15 / 190
四月
ドキッ☆ 男だらけの健康診断。ラッキースケベは絶対回避! その2
しおりを挟む
係になってしまった俺は、とりあえず猫汰に連れられて保健室へと向かった。てか、学校の健康診断って保健委員が係として手伝うんじゃないのか?
「なぁ猫汰、係って何をやらされんだ?」
「……そうだね。御竿くんは去年のこと、覚えてないからね」
去年というより、一ヶ月前のことすら覚えてないが。
「健康診断、それは別名“シード争奪戦”。十月に行われる文化祭のシード権を獲得出来るんだよ」
「ふ、ふぅん、そっか……。それで? 係は何をすればいいんだ?」
「何を、か。別に普通だよ。測定して記入していくんだけど、僕はある項目があまり好きではなくてね……」
説明しかけた猫汰を遮るように、がらりと保健室の扉が開かれた。立っていたのは鏡華ちゃん、ではなく、我が生徒会の会長サマである。
「か、会長……」
「やぁ、待ちくたびれたよ、御竿くん。それから……、猫汰くんだったね。今年はキミたちが係なんだね」
俺たちは会長の無言の圧力とも言える微笑みの前に何も言えず、俺は苦笑いを、猫汰は顔を引きつらせることしか出来ない。
「さ、早く入りたまえ。早速説明に入ろう」
「っす……」
「はい」
不安を前に、しかし俺は逃げることすら許されず。ぴしゃりと背後で無慈悲に閉まった扉に、冷や汗を隠しきれなかった。
保健室の中には、朝飯と思われる鮭茶漬けをかき込む鏡華ちゃん。それから会長、俺たち二人と、あの巨大な一年生がいた。
「あ! 御竿先輩!」
「よぉ、久しぶりだな」
軽く手を上げて返してやれば、下獄は嬉しそうに笑みを深くして、俺の両手を掴んで上下に思いっきり振った。痛いかと思ったが、見た目に反してあまり力はないようで、肩の関節が外れることはなく、俺は胸を撫で下ろす。
「んじゃ、会長。説明よろ」
「鏡華。仮にも保健医を自負しているのなら、生徒を頼るのもどうかと思うのだが? ふっ、まぁ、いい」
会長は持っていた紙の束を俺たちに配っていく。一番上には自分の名前が書かれてある。ずらりと並ぶ項目を見るに、どうやら健康診断の用紙らしい。
この短時間で俺らの名前入りの用紙を出すとか……。まじで会長怖い、人間じゃない気がしてきた。
上から順に、よくある身長体重、視力聴力と続き、尿検査やら血液検査やら小難しいのを受け……ん? 俺は最後の二項目で、走らせていた目をぴたりと止めた。
「ポージング? セリフ? なんだこりゃ……」
「いつもやっているじゃないか。って、あぁごめん、覚えてないんだよね」
「あ、あぁ。すまん」
申し訳なく頭を掻けば、猫汰はいつもの感情が読めない声色で「いや、構わないよ」と下獄へ自分の用紙を手渡した。
「実践したほうが早いかな。下獄くん、僕の項目の記入を頼めるかな」
「はい、お任せください!」
にっこり笑う下獄とは反対に、猫汰はまるで試合前のような緊張した面持ちで、息をひとつ吐いて、何か覚悟を決めたように俺を正面から見据えた。その目に少し艶が見え、俺は嫌な悪寒が全身を襲ってくるのを実感した。
「ま、待て猫汰、やっぱ……ぐえっ」
まだブレザー姿だった俺は、猫汰にネクタイを引っ張られ、無理矢理屈む形になる。少しばかり近くなった猫汰に、俺の背中から滝のように汗が流れ出した。そうしてやけに形のいい口から零れた、
「上だけじゃ、満足出来ないのかい?」
「ヒッ」
俺は顔を引きつらせて、とっさに猫汰を引き剥がそうとした。しかし流石は柔道部。俺のか弱い(結構まじだ)力じゃ、案外どっしり構えた猫汰は引き剥がせず。
「はわわぁ、流石は猫汰先輩です! 次期生徒会長だと噂されるだけはありますね!」
はしゃぐ下獄に「よしてくれ」と言い、猫汰は俺から離れた。恐怖やら気持ち悪さやらで、俺は足ががくがくになっているのだが。
「去年の会長のほうがすごかったよ。何せ、見学している女子だけでなく、係の生徒まで失神させたんだから」
「な、なぁ、まさかポージングとセリフって……」
「あぁ。係に対して、さっきみたいなことをやっていくんだよ。本当面倒くさいなぁ」
面倒くさい。俺はそれだけで済ませられない、いや済ませたくない。
なんつっても、俺は、今から男に口説かれなければならないからだ。あぁ嫌だ、そんなの絶対に!
