70 / 185
八月
恐怖体験、コミックマーケット! その11
しおりを挟む
突然現れたブラシフォン、もとい太刀根は、俺の前まで足早にやって来ると、片手に抱えた大量の紙束を俺に突き出した。
「これ。頼まれてたグループ課題」
「あ、あぁ、ありがと……」
しどろもどろになりながらも、俺は渡された紙束を受け取ってから、何枚かペラペラとめくって中身を確認する。太刀根の少し角張った文字と、手書きの統計データが書かれていて、よくもこの短時間で仕上げたものだと感心した。
「で、護。俺を呼んだりして、今度はどうしたってんだ?」
「実は会長と猫、巧巳が……っ」
説明しようとするが、隣から漂う冷気に背筋が冷え、俺はそこから何も言えなくなってしまう。
「お、巧巳じゃん。つか、いつの間に名前呼びになってんだ? 俺のことも攻って呼んでくれよ!」
冷気を感じているのかいないのか。いや、これは鈍感なだけか。太刀根は歯を見せて笑うと、ビシリと親指を立てた。猫汰の眉間にはシワが寄っているし、正直、俺は猫汰も太刀根も名前呼びしたくないんだが。
「で。わざわざ課題を渡すために来たのかい? 違うんだろう?」
「もちろん! 会長に“これ以上護に近づくな”って言おうと思ってさ」
「あぁ、なるほど。それで……なら」
猫汰が手にしたホウキの先(掃くほうな)を会長へ向ける。
「君と手を組むというのも、やぶさかではないかもしれないね」
「へへっ。巧巳と二人で組むなんて久しぶりだな!」
「致し方なく、だ。勘違いしないでくれるかな」
俺を守るように、二人が武器という名の掃除用具を構えて立つ。すると、俺たち三人を嘲笑うように会長が喉を鳴らした。
「さて貴様ら、話は終わったか? 一人ずつだと手間だ、二人で来い」
「ほんっと……あんたってやつは……!」
「太刀根くん、挑発に乗っては……あぁもう!」
わかりやすい挑発に乗った太刀根が、緑のデッキブラシに跨る。それはどこかの魔女を思い起こさせる動きで宙に浮いた。いや、アウトだろ!
「食らえ! ブラシャボン!」
跨ったブラシの先端がパカリと折れ、そこから大量の泡が飛び出してくる。あれぞブラシフォンの技、一石二鳥のブラシがけだ! あれを空から降らすことで、いっぺんに床を泡だらけに出来る。
「全く……。だから貴様は駄目なのだ、太刀根攻」
言うと会長は、再び舞台に登ろうと奮戦していたセンパイの首根っこを掴んで、舞台へと引き上げた。
「へ? 何? 何々、壱?」
いきなりのことに追いつけないセンパイ。そんなセンパイのことなど構わず、会長は「ふっ」と口の端を持ち上げ笑うと、センパイを波乗りの板のように床へ敷いた。
「終、出番だ」
「ふごっ、ふごごごが!」
会長はうつ伏せのセンパイに容赦なく乗ると、なんと器用に泡の上を滑り出した。
「きちゅりちゅ! きゃははは!」
可愛い声援に混じって、たまにセンパイの悲鳴が聞こえる、気がする。
「あの野郎、仲間を犠牲にしやがった……」
「会長を倒すには、甘い考えでは駄目なようだね。ということで太刀根くん」
「ん?」
ブラシに跨り、猫汰の前にふよふよと飛んできた太刀根。それを猫汰は、バットよろしく手にしたホウキで会長に向かってスイングした。
やったやった。小学生ん時、チャンバラとか野球とか、ホウキでやったわ。
「あぎゃっ」
太刀根がボールみたいに飛んでいく。しかし会長は波乗りでそれを避けると、
「はっはっはっ、どうした? 所詮、貴様らはこれまでということだ」
「……舐められたものだね」
と猫汰が指先をくいと上に曲げた。すると真っ直ぐ進んでいたはずの太刀根が、指先の動きに合わせるように会長をホーミングしていく。
「え、ちょ、猫……巧巳。あれ何?」
「何って、ホーミングだよ。見てわからないかい?」
「いや、まぁ、そうなんだけど」
何も間違ってない。間違ってないんだけども。俺が聞きたいのはそこじゃないんだよ! なんでお前はそんなことが出来んだよ!
