36 / 190
六月
掴み取れ! 勝利をこの手に! その6
しおりを挟む
下獄は保健室まで送ると言ってくれたが、俺はそれを辞退し、早く一年の席に戻るように促してから、二年の席に向かっていた。そこでちょうど会ったのは、ケツ圧測定の集合場所へ向かう猫汰だ。
「猫汰か……」
「あぁ、御竿くん。美脚競走、お疲れ様。久しぶりに走ったから疲れたんじゃない?」
「走った、のかな……」
むしろ走ったのは下獄だし? なんなら俺はお姫様抱っこされてただけだし?
「あああぁぁ」
思い出すと恥ずかしさが込み上げてくる。女子をお姫様抱っこしたこともないのに、まさか自分がされる日がくるとは。いや、お姫様抱っこだけで済んでよかったと、前向きに考えよう……。
遠くから、玉入れ断固拒否とかいう種目の実況が聞こえる。それなりに白熱しているようだが、ここからでは見ることは出来ない(特に見たくもないけど)。
「次、出るんだろ? まぁ、あんまり気負いすぎず、頑張ろうぜ」
力の入りきらない声で笑ってみせれば、猫汰は「ふーん」と鼻を鳴らした。
「それは応援のつもりなのかな? だとしたら、僕は言葉より行動で示してくれたほうが嬉しいんだけど」
そう言った猫汰が一歩、俺に近づいた。逃げようにも、さっき痛めた腰のせいで上手く動かせない。そのまま距離を詰められ、猫汰の手が俺の腰を抱き寄せた。
「いっ……つめた!?」
腰に何か当てられ、反射で身体が震える。
「って、これ湿布?」
「そうだよ。鏡華先生からもらってきたから、とりあえず腰を出してもらえるかい?」
「……」
疑う視線を向ける俺を、猫汰は頬を微かに緩めて笑い、
「このままだと、明日がきついよ?」
「……わかった、何もすんなよ?」
「もちろん」
体操服を少しだけ捲りあげ、猫汰に背中を向ける。一瞬ヒヤリとした後、じんわりと気持ち良さが広がった。
「猫汰、ありがとな」
「いいよ、それじゃ」
せめてゴミだけは自分で捨てるかと、猫汰からゴミを受け取る際、
「下獄嬢、か……。邪魔だな」
と聞こえたのは気のせいかもしれない。いや、すまんな、下獄。生き延びてくれ。
遠くなっていく背中を見送って、さて応援席へ行くかと振り返り、
「御竿さん、楽しんでますか?」
「ぎゃ!」
そこにいた観手に驚き、変な声が口から出た。
「いやぁ、いい感じにフラグ立ってますね~」
「うるせぇ。何しに来たんだ」
「そんな御竿さんに朗報です!」
「人の話聞いてるか?」
相変わらず聞いてるのか聞いてないのか。とりあえずは、観手が何か謂うのを待つことに。
「今、我が色は最下位です」
「まぁ……。そうだろうな」
今終えてきた美脚競走もそうだったが、パン食い競走然り、俺たちは点数を稼げていない。点数を計上しているわけではないが、まぁ予想はしていた。
「それで? どこが朗報なんだ」
「このまま最下位になると“オレが鍛えてやろう”エンドに突入します」
「うん? 何、そのエンド……」
聞きたくない。聞きたくないが、聞かなければいけない気がする。
「要はですね。まだまだ体を動かし足りないだろってことで、会長からの」
「あー、もういい、もうわかった。で? どうすれば最下位を抜け出せる?」
観手を遮って言えば、奴は少し不満げに眉を寄せた。
「私としてはこのエンドも捨てがたいのですが……。え~と、騎馬戦で勝てば問題ないですよ!」
「騎馬戦、よし騎馬戦だな」
前世でやったこともある。馬だったけど。このゲームの騎馬戦が、俺の知ってる騎馬戦と同じか知らんけど。
「ふふふ、頑張ってくださいね。まだまだ絡みを見ていたいんですから」
「お前のためじゃねぇよ。この駄女神」
そう、俺の操のためなのだから。
「猫汰か……」
「あぁ、御竿くん。美脚競走、お疲れ様。久しぶりに走ったから疲れたんじゃない?」
「走った、のかな……」
むしろ走ったのは下獄だし? なんなら俺はお姫様抱っこされてただけだし?
「あああぁぁ」
思い出すと恥ずかしさが込み上げてくる。女子をお姫様抱っこしたこともないのに、まさか自分がされる日がくるとは。いや、お姫様抱っこだけで済んでよかったと、前向きに考えよう……。
遠くから、玉入れ断固拒否とかいう種目の実況が聞こえる。それなりに白熱しているようだが、ここからでは見ることは出来ない(特に見たくもないけど)。
「次、出るんだろ? まぁ、あんまり気負いすぎず、頑張ろうぜ」
力の入りきらない声で笑ってみせれば、猫汰は「ふーん」と鼻を鳴らした。
「それは応援のつもりなのかな? だとしたら、僕は言葉より行動で示してくれたほうが嬉しいんだけど」
そう言った猫汰が一歩、俺に近づいた。逃げようにも、さっき痛めた腰のせいで上手く動かせない。そのまま距離を詰められ、猫汰の手が俺の腰を抱き寄せた。
「いっ……つめた!?」
腰に何か当てられ、反射で身体が震える。
「って、これ湿布?」
「そうだよ。鏡華先生からもらってきたから、とりあえず腰を出してもらえるかい?」
「……」
疑う視線を向ける俺を、猫汰は頬を微かに緩めて笑い、
「このままだと、明日がきついよ?」
「……わかった、何もすんなよ?」
「もちろん」
体操服を少しだけ捲りあげ、猫汰に背中を向ける。一瞬ヒヤリとした後、じんわりと気持ち良さが広がった。
「猫汰、ありがとな」
「いいよ、それじゃ」
せめてゴミだけは自分で捨てるかと、猫汰からゴミを受け取る際、
「下獄嬢、か……。邪魔だな」
と聞こえたのは気のせいかもしれない。いや、すまんな、下獄。生き延びてくれ。
遠くなっていく背中を見送って、さて応援席へ行くかと振り返り、
「御竿さん、楽しんでますか?」
「ぎゃ!」
そこにいた観手に驚き、変な声が口から出た。
「いやぁ、いい感じにフラグ立ってますね~」
「うるせぇ。何しに来たんだ」
「そんな御竿さんに朗報です!」
「人の話聞いてるか?」
相変わらず聞いてるのか聞いてないのか。とりあえずは、観手が何か謂うのを待つことに。
「今、我が色は最下位です」
「まぁ……。そうだろうな」
今終えてきた美脚競走もそうだったが、パン食い競走然り、俺たちは点数を稼げていない。点数を計上しているわけではないが、まぁ予想はしていた。
「それで? どこが朗報なんだ」
「このまま最下位になると“オレが鍛えてやろう”エンドに突入します」
「うん? 何、そのエンド……」
聞きたくない。聞きたくないが、聞かなければいけない気がする。
「要はですね。まだまだ体を動かし足りないだろってことで、会長からの」
「あー、もういい、もうわかった。で? どうすれば最下位を抜け出せる?」
観手を遮って言えば、奴は少し不満げに眉を寄せた。
「私としてはこのエンドも捨てがたいのですが……。え~と、騎馬戦で勝てば問題ないですよ!」
「騎馬戦、よし騎馬戦だな」
前世でやったこともある。馬だったけど。このゲームの騎馬戦が、俺の知ってる騎馬戦と同じか知らんけど。
「ふふふ、頑張ってくださいね。まだまだ絡みを見ていたいんですから」
「お前のためじゃねぇよ。この駄女神」
そう、俺の操のためなのだから。
1
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる