上 下
62 / 185
八月

恐怖体験、コミックマーケット! その3

しおりを挟む
「御竿さん……」

 観手が床に落ちた(叩きつけた)本に目をやる。俯き気味でよく見えないが、流石にやりすぎたかと内心焦りだした俺に、

「も~! 実はちゃんと読んでたんですね! 恥ずかしがり屋さんなんですから~!」
「は!? どういうこと!?」

と、これでもかというほどに頬を高揚させて、観手は鼻息荒く本を拾い上げると、あるページを開いてみせた。半強制的に読ませられる形になり、見たくもない絵(絵はとても上手い)と台詞が目に入ってくる。

『そもそもなんで会長みたいなすげぇ奴が、俺なんかに構うんだよ』
 ~中略~
『否定的な割に、キミのここはオレを待っていたようだが? 身体は正直なようで何よりだ』
『あっ、んん……。待って、たまる、か……クソッ』
『その強がりもいつまで保つか……、楽しみだ』
『かい、ちょう……、もう』

 俺はそこまで目を走らせ、観手の手から本を引ったくるようにして取り上げた。

「なんで俺がこんなに乙女なんだよ!」
「あれ、もしかして左右逆でした? 解釈違いかな~」
「解釈どころか、そもそも、最初から、前提が違うんだよ!」

 首を傾げる観手。もう相手してられるかと、俺はブースの裏に行きかけ、

「待ちたまえ、護くん」
「うわっ」

 突如として後ろから伸びてきた手によって、自分の意思とは関係なく引き止められることに。

「折角、彼女たちが一生懸命作ったものだ。そんな言い方はないだろう」

 もちろん俺を引き止めたのは会長だ。何を思ったのか、あの表紙と全く同じ構図、同じポーズを取り、俺の顎に手を滑らせる。当たり前だが、あの本みたいな声が出るわきゃない。

「ぎゃあああ! 寒気! 寒気が!」
「夏だというのにか? それならオレが暖めよう」
「やめてぇぇえええ!」

 その腕から逃れようとするが、なんだこいつ、細い割に力ありすぎだろ! いや会長だぞ、人間なわけがなかった! 馬鹿だろ俺!
 指が顎から耳に移動する。全身がぶるりと震えたのは薄ら寒さからだ、決して観手や周囲のお姉様方が望む展開からではない。

「会長! お願いします、この台詞を読んでください!」

 興奮したままの観手が、試し読みの一冊を手にし、会長にどんとページを突きつける。会長が「ほう、面白い」と耳元で話すものだから、俺は更に鳥肌が立った。

「“自分がオレに相応しくないと思っているのだろう? ならばわからせるまでだ。キミが、キミの心が、キミの身体に素直になるまで”」
「ひぃいいいい!」

 背中どころか全身に鳥肌が立つ。心なしか頭も痛くなってきた。お姉様方はなんか悲鳴を上げてるし、観手はもちろん俺の言葉なんて届かないだろう。
 ヨシさんはどうかといえば。

「良い……」

 あかん! あの人もやっぱり同類だったよこんちくしょう!

「離せぇぇえええ! 嫌だあああ!」

 まじで限界が迫った時。
 足元に小さな筒が転がってきたかと思うと、それはすごい音を発し、一瞬にして視界を真っ白に染め上げた。俺は前世でこれを見たことがある。
 FPSでよく使われる、フラッシュバン、だ――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただあなたを守りたかった

冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。 ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。 ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。 両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。 その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。 与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。 令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。 ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。 だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。 領地にいたティターリエが拐われたというのだ。 どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。 婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。 表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。 ただティターリエの身を案じて。 そうして明らかになっていく真実とはーーー ※作者的にはハッピーエンドにするつもりですが、受け取り方はそれぞれなので、タグにはビターエンドとさせていただきました。 分かりやすいハッピーエンドとは違うかもしれません。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

異世界のリサイクルガチャスキルで伝説作ります!?~無能領主の開拓記~

AKISIRO
ファンタジー
ガルフ・ライクドは領主である父親の死後、領地を受け継ぐ事になった。 だがそこには問題があり。 まず、食料が枯渇した事、武具がない事、国に税金を納めていない事。冒険者ギルドの怠慢等。建物の老朽化問題。 ガルフは何も知識がない状態で、無能領主として問題を解決しなくてはいけなかった。 この世界の住民は1人につき1つのスキルが与えられる。 ガルフのスキルはリサイクルガチャという意味不明の物で使用方法が分からなかった。 領地が自分の物になった事で、いらないものをどう処理しようかと考えた時、リサイクルガチャが発動する。 それは、物をリサイクルしてガチャ券を得るという物だ。 ガチャからはS・A・B・C・Dランクの種類が。 武器、道具、アイテム、食料、人間、モンスター等々が出現していき。それ等を利用して、領地の再開拓を始めるのだが。 隣の領地の侵略、魔王軍の活性化等、問題が発生し。 ガルフの苦難は続いていき。 武器を握ると性格に問題が発生するガルフ。 馬鹿にされて育った領主の息子の復讐劇が開幕する。 ※他サイト様にても投稿しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...