【完】BLゲームに転生した俺、クリアすれば転生し直せると言われたので、バッドエンドを目指します! 〜女神の嗜好でBLルートなんてまっぴらだ〜

とかげになりたい僕

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五月

GWは引きこもっていたかった! その6

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 どうしてこうなった……。

「遠慮しないで食べなよ!」

 ずらりと並んだ料理を前にして、センパイは仁王立ちして自慢げに鼻を鳴らしてきた。
 鳥の丸焼き、ローストビーフ、どこぞの高級食品を使ったとかいうパスタ。なぜ俺が、こんな豪華な料理を眺めているのか。それはかれこれ、二時間前まで遡る。

 センパイを背負ったまま歩き続け、家の前(センパイの家の前でもある)に着いたのは、日も暮れ始めた時刻だった。

「センパイ、着きましたよ」
「じゃ、早く中、入って」
「嫌です」

 間髪入れずに答えれば、センパイは俺の首にがっしりと腕を回し、耳元に唇を寄せてきた。これが女子だったのなら、背中に当たる柔らかい感触だったり、ふわっと香るいい匂いだったり。そして甘い声で、何か囁かれてドキリとするのだろう。
 ところがどっこい。俺の腰辺りに感じる生温い感触が何かなんて考えたくないし、匂いは無臭だし、息がかかる度に鳥肌が止まらない。そんな状態で、

「ねぇ、早く入って……?」

と言われたところで、更に悪寒が走るだけなのである。
 俺はそこで我慢の限界を感じ、何も断ることなく、センパイを背負投げの要領でぶっ飛ばした。不意を突かれたセンパイはそのまま背中から地面に落ちていく。

「いった! 本当に痛いんだけど!」
「じゃ、センパイ。俺はこれで」

 とっとと家に入ろうとする俺を更に引き止めようと、

「ボクをこんな目に合わせといて、ただで帰れると思わないでよね! SP、SP!」

とセンパイがありったけの声量でマンションに向かって叫んだ。ちなみにSPというのは、要人警護にあたる警察官のことで、間違ってもこんな一個人を警護するような立場の人ではない。

「センパイ、SPなんて大袈裟な……っ!?」

 しかし、その声を合図にマンションから出てきた屈強な男たちが、あっという間に俺たちを取り囲んでいった。全員白いスーツを着ていて、髪は剃られている。

「あの御竿護とかいう奴を連れ込んで!」
「イエス、マイブラザー」
「はぁ!? ちょ、ちょっと待てって、おいどこ触ってんだ! やめろ、やめろおおお!」

 あれよあれよという間に、俺は神輿のように担がれ、そのままマンションへ強制連行されたのだ。

 そうして並んだのが、この料理たち。ちなみに俺の両手には手錠がかけられている。

「食べないの? 嫌いなものでもあった?」

 この様子だと、悪気は全くないらしい。むしろおもてなしをしているつもりなのだろうか。

「とりあえずこの手錠を外してからそれを言え」
「やぁだよ。だってキミ、外したらボクを襲うだろ?」
「襲うかバカ! むしろ俺のほうが色々と危ねぇだろうが!」

 ちなみにこのマンション、最上階丸ごと双子の家らしい。いいか、ワンフロアだ。想像できるか? エレベーターが開いたらそこは玄関で、既に家の中にいたのだ。
 ちなみに特殊な鍵をエレベーターのボタン部分に差し込むと、このフロアへ辿り着けるらしい。どこのダンジョンかと言いたい。

「折角、このボクを送り届けたお礼をしてあげてるのに。何が気に食わないんだ」
「全部だよ!」

 ガチャガチャと手錠の音が鳴る。なんとか外そうとしてみるが、簡単に外れたら、それこそこいつにとって意味がないものになってしまう。外れる望みは薄い……。

「あぁ、早くご飯を食べたいんだね。心配しないでよ、ボクが直々に口に入れてあげるから」
「ちげぇよ! アニメが見れんだろ!」
「アニメ? それが不満だったのか。これでよしっと……」

 センパイが手元のリモコンで操作すると、天井から三台の薄型テレビが降りてきた。それぞれに、今の時間から放送されるアニメが映っている。

「何がいいのか説明しろ」
「もう、煩いなぁ。よいしょっと」
「おわっ、どこ乗ってんだ!?」

 奴(もうセンパイと言うまい)は、俺に跨るように座ってきた。手錠をかけられた両手の上に、生温かい嫌なものが当たり、俺は声にならない叫びを上げる。

「ん……、ちょっと、そんなに激しく動かないでよ」
「だったらお前がどけ! それで解決すんだろ!」
「ぁ、壱の手より少し小さい、ね……」
「ギャァァァあああ!」

 もう手が小さいとかまじでどうでもいい。飯でも肉でも野菜でも食う。でもお前(正しくは男全員)を食いたくはねぇんだよ! 食われるのも断固拒否だけど! そんな半狂乱な俺に届いた、

「終、何やら楽しそうなことをしているじゃないか」
「か、会長……」
「壱!」

の声は、果たして救いとなるのか。それとも秘密の花園への片道切符となるのか。魂が口から抜けそうになるのを、俺はただ必死で抑えるしかなかった。
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