「嫌だあああ!」
「なぁ猫汰、係って何をやらされんだ?」
「……そうだね。御竿くんは去年のこと、覚えてないからね」
去年というより、一ヶ月前のことすら覚えてないが。
「健康診断、それは別名“シード争奪戦”。十月に行われる文化祭のシード権を獲得出来るんだよ」
「ふ、ふぅん、そっか……。それで? 係は何をすればいいんだ?」
「何を、か。別に普通だよ。測定して記入していくんだけど、僕はある項目があまり好きではなくてね……」
説明しかけた猫汰を遮るように、がらりと保健室の扉が開かれた。立っていたのは鏡華ちゃん、ではなく、我が生徒会の会長サマである。
「か、会長……」
「やぁ、待ちくたびれたよ、御竿くん。それから……、猫汰くんだったね。今年はキミたちが係なんだね」
俺たちは会長の無言の圧力とも言える微笑みの前に何も言えず、俺は苦笑いを、猫汰は顔を引きつらせることしか出来ない。
「さ、早く入りたまえ。早速説明に入ろう」
「っす……」
「はい」
不安を前に、しかし俺は逃げることすら許されず。ぴしゃりと背後で無慈悲に閉まった扉に、冷や汗を隠しきれなかった。
保健室の中には、朝飯と思われる鮭茶漬けをかき込む鏡華ちゃん。それから会長、俺たち二人と、あの巨大な一年生がいた。
「あ! 御竿先輩!」
「よぉ、久しぶりだな」
軽く手を上げて返してやれば、下獄は嬉しそうに笑みを深くして、俺の両手を掴んで上下に思いっきり振った。痛いかと思ったが、見た目に反してあまり力はないようで、肩の関節が外れることはなく、俺は胸を撫で下ろす。
「んじゃ、会長。説明よろ」
「鏡華。仮にも保健医を自負しているのなら、生徒を頼るのもどうかと思うのだが? ふっ、まぁ、いい」
会長は持っていた紙の束を俺たちに配っていく。一番上には自分の名前が書かれてある。ずらりと並ぶ項目を見るに、どうやら健康診断の用紙らしい。
この短時間で俺らの名前入りの用紙を出すとか……。まじで会長怖い、人間じゃない気がしてきた。
上から順に、よくある身長体重、視力聴力と続き、尿検査やら血液検査やら小難しいのを受け……ん? 俺は最後の二項目で、走らせていた目をぴたりと止めた。
「ポージング? セリフ? なんだこりゃ……」
「いつもやっているじゃないか。って、あぁごめん、覚えてないんだよね」
「あ、あぁ。すまん」
申し訳なく頭を掻けば、猫汰はいつもの感情が読めない声色で「いや、構わないよ」と下獄へ自分の用紙を手渡した。
「実践したほうが早いかな。下獄くん、僕の項目の記入を頼めるかな」
「はい、お任せください!」
にっこり笑う下獄とは反対に、猫汰はまるで試合前のような緊張した面持ちで、息をひとつ吐いて、何か覚悟を決めたように俺を正面から見据えた。その目に少し艶が見え、俺は嫌な悪寒が全身を襲ってくるのを実感した。
「ま、待て猫汰、やっぱ……ぐえっ」
まだブレザー姿だった俺は、猫汰にネクタイを引っ張られ、無理矢理屈む形になる。少しばかり近くなった猫汰に、俺の背中から滝のように汗が流れ出した。そうしてやけに形のいい口から零れた、
「上だけじゃ、満足出来ないのかい?」
「ヒッ」
俺は顔を引きつらせて、とっさに猫汰を引き剥がそうとした。しかし流石は柔道部。俺のか弱い(結構まじだ)力じゃ、案外どっしり構えた猫汰は引き剥がせず。
「はわわぁ、流石は猫汰先輩です! 次期生徒会長だと噂されるだけはありますね!」
はしゃぐ下獄に「よしてくれ」と言い、猫汰は俺から離れた。恐怖やら気持ち悪さやらで、俺は足ががくがくになっているのだが。
「去年の会長のほうがすごかったよ。何せ、見学している女子だけでなく、係の生徒まで失神させたんだから」
「な、なぁ、まさかポージングとセリフって……」
「あぁ。係に対して、さっきみたいなことをやっていくんだよ。本当面倒くさいなぁ」
面倒くさい。俺はそれだけで済ませられない、いや済ませたくない。
なんつっても、俺は、今から男に口説かれなければならないからだ。あぁ嫌だ、そんなの絶対に!
「嫌だあああ!」
19
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?
伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します
小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。
そして、田舎の町から王都へ向かいます
登場人物の名前と色
グラン デディーリエ(義母の名字)
8才
若草色の髪 ブルーグリーンの目
アルフ 実父
アダマス 母
エンジュ ミライト
13才 グランの義理姉
桃色の髪 ブルーの瞳
ユーディア ミライト
17才 グランの義理姉
濃い赤紫の髪 ブルーの瞳
コンティ ミライト
7才 グランの義理の弟
フォンシル コンドーラル ベージュ
11才皇太子
ピーター サイマルト
近衛兵 皇太子付き
アダマゼイン 魔王
目が透明
ガーゼル 魔王の側近 女の子
ジャスパー
フロー 食堂宿の人
宝石の名前関係をもじってます。
色とかもあわせて。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。


屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる