たってペンライトが蕩けた。
「人は自分の心を化かしたり、嘘で覆い隠しながら生きています。あのビームに当たると、その膜や嘘を剥がし、本当の心を曝け出すようになるんです!」
「そんな機能なんで入れた!?」
「吊り橋効果を更に高めるためです!」
「それで喧嘩しちゃったらどうすんの!」
余計も余計な機能だ。つかそんな機能どうやって作ったんだ。お化け屋敷の他の場所でもビームが出ているのか、当たったらしい被害者たちの悲鳴が聞こえた。なんか俺のせいですまん。
出口っぽい明かりが見え、俺は下獄に「あそこだ!」と腕に抱えられながら叫んだ。この際、男に横抱きにされているのは気にしちゃ駄目だ。
「……っ!」
「下獄!?」
どうやら下獄の足をビームが掠れたらしい。下獄は顔を歪め、そのまま転んでしまう。俺に怪我を負わせまいとしたのか、俺には怪我ひとつない。
「おい、下獄! 下獄!」
「はあっ、はっ……。護先輩、行って、ください。ウチはもう、ダメ、ですっ」
「何言ってんだよ、ここまで来たのに」
そこまで言って俺は気づく。這い寄る呻き声が、出口を目指して向かってきているのを。そして下獄の頬が高潮し、息が荒くなっているのを。
「護先輩。ウチ、護先輩に乱暴したくないんです。だから」
「よしわかった。ありがとな、下獄」
「え? 護先輩、え? え?」
冷たい奴と言うなかれ。
俺は辛そうな下獄をほっといて、とっとと出口から外に出た。背後からいやに艶めいた声がたくさん聞こえてきたが、もう考えないことにして。
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