だが会長がホーミング太刀根に当たる気配は全くない。それどころか、太刀根は「吐くううう!」と叫び続けている。もちろん速さを緩める気など、猫汰には微塵も見られない。
「さて。貴様らと遊ぶのももう飽きた。終いとしよう」
余裕の表情を崩すことなく、会長は波乗りしたままで、チリトリを魔法の杖みたいに左右に大きく振った。途端にチリトリから、キラキラした雪みたいなものが飛び交い、そのキラキラは小さいお友達の手にふわりと乗る。
「わぁ! おかしだ!」
輝きが消えると、手の中には飴玉やらチョコレートやらが乗っていた。それは、チリトリコッタが使う魔法“星屑のステージ”と同じもの。お片付けが出来た子にかける、甘い甘い魔法。
「会長、あんたすごい……って、いない……」
キラキラに目を奪われている間に姿を消すのも原作通り。なんだ、あの会長、原作知ってるじゃん。
「……つか、これってセットなの!? それとも会長の力なの!? どっちなんだよ!」
さてその真実は……、いや子供の笑顔の前では無粋だよな。
「これ。頼まれてたグループ課題」
「あ、あぁ、ありがと……」
しどろもどろになりながらも、俺は渡された紙束を受け取ってから、何枚かペラペラとめくって中身を確認する。太刀根の少し角張った文字と、手書きの統計データが書かれていて、よくもこの短時間で仕上げたものだと感心した。
「で、護。俺を呼んだりして、今度はどうしたってんだ?」
「実は会長と猫、巧巳が……っ」
説明しようとするが、隣から漂う冷気に背筋が冷え、俺はそこから何も言えなくなってしまう。
「お、巧巳じゃん。つか、いつの間に名前呼びになってんだ? 俺のことも攻って呼んでくれよ!」
冷気を感じているのかいないのか。いや、これは鈍感なだけか。太刀根は歯を見せて笑うと、ビシリと親指を立てた。猫汰の眉間にはシワが寄っているし、正直、俺は猫汰も太刀根も名前呼びしたくないんだが。
「で。わざわざ課題を渡すために来たのかい? 違うんだろう?」
「もちろん! 会長に“これ以上護に近づくな”って言おうと思ってさ」
「あぁ、なるほど。それで……なら」
猫汰が手にしたホウキの先(掃くほうな)を会長へ向ける。
「君と手を組むというのも、やぶさかではないかもしれないね」
「へへっ。巧巳と二人で組むなんて久しぶりだな!」
「致し方なく、だ。勘違いしないでくれるかな」
俺を守るように、二人が武器という名の掃除用具を構えて立つ。すると、俺たち三人を嘲笑うように会長が喉を鳴らした。
「さて貴様ら、話は終わったか? 一人ずつだと手間だ、二人で来い」
「ほんっと……あんたってやつは……!」
「太刀根くん、挑発に乗っては……あぁもう!」
わかりやすい挑発に乗った太刀根が、緑のデッキブラシに跨る。それはどこかの魔女を思い起こさせる動きで宙に浮いた。いや、アウトだろ!
