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四月

ベネフィセント・ルシーダ学園へようこそ! その2

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 鞄は無事だったものの、制服、更には下着まで濡れてしまった俺は、太刀根が教えてくれた通り、保健室へ向かっていた。
 武道場から竹林を出て、朝(今も朝だが)見たばかりの校舎へ行けば、少しだけ生徒が登校している。その中、注目を浴びながら保健室へ向かうのはかなり勇気がいるが、行かないというわけにもいかず。
 玄関から保健室までは迷うことなく行けた。そして俺は保健室の前で立ち尽くしていた。

「やぁだ、鏡華たら。こんなに熱いの、アタシの口に入れたら火傷しちゃうわぁ」
「うっせぇ、カマ野郎。とっとと口を開けろ」
「んもう。本当に強引なんだから。……ん」
「どうだ、うまいだろ?」
「アタシはもう少し濃いほうが好み、かしら……?」
「あぁ? てめぇに合わせてたらこっちの身体がもたねぇんだよ!」

 いや、ここは保健室だ。いくらゲームでもそれはないだろ。まぁ、お約束の展開を言うなれば、大抵怪我した奴を手当てする際のやり取りがこんなんだ。
 俺は息を吸って、それから吐き出し、ノックとほぼ同時に「失礼します」と扉を開けた。隠す隙なぞ与えてやる気はほとほとない。

「鏡華先生、と牧地先生?」

 まぁ、これも予想していたが、二人が箸を構え、テーブルに向かい合い、煮えたぎる鍋を囲んでいるのは予想外だった。なんとも美味そうな匂いにつられて鍋を見れば、

「なぜおでん……」

 ぐつぐつと煮込まれる鍋に、大根、牛すじ、卵、こんにゃく、ちくわ、それからだし巻きに揚げ、ウインナーが入っている。

「なんだお前、確か昨日の」
「あら、御竿ちゃん。よかったら一緒に食べない?」
「おい勝手に誘うな」
「いいじゃない! 二人だと淋しいし、ね?」

 牧地の圧のかかった笑顔を向けられて、ヤンキー保健医は「好きにしろ」と隅の戸棚まで行き、お椀と箸を出してくれた。いや、これ食わなきゃいけない空気だよな。
 待て待て、そんなことより!

「あの、見てわかる通りちょっと濡れたんですけど……。太刀根が保健室行ってこいって……」
「あら、それならそうと早く言いなさいな! 鏡華はね、ここで暮らしてるから洗濯機も乾燥機も、冷蔵庫も台所だってあるのよ!」

 そう言うと、牧地は保健室の更に奥にある扉を開いた。中を伺い見れば、ワンルームほどの広さの部屋に、確かに言った通りの家具が置いてある。

「わかったら早く脱げ。代わりの服なら俺のを貸してやる。下着は、そこの棚にサイズごとに新品があるから、自分のサイズを選んで取っていけ。代金はそこの箱にニ百円だ」
「……」

 理解が追いつかない。
 とりあえず部屋の扉を閉め、言われたままに服を脱いで洗濯機に放り込んだ。タオルもお借りして、身体を拭いてからそれも入れて、洗剤と柔軟剤を投入しスイッチオン。
 ブレザーって洗濯出来たかと疑問に思ったが、そこはもういいかと考えないことにした。

「服はその辺のやつ好きに着ろ」
「はい、ありがとうございます」

 下着をもらいニ百円を入れてから、適当なシャツを手に取った。“萌えろBL”、“野郎✕野郎”、“サブと兄貴”、変なシャツしかないぞこれ。とりあえず一番マシそうな“俺、両刀”を選んだ。

「まだ時間あるわね。御竿ちゃんはどれ食べる?」
「じゃ、大根で」
「牛スジと揚げも食え」
「大根と牛スジと揚げで」
「はい、どうぞぉ」

 手渡された茶碗には、なぜかウインナーも入っていたが、もうそこは突っ込むまいと、俺は「いただきます」と箸をつけた。
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