【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕

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五月

GWは引きこもっていたかった! その8

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 結局帰ってきたのは夜十時。母さん心配してるだろうなぁ、なんも連絡出来なかったし。

「ただいまー。母さん、ごめん、遅くなって」

 そう玄関へ入れば、いつも通りの母さんが「おかえりなさい」と朗らかに出迎えてくれた。あれ、意外と心配してないっぽい? 少しの物悲しさを感じながらも、俺は脱いだ靴を揃えた。

「その、母さん。夜飯なんだけど……」
「うんうん、どうだったの? 屹立さんとこのご飯。美味しかった?」
「まぁ、うん……って、待って。なんで知ってんの」

 俺の質問に、母さんは「だって」と頬に手をやりながら、首をちょこんと傾げてみせる。

「屹立さんとこのお兄さん、壱くんだったかしら? あの子がわざわざ、家まで伝えにきてくれたのよ。“護くんに弟がお世話になりました。お礼をさせてください”って」
「どこの昔話の恩返しだ」

 てか何。それじゃ会長、まさか最初から全部知っていて帰ってきたってこと? こわっ、まじで人間じゃねぇ。

「とりあえず風呂入って、今日はもう寝るわ」
「はいはい、脱衣所に着替え、用意してあるからね」

 母さんに軽く感謝だけ伝えて、俺は一日の疲れを落とすために風呂場へ向かう。用意されたタオルと着替えに、心の中でまた感謝しながら服を脱いでいく。
 ギャルゲーやエロゲなら、幼馴染の女の子がなぜか風呂に先に入ってて、お決まりのシチュエーションに待ってましたとなるんだが、生憎そんな優しいゲーム世界じゃない。

「ふーっ」

 身体と頭を洗ってから、小さめの湯船に浸かった。溢れたお湯が排水口に吸い込まれていくのを、ぼーっと見つめていると、

「御竿さん!」

 ピシャーン! と風呂場の小窓が勢いよく開けられ、そこから観手が顔を覗かせた。

「きゃあああぁぁあああ!」

 ご近所迷惑な、いや自分でも驚くくらい女子みたいな叫び声を上げてしまった。

「護? どうしたの?」

 脱衣所から母さんの声がした。

「変態! 変態がいる! 窓の外に!」
「まぁ! 積極的な子、お母さん大歓迎よ! でも護、守るべきところはちゃんと守るのよ?」
「え! 何、ママン味方じゃなかったの!? 俺、騙されてるの!?」

 何が悲しくて女子に風呂シーンを覗かれにゃならんのか。流石のBLゲームも、この展開にはびっくりだろう。母さんは「ごゆっくり~」と慌てもせず言い、脱衣所から出ていってしまった。

「……で、観手。この窓、それなりに高いはずなんだけど!」
「私は女神ですよ? このくらいなんでもないです!」

 段々と冷静になってきた頭で考え、それからタオルを腰に巻いて湯船の中で立ち上がる。観手をよく見てみれば、背伸びをしているのか小さくぷるぷると震えていた。

「ははーん。さてはお前、なんか台座に乗ってんな?」
「の、乗ってません! 私は女神です、これくらい平気なのですよ!」
「じゃ、俺あと三十分くらい浸かってようかな」
「待って待って、話をさせてください!」

 結構必死に訴えかけてくるが、忘れてはいけない。こいつのせいで散々な目にあったことを。

「やだよ。こちとら冷えちまうだろ。まだ風呂にいるから、勝手にそこで話してろよ」
「うぅ、やっぱり悪魔です……」

 恨み言を言われようが素知らぬ顔だ。再び湯船に浸かった俺は、首を左右にポキポキと鳴らした。

「じゃあ、用件お伝えしますね……。御竿さんの今の好感度状況ですが」
「うん? 好感度?」
「はい。おめでとうございます、全員MAXですよ!」
「何がめでたいのか言ってみろ!」

 なぜだ。なぜだなぜだなぜだ、なぜだ? フラグは立っていなかった、はず。いや、つうかまだ五月だぞ、全員チョロすぎだろ!
 混乱する俺を横に、観手は身体をぷるぷるさせながら話を続ける。

「今の状態でクリア出来るエンドがありまして、中間考査の順位が十位以内で、会長との“一生学ばせてやろう”エンド達成します。やりましたね、クリアですよ!」
「嫌な予感しかしねぇよ! つかお前、わざわざそんなん言いに来たんじゃないだろ?」
「あ、わかりました?」

 疲れた観手は背伸びをやめたのか、小窓からその姿が見えなくなる。

「まだ五月じゃないですか~。ここでクリアされたら、これからの楽しみが……あ、いえ、御竿さんがこういうエンドは嫌だろうなって思いまして、教えに来たのですよ!」
「おい本音漏れてるぞ。じゃ、寒いから閉めるな」
「え? ちょっと、御竿さ」

 ピシャリ。小窓を閉めて鍵もかける。まだ何か言っている気もするが、俺の頭の中は中間考査の作戦を考えるのに精一杯だ。
 だから俺は。
 そのまま頭を使いすぎてのぼせてしまったのだけど。
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