【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕

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七月

夏だ! 海だ! 無人島だ!? その13

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 肌寒さを感じて起きる。水平線から昇る朝日に目を細め、改めてこれが夢でないことを実感させられた。
 昨夜は折角作ったテントを破壊し(俺のせいではない)、鏡華ちゃんの無言の怒りの波動を浴びて(俺はとばっちりだ)、仲良く砂浜に正座していたら、いつの間にやら眠っていたらしい。
 どこから拾ってきたのかわからないが、俺たち全員に被さるように、ビニールシートがかけられていた。ちなみにセンパイは吊るされたままだ。

「お。御竿起きたか」

 ぼーっと朝日を見ていた俺の後ろから、鏡華ちゃんが「飲め」と何かが入った容器を差し出してきた。上手く回らない頭で「っす」とだけ返事して、その容器を受け取った。

「……美味い」

 汁をすすれば具材も何も入っていないが、微かにカニの風味がした。

「カニが朝採れたんだ。出汁には丁度よかったからな、腹は膨れんかもしれんが、足しにはなるだろ」
「っす」

 それを飲み干し、立ち上がる。隣の観手はまだ眠ったままだ。
 パーカーの隙間から見える水着。そこから見える谷間に緊張し、俺はすぐに視線を反らした。いくらあいつらが興味ないからって、もう少し危機感は持っとけっつーの。

「鏡華ちゃん、あれからなんかあった?」
「特になーんも」
「会長は? 会長は見つかったのか?」
「見つからなくたって、アレは早々死ぬ奴じゃあねぇよ」

 別に会長が死ぬとは思っていない。あの人外なら、なんとかしてくれそうだなって思っただけ――

「はーはっはっは。待たせたな、護くん! そしてその他大勢よ!」
「そうそう、こんな感じで登場してさ……って会長!?」

 驚きと共に声のしたほうを見る。しかしそこには昨日入った森が広がるだけで、会長の姿なぞ見えやしない。

「会長?」

 もう一度呼べば、再び会長の高笑いが聞こえ、それからパチンと指を鳴らす音が響いた。

「……はぁ!?」

 森が意思を持っているかのように動き出し、まるでファンタジー世界のように左右に別れて道を作ったのだ。その道の先に、これまた赤い屋根の洋館がある。ミステリーとかホラーで出てくるようなあれだ。

「いや、なんでもアリすぎでしょ……」

 呆れを通り越し、俺は、会長だからと納得してしまった。だってそうだろ? 指パッチンで森が動いて、整った石畳の道が現れて、家まであるんだぞ?
 呆気に取られる俺の横で、鏡華ちゃんが「流石は会長サマだな」と口の端を持ち上げた。いや、うん、もういいや……。
 肝心の会長はどこかと言えば、その洋館の屋根に足を組んで座っている。様になっているのがまたムカつく。

「やぁ護くん。迎えに来るのが遅くなってしまい、大変申し訳ない」
「迎えは待ってないっす。助けなら待ってるっす」
「とりあえず朝食を摂ろうじゃないか。護くん、それから先生がた、もちろんご子女も」
「え、あの、弟はどうすんすか……」

 ちらりとセンパイを見る。火は消えたものの、吊るされたままのセンパイの手首と足首は真っ赤になっているのがわかる。兄なら心配するとこだろ。

「アレはあのままで構わん。が、護くんがアレに興味あるのなら連れて行こう」
「ないっす」
「終」

 ないと言ったのに、構わずに会長はセンパイの元へ行くと、手刀で丸太を細切れにした。宙を待っていく元丸太を、目を点にしながら俺は見つめる。
 地面に落ちたセンパイを蹴り上げながら、

「終、起きないか。そろそろ時間だろう?」
「んー、まだボク寝てる、よ……」
「そうか、寝てるのか。ならば仕方がない」
「いや起きてますよね? 今返事してましたもんね」
「終、寝てるのならば、お預けになるが……。まぁ、それも仕方のないことか」

 そう会長が言えば、センパイは目をカッと開いて、会長に抱きついたかと思うと肩口に顔を埋めた。そのまま子供みたいに首を振る。

「やだやだ! お願い壱、ボクを見捨てないで!」
「ほう? その割に、やけにソレを気に入っていたようだが?」

 ソレ、と示したのは元丸太だ。

「こんなの壱と比べたら、ううん、比べられないくらい、壱のほうがいいに決まってるじゃない!」
「離そうとしなかったようだが?」
「それは猫汰巧巳が……」

 言い訳をするセンパイの髪を掴み、会長はセンパイを無理矢理引き剥がすと、あからさまなため息をついた。

「だから貴様は駄目なのだ。仮にも屹立の名を語る者ならば、引けを取らぬように精進することだ」
「壱……、だって……」

 まだ何か言いたげなセンパイを、乱暴に地面を振りほどいてから、会長は「待たせたな」と俺に微笑んだ。引き気味の俺を他所に、いつの間に起きたのか、太刀根が「ひゃっほーい」と家に走り出すのを見て、俺は深く深くため息をついたのだった。
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