上 下
72 / 185
九月

大改造! 屹立パワーで大☆学祭! その2

しおりを挟む
 始業式一発目から盛大に遅刻した。それもこれも、あの駄女神のせいだ。
 更に牧地から「二人で仲良く遅刻なんて♪」と言われたばっかりに、クラス中から野次が飛んでくる始末。猫汰と太刀根(特に猫汰)からは、ものすごい負のオーラを向けられた気がした。
 始業式の後は普通に授業だ。といっても、宿題や課題の確認と、前期の復習を少し。本格的な授業は明日からになる。
 そうして、地獄の放課後がやって来たわけだ。

「はぁ……」

 四月に来てから一度も来ていない生徒会室。相変わらず豪勢な扉だこと。入る勇気も度胸もないが、これが生徒会の役目ならば仕方がない。

「会長、二年の御竿護っす。入りますよー」

 ヤル気の“ヤ”の字すら感じさせない掛け声と一緒に扉を開けた。

「屹立! 我が部の経費がこれだけとは、一体どういうことだ!」

 一番奥の机に座る会長。その一番豪勢な机をバンッと叩いて、会長に詰め寄っているのは確か……。

「騒がしいぞ、益州虎えきすとら。オレはさっきも言ったはずだ。どの部にも、公平に、平等に、経費は分け与えているとな」
「嘘をつけ、嘘を! ならばなぜ我が剣道部の経費が、他の部と比べて半分なのだ!」

 唾でも飛ばしそうな益州虎(たぶん名字は益州)先輩とは反対に、座ったままの会長は退屈だと言わんばかりに息をひとつついた。

「それも説明したはずだが? 貴様の健康診断結果、中間考査、更には六月の体育祭。そのどれもで、貴様は結果を出していない。部長である貴様がそれでは、部の経費も出すわけにはいくまい」

 そういえば、そんなことも言ってたかもしれない。だから皆張り切るんだとも。
 とりあえず俺は小さく「失礼しまーす」と言って、なるべく音を立てないようにして扉を閉めた。それから生徒会室を改めて見回せば、初めて見る役員の生徒たちが、各々の机で何かしら作業をしているところだった。

「ん? あぁ、護くんか。キミの席はこちらだ」

 会長が柔らかく微笑んで示したのは、

「……いや、そこ席じゃなく、会長の膝っすよね」
「何、遠慮することはない。座り心地も保証しよう。まぁ、気持ち良すぎて、意識を飛ばしてしまうかも、しれんがな」
「遠慮します、立ってます」

 誰があんなとこ座るか。座ったらそのまま人生終わっちまうわ。

「屹立!」

 俺たちのやり取りに構わず、益州先輩が声を荒げた。ちなみに机に手はついたままだ。

「それなら俺と勝負しろ! 俺が勝ったら部の経費を上げてもらおうか!」
「ほう……? それで、その勝負を受けるにあたり、オレのメリットはなんだ? 貴様の賭けるものは?」

 会長の顔は楽しそうではあるものの、勝負を受ける気にはまだなっていないらしい。手に持ったペン(高そうな万年筆に見える)をくるりと回してみせ、挑発するように益州先輩にちらりと視線をやった。

「俺の、俺の賭けるものは……」

 ずびし、と益州先輩に指を差される。

「彼だ」
「おいちょっと待て、いや待ってください。なんで俺なんすか」
「何を言っているんだ! 一緒に武道場にいた仲だろう!?」
「四月のこと? 四月のこと言ってんの? あれなら益州先輩とはほとんど関わってない……」

 揉める俺と益州先輩(もう先輩と呼びたくない)を眺めていた会長が、喉を鳴らして笑い、それからゆったりとした動作で立ち上がった。王者の風格、いや人外オーラ増し増しで。

「いいだろう。オレが勝った場合、護くんの護くんごと頂くとしよう」
「おいやめろその言い方。色々気持ちわr」
「俺が勝ったら経費を上げてもらうからな」
「構わん。まぁ、貴様がオレに勝つなぞ、奇跡すら霞むほどに有り得んがな」
「待って、ねぇ、俺の意思。俺の意思はどこにいっちゃったの」

 止める俺のことなど見えていないようで、会長は「貴様が勝負を決めろ」と自信満々に言い放ちながら扉へと歩いていく。対する益州は「剣道だ、今から部活だからな」と得意気に鼻を鳴らして後をついていく。

「ちょっと、俺! 俺は嫌なんですけど!」

 そうして俺はというと、二人を止めるため、嫌々ながらも後をついていくハメになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただあなたを守りたかった

冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。 ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。 ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。 両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。 その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。 与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。 令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。 ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。 だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。 領地にいたティターリエが拐われたというのだ。 どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。 婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。 表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。 ただティターリエの身を案じて。 そうして明らかになっていく真実とはーーー ※作者的にはハッピーエンドにするつもりですが、受け取り方はそれぞれなので、タグにはビターエンドとさせていただきました。 分かりやすいハッピーエンドとは違うかもしれません。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

処理中です...