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七月

夏だ! 海だ! 無人島だ!? その10

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 だいぶ日は傾いたようだが、それでもまだまだ明るい。空を飛ぶウミネコが羨ましく、俺はつい舌打ちをした。そうして海をただただ眺めていると、

「ん?」

 遠くで何かがキラキラと光るのが見えた。海の反射じゃない。明らかに誰かが合図を送っている光だ。

「先生! あれ!」

 俺は慌てて牧地を呼んだ。太刀根と二人で丸太を運んでいた牧地が「どうしたの!?」と、丸太から手を離してこっちに駆け寄ってくる。太刀根から「ぎゃ!」と悲鳴が聞こえた気がした。

「何か光っていませんか?」
「そうね、あれは……。じ、嬢ちゃん!」
「じょーって、下獄? いや流石にこの距離じゃ見えないっすよ」

 光っているのは見えるが、何が、どのようにして光っているのかまでは見えない。

「ふふふ♪ アタシ、こう見えて視力は10.0なのよ♪」
「冗談はキャラだけにしてください」
「んもう、失礼しちゃうわ♪」

 身体をくねらせながらそう言ってくるが、正直、牧地のそんな姿を見ても嬉しくもなんともない。それよりも、と俺は下獄 (らしい) の方角を見ながら、

「助けに行かなきゃマズくないっすか」

と改めて牧地に示す。助けに行くのは主人公である俺の役目かもしれんが、生憎俺はそんなカッコいい主人公でもなければ、泳ぎが得意なわけでもない。
 むしろ、ここは仮にも先生である牧地を頼るのが至極当たり前のことだろう。しかし牧地は呑気なもので、小首をちょこんと可愛く傾げてみせた。全然可愛くないが。

「そうねぇ、でも嬢ちゃんなら大丈夫だと思うのよ。あら、丁度いいところにサメも集まってるようじゃない♪」
「サメ!?」

 驚いて再び下獄 (たぶん) を見る。目を細めて見てみれば、確かに光の周囲を何かがぐるぐると回っているのが見えた。

「サメ! いや、何が大丈夫なんだっつの! 食われちまうだろうが!」
「大丈夫よ♪ 嬢ちゃんは騎乗位が大の得意だから」
「どうでもいいわ、そんな情報!」

 しまいに俺は、牧地の肩を掴んでがたがたと揺すった。それでも牧地はペースを崩すことなく「んもう」と苦笑いしたままだ。
 やっぱりここは俺が行くべきなのか? いや待て、これが好感度アップに繋がったらどうする? そう考えると海に飛び込む勇気はこれっぽっちも湧いてこない。
 俺は牧地から手を離し、それから足首まで海に入った。一瞬冷たさで身体が震えたが、すぐに慣れると下獄 (予想) を見据える。

「知り合いになったわけだしな、このまま見てるだけは後味が悪いし……」
「大丈夫だってば♪ ほら、見てみなさい」
「ん?」

 んんん? なんだ、何かこっちに向かってきてるような?

「げ、下獄!?」

 下獄 (確信) が、恐らくサメであろうそれに跨って、颯爽と波乗りするサーファーの如く、こちらに向かってきていた。結構なスピードだが、振り落とされるどころか、イルカを調教する飼育員さんのように乗り慣れている。

「護先輩!」

 そのままの勢いで砂浜に乗り上げてきやがった!

「サメ! サメが!」
「あぁ、この子ですか?」

 サメから「よいしょ」と降り、下獄はサメを愛おしそうに優しく撫でる。地上で息苦しいはずなのに、サメは特にそんな様子も見せず、むしろ鼻が高いとばかりに歯をギラつかせた。

「この子はサメオと言って」
「何サメオって」
「海で漂っていたウチを助けてくれたんです」
「なんでどこもかしこも雄ばっかなんだよ」

 サメ改めサメオは尾をビチビチと揺らし、褒めてほしそうに俺を見てきた。いや、サメだぞ、簡単に撫でるわけないだろ。鮫肌だし。

「助けてくれたお礼に、サメオの夢を叶えてたんです。サメオ、誰かを乗せて海を泳ぐのが夢だったんですよ!」
「そうか。それで、その、サメオは、帰らなくていいのか?」
「あ、そうですよね。サメオ、送ってくれてありがとうございました。早くご家族の元へ帰ってください」

 下獄に言われて帰るかと思いきや、サメオは帰りたくないのか尾を振ったままだ。

「きっと御竿ちゃんに撫でてほしいのね♪」
「いや撫でるって。無理でしょ」
「護先輩、触ってあげるだけでいいですから!」
「触るって……」

 サメをか? しかしサメオはキラキラした眼差しのまま俺を見つめている(気がする)。仕方なく、触るだけならと手を伸ばし、

「ぎゃ!」

 いきなりかじられた! 腕が千切れたかと悲鳴を上げたが、痛みも何もない。つか千切れてもいない。

「サメオは草食系サメなんで大丈夫ですよ!」
「……」

 草食系サメってなんだとか、サメなのに陸上で息すんなよとか、つかバイバイみたいにヒレを振るなよとか、言いたいことはたくさんあったが。
 とりあえず。

「腕があってよかったぁ……」

と俺は海に帰るサメオを見送った。
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