「食らえ! ブラシャボン!」
跨ったブラシの先端がパカリと折れ、そこから大量の泡が飛び出してくる。あれぞブラシフォンの技、一石二鳥のブラシがけだ! あれを空から降らすことで、いっぺんに床を泡だらけに出来る。
「全く……。だから貴様は駄目なのだ、太刀根攻」
言うと会長は、再び舞台に登ろうと奮戦していたセンパイの首根っこを掴んで、舞台へと引き上げた。
「へ? 何? 何々、壱?」
いきなりのことに追いつけないセンパイ。そんなセンパイのことなど構わず、会長は「ふっ」と口の端を持ち上げ笑うと、センパイを波乗りの板のように床へ敷いた。
「終、出番だ」
「ふごっ、ふごごごが!」
会長はうつ伏せのセンパイに容赦なく乗ると、なんと器用に泡の上を滑り出した。
「きちゅりちゅ! きゃははは!」
可愛い声援に混じって、たまにセンパイの悲鳴が聞こえる、気がする。
「あの野郎、仲間を犠牲にしやがった……」
「会長を倒すには、甘い考えでは駄目なようだね。ということで太刀根くん」
「ん?」
ブラシに跨り、猫汰の前にふよふよと飛んできた太刀根。それを猫汰は、バットよろしく手にしたホウキで会長に向かってスイングした。
やったやった。小学生ん時、チャンバラとか野球とか、ホウキでやったわ。
「あぎゃっ」
太刀根がボールみたいに飛んでいく。しかし会長は波乗りでそれを避けると、
「はっはっはっ、どうした? 所詮、貴様らはこれまでということだ」
「……舐められたものだね」
と猫汰が指先をくいと上に曲げた。すると真っ直ぐ進んでいたはずの太刀根が、指先の動きに合わせるように会長をホーミングしていく。
「え、ちょ、猫……巧巳。あれ何?」
「何って、ホーミングだよ。見てわからないかい?」
「いや、まぁ、そうなんだけど」
何も間違ってない。間違ってないんだけども。俺が聞きたいのはそこじゃないんだよ! なんでお前はそんなことが出来んだよ!
だが会長がホーミング太刀根に当たる気配は全くない。それどころか、太刀根は「吐くううう!」と叫び続けている。もちろん速さを緩める気など、猫汰には微塵も見られない。
「さて。貴様らと遊ぶのももう飽きた。終いとしよう」
余裕の表情を崩すことなく、会長は波乗りしたままで、チリトリを魔法の杖みたいに左右に大きく振った。途端にチリトリから、キラキラした雪みたいなものが飛び交い、そのキラキラは小さいお友達の手にふわりと乗る。
「わぁ! おかしだ!」
輝きが消えると、手の中には飴玉やらチョコレートやらが乗っていた。それは、チリトリコッタが使う魔法“星屑のステージ”と同じもの。お片付けが出来た子にかける、甘い甘い魔法。
「会長、あんたすごい……って、いない……」
キラキラに目を奪われている間に姿を消すのも原作通り。なんだ、あの会長、原作知ってるじゃん。
「……つか、これってセットなの!? それとも会長の力なの!? どっちなんだよ!」
さてその真実は……、いや子供の笑顔の前では無粋だよな。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
連れ去られた先で頼まれたから異世界をプロデュースすることにしました。あっ、別に異世界転生とかしないです。普通に家に帰ります。 ②
KZ
ファンタジー
初めましての人は初めまして。プロデューサーこと、主人公の白夜 零斗(はくや れいと)です。
2回目なので、俺については特に何もここで語ることはありません。みんなが知ってるていでやっていきます。
では、今回の内容をざっくりと紹介していく。今回はホワイトデーの話だ。前回のバレンタインに対するホワイトデーであり、悪魔に対するポンこ……天使の話でもある。
前回のバレンタインでは俺がやらかしていたが、今回はポンこ……天使がやらかす。あとは自分で見てくれ。
※※※
※小説家になろうにも掲載しております。現在のところ後追いとなっております※
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
ただあなたを守りたかった
冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。
ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。
ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。
両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。
その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。
与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。
令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。
ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。
だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。
領地にいたティターリエが拐われたというのだ。
どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。
婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。
表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。
ただティターリエの身を案じて。
そうして明らかになっていく真実とはーーー
※作者的にはハッピーエンドにするつもりですが、受け取り方はそれぞれなので、タグにはビターエンドとさせていただきました。
分かりやすいハッピーエンドとは違うかもしれません。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる