21 / 190
五月
GWは引きこもっていたかった! その1
しおりを挟む
あっという間に四月は終わり、GWという名の恐ろしい休みがやってきた。誤解のないよう言っておくが、俺は別にGWが嫌いなわけじゃない。
それこそ転生する前は、友達と遊んだりだとか、家族でプチ旅行的な何かとかしたもんだ。あれはあれで充実した日々だったなぁ。
でも前世は前世。今生のGWは、今までとは確実に違うことがある。ここはゲームだ。しかもBLゲームだ。
ギャルゲーやエロゲなら、出会いを求めたり、お気に入りの子を誘って出掛けたりするが、いいか、もう一度言う。これはBLゲームだ。
「ぜってぇ外に出るもんか……」
一日目の朝から、俺は部屋にあるパソコンを開いてネトゲをしていた。といっても、よくある縦型シューティングゲームで、凄まじい弾幕を避けて攻撃を撃ち込んでいくあれだ。
「っと、よし……」
第一ステージも後半。残るはボスだけという時だ。
~♪ ~~♪
横に放り投げたままにしていたスマフォが、細かなバイブと共に小さく鳴っている。
電話のようだが、もちろん取る気はない。何せここまで来るのに、二時間費やしているのだ。どこの誰だか知らないが、俺の二時間のために諦めてくれ。
~~♪ ~♪
「しつこい……あ」
やられた。爆散していく自機を悲しく見つめた後、俺は仕方なくスマフォを手に取った。画面には“駄女神”とある。
「うわー、出たくねぇ」
出てやる義理も何もないが、それはそれで家まで押しかけてきそうで怖い。俺は少し迷い、渋々画面をタッチした。
「もしも」
『あ、やっと出ました! 大変なんです、大変なんですよ!』
「おい、少しは俺の話を」
『本当に大変なんです! お願いします! 今すぐ来てください!』
「いやだから、話を聞けって」
『きゃ~!』
「……どこにいんだよ」
ため息交じりに答えてやると、観手は『来てくれるんですね!』とすごく嬉しそうに声を上げた。
『今私がいるのは、中区にある噴水公園です! 御竿さんの家から歩いて十五分くらいですよ!』
ブチッ、ツー、ツー、ツー……。
なんだ、この一方的に用件だけ言われて切られるこれは。俺はあいつの小間使いか何かか? 正直行きたくない。行きたくないのだが、場所を聞いた手前、無視するのも気が引ける。
それに、あんなに必死な観手の声、初めて聞いたからな。何か大事になる前に早く行ってやるとするか。
「で? 一体何が」
「だから、あれ! あれ見てくださいってば!」
噴水公園とやらに着いた俺は、ベンチに座る観手を見つけた。いや、見つけたというより、発見され「こっち、こっちです!」と呼ばれたのほうが適切かもしれない。
噴水を囲むように設置してあるベンチには、まだそれほど人が座っていない。その噴水を挟んだ反対側に、見覚えのある、いや見たくない顔が見え、俺は「げ」と顔をしかめた。
「なんで太刀根と会長が……」
そう。なぜだかそこには、会長に突っかかる太刀根がいた。もちろん会長はあまり気にしておらず、太刀根が何か言っていてもどこ吹く風だ。
「てか何話してんだ? 遠すぎて聞こえねぇぞ」
直径十メートルはある噴水だ。たまに上がる水飛沫の音も重なって、二人が話している内容まで聞けたもんじゃない。
「そう言うと思いまして。私の力で会話を聞こえるようにしてあげますね~」
特に何かされたわけではないが、段々聞こえてきた二人の声に俺は耳を傾けた。
「――から、護にこれ以上構うな!」
「全く。貴様は先輩に対して敬うことも出来ないのか?」
「あんたのことは、昔から……。それこそ剣道教室に通っていた頃から嫌いだったんだよ! 敬うはずないだろ!」
「それは知っている。だが、それとこれとは別だろうに」
あんなに敵意剥き出しの太刀根も、そして高圧的な会長も見たことがない。俺たちが見ている(聞いている)とはつゆ知らず、二人の熱は更に上がっていく。
「あぁ、なんだ、太刀根攻。貴様、御竿くんをオレに渡したくないだけか」
「あんた……!」
「ならばとんだ道化師だな。貴様自身、オレに逆らうことなど出来ぬと、身体でわかっているだろうに」
なんだなんだ、不穏な空気が……。隣の観手の鼻息が荒くなっている。嫌な予感がする。
「馬鹿にすんじゃねぇ!」
太刀根が拳を振りかぶった。だけど会長はそれを片手で軽く受け止めると、残る片手で太刀根の腰を引き寄せた。
「……ぁ」
「ほうら、身体はこんなに素直じゃないか。またあの時のように、可愛がってやってもいいんだが?」
「ぁ、あぁ……」
ヤバい。色んな意味でヤバい。目の前で艶めかしいことをやられるのも、それが男同士だってことも、てか今はまだ真っ昼間なんだよ!
