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九月
大改造! 屹立パワーで大☆学祭! その6
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何が嬉しくて、センパイと一緒にカレーを食わねばならんのか。二杯目のカレーをかけてから、俺はスプーンを口にかき込むセンパイに対しため息をついた。ちなみにセンパイ、これで五杯目だ。どんだけ食うつもりなのか……。
「ひょっほ、ひゃめいきひゅかないへよ」
「口に物入れたまんま喋んな、きたねぇ」
「ん」
注意をすると、意外にもセンパイはすんなりと受け入れてくれた。カレーを腹へ押し込んでから水を一杯飲み干し、それから母さんに「ありがと、おばさん」と素直に礼を口にする。
「センパイ、ちゃんと礼言えたんすね」
「当たり前でしょ。屹立家の人間なんだから」
礼を言うのに“屹立家だから”というのは意味がわからないが、それでもまだ言うだけましか。俺も二杯目を平らげてから「ご馳走様」と席を立った。
自分とセンパイの皿をシンクへ運べば、母さんからデザートにと切られた梨が盛られた皿を渡された。渋々受け取って席へ戻り、梨をひとつ摘む。
「で? センパイたちでも喧嘩するんすね」
これも意外だ。いや、この面倒くささに嫌気が差して、軽い言い合いになっただけかもしれないが。
「するに決まってるじゃない。ま、アンタは兄弟いないみたいだし? 知らないかもしれないけど」
「そっすか」
確かに俺、御竿護に兄弟はいない。だけど前世では妹が一人いたわけだし、完全な一人っ子ではない、と思う。
「それで? 喧嘩内容は?」
「どっちが上か下かで揉めた」
「母さーん、林檎あるー? 俺食べたいから切るわー」
「ちょっと。聞いといて無視しないでよ」
聞いて、いや心配して損したわ。そもそもこの兄弟、俺らと感覚が違うのだし、喧嘩の内容だって変わってて当たり前だ。
俺はいそいそと冷蔵庫から林檎をふたつ取り出すと、包丁片手に林檎を切り始める。適当にぶつ切りにしとけばいいか。
「いつもはボクが上で壱が下なんだけど」
「皮ついたまんまでいいよな」
「今日はボク、下がいいって言ったの。いつも上ばっかり飽きるから、たまには下がいいって」
「おー、我ながら皮むき上手いもんだなー」
「上だとね、下界を見下ろす感じがして好きなんだよねー。それで壱、なんて言ったと思う? “非効率的だ、今さら変わる気などない”って言ったんだよ! 酷くない?」
「ほれ、食うか?」
「食べる!」
いつの間にか無くなった梨の代わりに、今しがた切った林檎を乗せて戻れば、センパイは待ってましたとばかりに林檎に手を伸ばした。この調子だと俺の分が無くなりそうだが、ま、口が塞がってりゃ余計なことも言うまい。万事オッケーだ。
「それで、アンタはどう思う?」
「聞いてなかったし、聞く気もない。食ったら出ていけ」
「やだ。意見言ってくれるまで出ていかない」
「お前は面倒くさい彼女かなんかか? 重たい奴は嫌われるぞ」
「でも壱は重いって言わないもん」
「じゃ、それが会長の答えなんだろ。家にいたとこで寝る場所もねぇから、そろそろ帰れ。玄関までは見送ってやる」
「アンタ、優しいのか優しくないのかどっちなの」
話しながらもセンパイは口をせかせかと動かしていき、最後のひと欠片に手を伸ばしたところで、それを俺が摘んだ。
「あー! ボクの!」
「俺が切ったんだっつの。ほれ、帰れ」
皿をシンクへ持っていく。皿を洗うついでに手も洗ってから、センパイのシャツの襟首をがしりと掴んで無理矢理引っ張ろうとし。
ピンポーン。チャイムが鳴った。
「はいはーい。お母さんが出ますよー」
母さんも軽く手を拭いてから玄関へ向かう。
「あら! 壱くん、終くんがお迎えに来てるわよー!」
「だからおばさん、ボクは終……って、嘘! 壱!?」
襟首を掴んでいた俺の手を振り払うと、センパイは一目散に玄関に駆けていく。音を立てるな、音を。ご近所迷惑でしょうが!
少し遅れて俺も玄関へ行けば、確かにそこにはパジャマ姿の会長がいた。いや、いくら目の前だからって、人様ん家にパジャマで来るなよ。コンビニじゃないんだぞ。
「壱! あの、あの、ボク……」
「全く。護くんのご家族にまで迷惑をかけて、貴様は何をしているのだ。まぁ構わんが」
「いや構えよ! こちとら梨と林檎たらふく食われてんだよ!」
明らかに俺はそんなに食ってない。ほとんどセンパイだ(もちろんカレーも)。
「それはすまなんな。後日お詫びの品を持参しよう。さて終、帰るぞ。布団も上下で変えておいたからな」
「え? え? でも壱、非効率的だって……」
「下がいいと言ったのは貴様だろう。少し手間取ってしまったが、これで寝れるはずだ」
「壱……」
なんだ。なんか感動的な雰囲気になっているが、ちょっと待ってほしい。まさか上下の話って……。
「二段ベッド……?」
「当たり前じゃん! 早く帰ろ、壱!」
そう言って腕に巻き付いてきたセンパイを宥めると、会長は「では失礼した」と軽く会釈をして出ていった。
「……くだらな」
どうでもよくなった俺は、疲れた身体を引きずるようにして風呂場へと向かった。ちなみに後日、高級梨と高級林檎の詰め合わせが届いた。
「ひょっほ、ひゃめいきひゅかないへよ」
「口に物入れたまんま喋んな、きたねぇ」
「ん」
注意をすると、意外にもセンパイはすんなりと受け入れてくれた。カレーを腹へ押し込んでから水を一杯飲み干し、それから母さんに「ありがと、おばさん」と素直に礼を口にする。
「センパイ、ちゃんと礼言えたんすね」
「当たり前でしょ。屹立家の人間なんだから」
礼を言うのに“屹立家だから”というのは意味がわからないが、それでもまだ言うだけましか。俺も二杯目を平らげてから「ご馳走様」と席を立った。
自分とセンパイの皿をシンクへ運べば、母さんからデザートにと切られた梨が盛られた皿を渡された。渋々受け取って席へ戻り、梨をひとつ摘む。
「で? センパイたちでも喧嘩するんすね」
これも意外だ。いや、この面倒くささに嫌気が差して、軽い言い合いになっただけかもしれないが。
「するに決まってるじゃない。ま、アンタは兄弟いないみたいだし? 知らないかもしれないけど」
「そっすか」
確かに俺、御竿護に兄弟はいない。だけど前世では妹が一人いたわけだし、完全な一人っ子ではない、と思う。
「それで? 喧嘩内容は?」
「どっちが上か下かで揉めた」
「母さーん、林檎あるー? 俺食べたいから切るわー」
「ちょっと。聞いといて無視しないでよ」
聞いて、いや心配して損したわ。そもそもこの兄弟、俺らと感覚が違うのだし、喧嘩の内容だって変わってて当たり前だ。
俺はいそいそと冷蔵庫から林檎をふたつ取り出すと、包丁片手に林檎を切り始める。適当にぶつ切りにしとけばいいか。
「いつもはボクが上で壱が下なんだけど」
「皮ついたまんまでいいよな」
「今日はボク、下がいいって言ったの。いつも上ばっかり飽きるから、たまには下がいいって」
「おー、我ながら皮むき上手いもんだなー」
「上だとね、下界を見下ろす感じがして好きなんだよねー。それで壱、なんて言ったと思う? “非効率的だ、今さら変わる気などない”って言ったんだよ! 酷くない?」
「ほれ、食うか?」
「食べる!」
いつの間にか無くなった梨の代わりに、今しがた切った林檎を乗せて戻れば、センパイは待ってましたとばかりに林檎に手を伸ばした。この調子だと俺の分が無くなりそうだが、ま、口が塞がってりゃ余計なことも言うまい。万事オッケーだ。
「それで、アンタはどう思う?」
「聞いてなかったし、聞く気もない。食ったら出ていけ」
「やだ。意見言ってくれるまで出ていかない」
「お前は面倒くさい彼女かなんかか? 重たい奴は嫌われるぞ」
「でも壱は重いって言わないもん」
「じゃ、それが会長の答えなんだろ。家にいたとこで寝る場所もねぇから、そろそろ帰れ。玄関までは見送ってやる」
「アンタ、優しいのか優しくないのかどっちなの」
話しながらもセンパイは口をせかせかと動かしていき、最後のひと欠片に手を伸ばしたところで、それを俺が摘んだ。
「あー! ボクの!」
「俺が切ったんだっつの。ほれ、帰れ」
皿をシンクへ持っていく。皿を洗うついでに手も洗ってから、センパイのシャツの襟首をがしりと掴んで無理矢理引っ張ろうとし。
ピンポーン。チャイムが鳴った。
「はいはーい。お母さんが出ますよー」
母さんも軽く手を拭いてから玄関へ向かう。
「あら! 壱くん、終くんがお迎えに来てるわよー!」
「だからおばさん、ボクは終……って、嘘! 壱!?」
襟首を掴んでいた俺の手を振り払うと、センパイは一目散に玄関に駆けていく。音を立てるな、音を。ご近所迷惑でしょうが!
少し遅れて俺も玄関へ行けば、確かにそこにはパジャマ姿の会長がいた。いや、いくら目の前だからって、人様ん家にパジャマで来るなよ。コンビニじゃないんだぞ。
「壱! あの、あの、ボク……」
「全く。護くんのご家族にまで迷惑をかけて、貴様は何をしているのだ。まぁ構わんが」
「いや構えよ! こちとら梨と林檎たらふく食われてんだよ!」
明らかに俺はそんなに食ってない。ほとんどセンパイだ(もちろんカレーも)。
「それはすまなんな。後日お詫びの品を持参しよう。さて終、帰るぞ。布団も上下で変えておいたからな」
「え? え? でも壱、非効率的だって……」
「下がいいと言ったのは貴様だろう。少し手間取ってしまったが、これで寝れるはずだ」
「壱……」
なんだ。なんか感動的な雰囲気になっているが、ちょっと待ってほしい。まさか上下の話って……。
「二段ベッド……?」
「当たり前じゃん! 早く帰ろ、壱!」
そう言って腕に巻き付いてきたセンパイを宥めると、会長は「では失礼した」と軽く会釈をして出ていった。
「……くだらな」
どうでもよくなった俺は、疲れた身体を引きずるようにして風呂場へと向かった。ちなみに後日、高級梨と高級林檎の詰め合わせが届いた。
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