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七月
夏だ! 海だ! 無人島だ!? その11
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さて、こうして会長だけが揃わないまま時間が過ぎ、冒頭の場面に戻るわけだ。なんだっけ、飯を取ってきた太刀根、テントを張り終えた猫汰、なんか言ってるセンパイや諸々いた気がすんな。
もう覚えてないが、そも会話を覚える気すらあんま無いから気にしたら負けだ。
「日も落ちてきたし、お前らは今日はもう休め」
太刀根が取ってきた魚を焼きながら、鏡華ちゃんが「カマ野郎は寝んなよ」と牧地に釘を刺している。
「ゆっくり休めねぇかもしれんが、助けがいつ来るともわからん。面倒いことは大人に任せて、ガキは健康第一でいることを考えろ」
「それはいいけどさ。鏡華ちゃん、観手も同じテントで?」
俺ははふはふと魚にかじりつく観手を見る。いくらこいつが女神といえど、男だらけの中に女がいるってのは、ほら、ちょっと危ないだろ。
そんな俺の心配を他所に、観手は魚の刺さったままの串を軽く上下に振りながら、
「御竿さん、心配なら御無用ですよ。何せ、皆さん紳士ですから。そんなこと考えているのは、御竿さんくらいですよ?」
口の端を軽く持ち上げ笑うと、観手は「御竿さんのえっち~」とまた魚にかじりついた。
「いや、だってお前……」
言いかけて気づく。
待て。このゲームのヒロイン(?)は誰だ。観手か? まずヒロインっているの? てか主人公は俺だから……。
「はっ」
視線を感じ、一同を見れば。
「護、そんなこと考えてたのかよ……」
「御竿くん、少しは場を考えて発言しなよ」
「護先輩、ちょっとがっかりです……」
「御竿、カウンセラー必要か?」
「御竿ちゃん、いつでも抱きしめてあげるわよ?」
「御竿護、キミってやっぱり……」
総ツッコミされ、俺は取り繕うように頭を掻きながら、
「あー、えっと、そっか。いや、観手がいいならいいんだ。あ、鏡華ちゃん。俺も起きて見張りするよ!」
「何回も言わせんな。寝てろ、ガキ」
そう凄まれては、俺は大人しく「はい……」と身体を縮こませるしかなかった。
そうして身構えながら夜を迎えたわけだが。
「巧巳、早く寝たらどうだ?」
「生憎だけど、僕は慣れない場所で寝れないんだよ」
「そ、そういう太刀根先輩こそ、さっきから欠伸ばっかりしてますよ!」
「あーあーあー、煩いよキミたち。ボクは騒がしいと寝れないんだから、キミたちこそ早く寝なよね」
さっきからこの調子で騒がしい。四人が四人ともに、抜け駆けしないように見張っているのか、夜も遅いというのに一向に静かになる気配がない。
俺はそれを隅のほうで、体育座りをしながら眺めていた。観手はといえば、同じく隅で丸くなって寝ている。本当に寝てんのかな、これ。
「な、なぁ、もう皆寝よう? な?」
口を挟むまいと決めていたが、これでは煩くて寝れたもんじゃない。仕方なくそう提案すれば、
「じゃ、護は観手の隣で、俺がその隣な」
と早速太刀根が横になった。観手との間に、丁度一人分のスペースを空けて。
「なんで君が決めるんだい。御竿くんの意思は無視かい?」
いや、それ猫汰が言っちゃう?
「ねぇ、御竿護。ボク、抱き枕ないと寝れないんだよね。いつもなら壱がしてくれるんだけど、今日は特別にキミでいいよ」
「うるせぇ、センパイはそのへんの丸太と寝てください」
「丸太は冷たいでしょ!? ボクはあったかいのがいいの!」
「じゃ火つけてあげますんで」
俺も結構冷たいと思うんだが、これでもあったかいんだろうか。センパイ、人とどんだけ触れて来なかったんだろうか。と、俺の話を聞いていた猫汰が「ふうん」とセンパイに視線をやった。
「屹立先輩」
「何」
「ちょっと失礼します」
センパイの返事を待つ前に、猫汰はセンパイを軽々と肩に担ぎ、いそいそと外へ出ていく。その手際の良さに呆気に取られていると、
「やっ……、アンタ何、して……んん」
「先輩が寒いと仰るので、暖めてあげようかと」
「あぁっ、寒いなんて、言ってな……んあっ」
「どうです? だいぶん暖まってきたんじゃないですか」
「やだ、熱い……! こんなに熱いの、もうむりぃ!」
「意外と呆気なかったですね。今日はこれで十分でしょう」
「はぁ、はあっ……」
と何事もなかったように、猫汰が戻ってきた。もちろんセンパイは一緒じゃない。衣服に一切の乱れがないのを見るに、一体何をしていたのかと逆に気になり、
「猫汰、センパイは……?」
「ん? あぁ、夜の海は冷えるからね。少しあっためてあげてるんだよ」
現在進行系の物言いが気にならないわけじゃない。それでもそれ以上聞かなかったのは、それ以上、聞けなかったからだ。猫汰の薄ら笑いが怖すぎて。
もう覚えてないが、そも会話を覚える気すらあんま無いから気にしたら負けだ。
「日も落ちてきたし、お前らは今日はもう休め」
太刀根が取ってきた魚を焼きながら、鏡華ちゃんが「カマ野郎は寝んなよ」と牧地に釘を刺している。
「ゆっくり休めねぇかもしれんが、助けがいつ来るともわからん。面倒いことは大人に任せて、ガキは健康第一でいることを考えろ」
「それはいいけどさ。鏡華ちゃん、観手も同じテントで?」
俺ははふはふと魚にかじりつく観手を見る。いくらこいつが女神といえど、男だらけの中に女がいるってのは、ほら、ちょっと危ないだろ。
そんな俺の心配を他所に、観手は魚の刺さったままの串を軽く上下に振りながら、
「御竿さん、心配なら御無用ですよ。何せ、皆さん紳士ですから。そんなこと考えているのは、御竿さんくらいですよ?」
口の端を軽く持ち上げ笑うと、観手は「御竿さんのえっち~」とまた魚にかじりついた。
「いや、だってお前……」
言いかけて気づく。
待て。このゲームのヒロイン(?)は誰だ。観手か? まずヒロインっているの? てか主人公は俺だから……。
「はっ」
視線を感じ、一同を見れば。
「護、そんなこと考えてたのかよ……」
「御竿くん、少しは場を考えて発言しなよ」
「護先輩、ちょっとがっかりです……」
「御竿、カウンセラー必要か?」
「御竿ちゃん、いつでも抱きしめてあげるわよ?」
「御竿護、キミってやっぱり……」
総ツッコミされ、俺は取り繕うように頭を掻きながら、
「あー、えっと、そっか。いや、観手がいいならいいんだ。あ、鏡華ちゃん。俺も起きて見張りするよ!」
「何回も言わせんな。寝てろ、ガキ」
そう凄まれては、俺は大人しく「はい……」と身体を縮こませるしかなかった。
そうして身構えながら夜を迎えたわけだが。
「巧巳、早く寝たらどうだ?」
「生憎だけど、僕は慣れない場所で寝れないんだよ」
「そ、そういう太刀根先輩こそ、さっきから欠伸ばっかりしてますよ!」
「あーあーあー、煩いよキミたち。ボクは騒がしいと寝れないんだから、キミたちこそ早く寝なよね」
さっきからこの調子で騒がしい。四人が四人ともに、抜け駆けしないように見張っているのか、夜も遅いというのに一向に静かになる気配がない。
俺はそれを隅のほうで、体育座りをしながら眺めていた。観手はといえば、同じく隅で丸くなって寝ている。本当に寝てんのかな、これ。
「な、なぁ、もう皆寝よう? な?」
口を挟むまいと決めていたが、これでは煩くて寝れたもんじゃない。仕方なくそう提案すれば、
「じゃ、護は観手の隣で、俺がその隣な」
と早速太刀根が横になった。観手との間に、丁度一人分のスペースを空けて。
「なんで君が決めるんだい。御竿くんの意思は無視かい?」
いや、それ猫汰が言っちゃう?
「ねぇ、御竿護。ボク、抱き枕ないと寝れないんだよね。いつもなら壱がしてくれるんだけど、今日は特別にキミでいいよ」
「うるせぇ、センパイはそのへんの丸太と寝てください」
「丸太は冷たいでしょ!? ボクはあったかいのがいいの!」
「じゃ火つけてあげますんで」
俺も結構冷たいと思うんだが、これでもあったかいんだろうか。センパイ、人とどんだけ触れて来なかったんだろうか。と、俺の話を聞いていた猫汰が「ふうん」とセンパイに視線をやった。
「屹立先輩」
「何」
「ちょっと失礼します」
センパイの返事を待つ前に、猫汰はセンパイを軽々と肩に担ぎ、いそいそと外へ出ていく。その手際の良さに呆気に取られていると、
「やっ……、アンタ何、して……んん」
「先輩が寒いと仰るので、暖めてあげようかと」
「あぁっ、寒いなんて、言ってな……んあっ」
「どうです? だいぶん暖まってきたんじゃないですか」
「やだ、熱い……! こんなに熱いの、もうむりぃ!」
「意外と呆気なかったですね。今日はこれで十分でしょう」
「はぁ、はあっ……」
と何事もなかったように、猫汰が戻ってきた。もちろんセンパイは一緒じゃない。衣服に一切の乱れがないのを見るに、一体何をしていたのかと逆に気になり、
「猫汰、センパイは……?」
「ん? あぁ、夜の海は冷えるからね。少しあっためてあげてるんだよ」
現在進行系の物言いが気にならないわけじゃない。それでもそれ以上聞かなかったのは、それ以上、聞けなかったからだ。猫汰の薄ら笑いが怖すぎて。
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