上 下
66 / 190
八月

恐怖体験、コミックマーケット! その7

しおりを挟む
 アマゾンの奥地に行ったことがあるか? 俺はない。だけど今の気分はそんな感じだ。
 未知への遭遇、そして邂逅、そこから流れてくる快感。俺は今、この“人外エリア”にて、新たな自分の性癖と向き合っていた。

「御竿くん」
「うーん」
「御竿くん」
「うん」
「はぁ……。御竿くん」
「おわっ」

 耳に息を吹きかけられて、俺は自分でも驚くほどの跳躍力を発揮し飛び上がった。それを見た猫汰が顔を背け、肩を微かに揺らす。どうやら笑っているらしい。

「な、何、猫……巧巳」
「いや、随分熱心に見てるなって。キラキュアだよね、それ」
「そうそう」

 俺が見ているアニメ“お掃除戦隊☆キラキュア”は、掃除用具をモチーフにした女の子たちが、世界の汚れを落とすために日夜紛争している話だ。
 そのキラキュアの二次創作であろう表紙には、ピンク髪の子が、反乱を起こした掃除機に吸われている絵が書いてある。人外ってそういうことかよ。

「君が好きなのは、確か黄色の子だっけ」
「そうそう、モップリンな……ってなんで知ってんの」

 先に言っておくが、俺は猫汰どころか、学校でキラキュアの話なんてしたことない。俺がキラキュアを見ていることも、好きなことも、ましてや推しがモップリンであることも知らないはずだ。

「僕は君のことならなんでも知っているよ。推しがモップリンなのも、その相手の子が白髪のホウキナコなことも」
「やめて、暴露しないで!」
「ほら、これなんか君が好きそうだけど」

 猫汰が手にしたのは、モップリンとホウキナコが抱き合う、なんとも百合百合しい表紙の薄い本だ。なぜか二人してスクイジーの柄を舐めている。汚いからやめなさい。

「まずさ。まずね、俺の趣味嗜好を決めないでくれますかね?」
「嫌いかい?」
「大好物です、ありがとうございます」

 にしても。
 BLゲーのくせに百合とは。一体何を目指してんだ、この運営は。いや、これはメインに関係ないからアリなのか?

「すみません、これください」
「ありがとうございます」

 考えてもしょうがないし、とりあえず俺は代金を支払って本を受け取る。人外って、もうちょっと違うもん想像したんだが、確かに人外だし嘘は言ってない。
 後で楽しむとしよう。あかん、顔がニヤける。

「ねぇ御竿くん」
「ん?」
「結構楽しんだと思うし、そろそろ出ようかと思うんだけど」
「っと、そうだな。会長は? 来てない?」
「大丈夫。ここに来る途中のブースで止まっているよ」

 会長が好きそうなもんあったかな。いや、考えたくない。俺は頭を横に振ってから「ならいい」と歩き出す。

「にしても、猫汰も好きだったのか? キラキュア」
「ん? まぁ、好きというか、あの格好、いいなと思ってね」
「だろ!」

 まるで同志が出来たみたいで嬉しい。しかし、

「御竿くんに似合うと思うよ」
「は?」

 何。似合う? 何が?
 つい足が止まる。行き交う人に邪魔にならないか不安になったが、そこは主人公補正なのか、それとも進行上の都合なのか。誰も俺たちにぶつかることはない。

「モップリンの服。御竿くんなら可愛く着こなせると思うんだ。僕はホウキナコを着るから」
「着こなしたくないし、それを着て何すんの。ハロウィンにはまだ早いからな?」
「僕はいつでもいいよ。慌てなくて大丈夫」
「だから着ねぇって」

 着る着ないの押し問答を続けながら、会場の出口を目指す。しかし俺は忘れていた。会長よりもある意味厄介な、ヤバいあいつもまたこの俺を探していたことに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

愛無き子供は最強の神に愛される

神月るあ
ファンタジー
この街には、『鬽渦者(みかみもの)』という子供が存在する。この子供は生まれつき悪魔と契約している子供とされ、捨てられていた。13歳になった時の儀式で鬽渦者とされると、その子供を捨てる事で世界が救われる、としていたらしい。 捨てられた子供がどうなったかは誰も知らない。 そして、存在が生まれるのはランダムで、いつ生まれるかは全くもって不明らしい。 さて、捨てられた子供はどんな風に暮らしているのだろうか。 ※四章からは百合要素、R13ぐらいの要素を含む話が多くなってきます。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...