「うわぁぁあああ! だから嫌だったんだぁぁあああ!」
「み、御竿さん!?」
気づいたら俺は、その場から全力で逃げ出した。
それこそ転生する前は、友達と遊んだりだとか、家族でプチ旅行的な何かとかしたもんだ。あれはあれで充実した日々だったなぁ。
でも前世は前世。今生のGWは、今までとは確実に違うことがある。ここはゲームだ。しかもBLゲームだ。
ギャルゲーやエロゲなら、出会いを求めたり、お気に入りの子を誘って出掛けたりするが、いいか、もう一度言う。これはBLゲームだ。
「ぜってぇ外に出るもんか……」
一日目の朝から、俺は部屋にあるパソコンを開いてネトゲをしていた。といっても、よくある縦型シューティングゲームで、凄まじい弾幕を避けて攻撃を撃ち込んでいくあれだ。
「っと、よし……」
第一ステージも後半。残るはボスだけという時だ。
~♪ ~~♪
横に放り投げたままにしていたスマフォが、細かなバイブと共に小さく鳴っている。
電話のようだが、もちろん取る気はない。何せここまで来るのに、二時間費やしているのだ。どこの誰だか知らないが、俺の二時間のために諦めてくれ。
~~♪ ~♪
「しつこい……あ」
やられた。爆散していく自機を悲しく見つめた後、俺は仕方なくスマフォを手に取った。画面には“駄女神”とある。
「うわー、出たくねぇ」
出てやる義理も何もないが、それはそれで家まで押しかけてきそうで怖い。俺は少し迷い、渋々画面をタッチした。
「もしも」
『あ、やっと出ました! 大変なんです、大変なんですよ!』
「おい、少しは俺の話を」
『本当に大変なんです! お願いします! 今すぐ来てください!』
「いやだから、話を聞けって」
『きゃ~!』
「……どこにいんだよ」
ため息交じりに答えてやると、観手は『来てくれるんですね!』とすごく嬉しそうに声を上げた。
『今私がいるのは、中区にある噴水公園です! 御竿さんの家から歩いて十五分くらいですよ!』
ブチッ、ツー、ツー、ツー……。
なんだ、この一方的に用件だけ言われて切られるこれは。俺はあいつの小間使いか何かか? 正直行きたくない。行きたくないのだが、場所を聞いた手前、無視するのも気が引ける。
それに、あんなに必死な観手の声、初めて聞いたからな。何か大事になる前に早く行ってやるとするか。
「で? 一体何が」
「だから、あれ! あれ見てくださいってば!」
噴水公園とやらに着いた俺は、ベンチに座る観手を見つけた。いや、見つけたというより、発見され「こっち、こっちです!」と呼ばれたのほうが適切かもしれない。
噴水を囲むように設置してあるベンチには、まだそれほど人が座っていない。その噴水を挟んだ反対側に、見覚えのある、いや見たくない顔が見え、俺は「げ」と顔をしかめた。
「なんで太刀根と会長が……」
そう。なぜだかそこには、会長に突っかかる太刀根がいた。もちろん会長はあまり気にしておらず、太刀根が何か言っていてもどこ吹く風だ。
「てか何話してんだ? 遠すぎて聞こえねぇぞ」
直径十メートルはある噴水だ。たまに上がる水飛沫の音も重なって、二人が話している内容まで聞けたもんじゃない。
「そう言うと思いまして。私の力で会話を聞こえるようにしてあげますね~」
特に何かされたわけではないが、段々聞こえてきた二人の声に俺は耳を傾けた。
「――から、護にこれ以上構うな!」
「全く。貴様は先輩に対して敬うことも出来ないのか?」
「あんたのことは、昔から……。それこそ剣道教室に通っていた頃から嫌いだったんだよ! 敬うはずないだろ!」
「それは知っている。だが、それとこれとは別だろうに」
あんなに敵意剥き出しの太刀根も、そして高圧的な会長も見たことがない。俺たちが見ている(聞いている)とはつゆ知らず、二人の熱は更に上がっていく。
「あぁ、なんだ、太刀根攻。貴様、御竿くんをオレに渡したくないだけか」
「あんた……!」
「ならばとんだ道化師だな。貴様自身、オレに逆らうことなど出来ぬと、身体でわかっているだろうに」
なんだなんだ、不穏な空気が……。隣の観手の鼻息が荒くなっている。嫌な予感がする。
「馬鹿にすんじゃねぇ!」
太刀根が拳を振りかぶった。だけど会長はそれを片手で軽く受け止めると、残る片手で太刀根の腰を引き寄せた。
「……ぁ」
「ほうら、身体はこんなに素直じゃないか。またあの時のように、可愛がってやってもいいんだが?」
「ぁ、あぁ……」
ヤバい。色んな意味でヤバい。目の前で艶めかしいことをやられるのも、それが男同士だってことも、てか今はまだ真っ昼間なんだよ!
「うわぁぁあああ! だから嫌だったんだぁぁあああ!」
「み、御竿さん!?」
気づいたら俺は、その場から全力で逃げ出した。
2
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
愛無き子供は最強の神に愛される
神月るあ
ファンタジー
この街には、『鬽渦者(みかみもの)』という子供が存在する。この子供は生まれつき悪魔と契約している子供とされ、捨てられていた。13歳になった時の儀式で鬽渦者とされると、その子供を捨てる事で世界が救われる、としていたらしい。
捨てられた子供がどうなったかは誰も知らない。
そして、存在が生まれるのはランダムで、いつ生まれるかは全くもって不明らしい。
さて、捨てられた子供はどんな風に暮らしているのだろうか。
※四章からは百合要素、R13ぐらいの要素を含む話が多くなってきます。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる