8 / 185
オープニング
下獄 嬢
しおりを挟む
一日で五キロは痩せた気がする。そんな気怠さを抱えながら、俺は校門を出た。
不思議なもので、自分の帰る家も、その道順も知っている。近道もわかるし、なんなら街のどこに何があるのかも大体はわかる。まぁ、元がゲームなわけだし、そういうもんなんだろう。
「ここ曲がると公園なんだっけな」
下校時刻はとうに過ぎ、辺りは微かに暗くなっている。電灯が点滅した後明るくなり、公園の中がよく見えるようになった。
「や、やめて下さい!」
野太い声が聞こえ公園内を見れば、どう見ても背丈がニメートルを越えた体躯のいい野郎が、俺と背丈も変わらない野郎どもに囲まれていた。
「やめろだってよー!」
「やめて下さいー! あははは!」
周囲を囲む野郎はどう見てもモブだし、てことはあの巨大な奴は攻略キャラなのか? 髪ピンクだし、まぁモブ顔はしてないが。どう考えても今まで会った奴らより、イケてる顔をしていない。
「やめて! やめて下さい!」
「早く確認しようぜ! 本当についてるのか!」
「ま、ついててもついてなくても、こんだけ上等なら関係ないよな!」
上、等? いやいや、ごついんだから、どう見てもついてんだろうが! 胸板もしっかりしてるし! お前らモブより、余程男らしい体つきをしてるって!
「いやぁ!」
野太い悲鳴が上がったのを聞いて、俺はいてもたってもいられず、大股で集団に近づいていく。
「おい」
声をかけたはいいものの、そこでハタと俺は気づく。三対一、だよな。俺は牧地が言っていたように帰宅部であり、運動の“う”の字すらやってこなかった人間だ。
かといって、あの女神の言い様だと、こういった時に役立つ能力を与えられたかといえば、そんなことは絶対にないだろう。
「と、とにかく、その子……、いや野郎? いやわからんが、離れろ!」
どこぞの主人公よろしく威勢よく言ってみる。が、モブたちは首を傾げたまま固まっている。
「なんだ? こいつ」
「仲間に入れてほしいならそう言えっつーの」
何度も言うが、俺は男に興味などない。だからといって、見知らぬフリをするほど薄情でもない。さてどうするかと悩んでいると、囲まれたままの巨大男が「御竿先輩!」と俺の名前を嬉しそうに呼んだ。
「は? え、なんで名前」
名前を知っているのか問い詰めるより早く、俺の名前を聞いたモブたちが明らかに焦りだした。
「お、おい御竿って……」
「まじかよ、あの御竿か?」
「やべぇって。早くずらかろうぜ!」
何がどうなっているのかわからないが、モブたちは俺の名前を聞いた途端に逃げてしまった。何? まじ御竿護何者なん?
とりあえず、落ちたままの鞄を拾って巨大男に渡してやる。奴は嬉しそうに笑うと、
「あの、ありがとうございました! ウチ、下獄嬢って言います! 御竿先輩、で合ってますよね?」
「あ、あぁ、うん、まぁ……」
自分よりも遥かに背の高い男(下獄だったか)が、両手に鞄を抱える姿は、なんとも言えぬものがある。それに圧倒されつつも返事をすれば、下獄は「本物だぁ」と顔を輝かせてから、すごい勢いで頭を下げてきた。
「本当にありがとうございました! また今度お礼させてください!」
「う、うん。気をつけて帰れよ……?」
「はい!」
下獄は踵を返して走り出し「うわぁ!」と転びそうになりながらも公園から出ていった。
まさか、あれも攻略キャラ、なのか? 嘘やろ……。
不思議なもので、自分の帰る家も、その道順も知っている。近道もわかるし、なんなら街のどこに何があるのかも大体はわかる。まぁ、元がゲームなわけだし、そういうもんなんだろう。
「ここ曲がると公園なんだっけな」
下校時刻はとうに過ぎ、辺りは微かに暗くなっている。電灯が点滅した後明るくなり、公園の中がよく見えるようになった。
「や、やめて下さい!」
野太い声が聞こえ公園内を見れば、どう見ても背丈がニメートルを越えた体躯のいい野郎が、俺と背丈も変わらない野郎どもに囲まれていた。
「やめろだってよー!」
「やめて下さいー! あははは!」
周囲を囲む野郎はどう見てもモブだし、てことはあの巨大な奴は攻略キャラなのか? 髪ピンクだし、まぁモブ顔はしてないが。どう考えても今まで会った奴らより、イケてる顔をしていない。
「やめて! やめて下さい!」
「早く確認しようぜ! 本当についてるのか!」
「ま、ついててもついてなくても、こんだけ上等なら関係ないよな!」
上、等? いやいや、ごついんだから、どう見てもついてんだろうが! 胸板もしっかりしてるし! お前らモブより、余程男らしい体つきをしてるって!
「いやぁ!」
野太い悲鳴が上がったのを聞いて、俺はいてもたってもいられず、大股で集団に近づいていく。
「おい」
声をかけたはいいものの、そこでハタと俺は気づく。三対一、だよな。俺は牧地が言っていたように帰宅部であり、運動の“う”の字すらやってこなかった人間だ。
かといって、あの女神の言い様だと、こういった時に役立つ能力を与えられたかといえば、そんなことは絶対にないだろう。
「と、とにかく、その子……、いや野郎? いやわからんが、離れろ!」
どこぞの主人公よろしく威勢よく言ってみる。が、モブたちは首を傾げたまま固まっている。
「なんだ? こいつ」
「仲間に入れてほしいならそう言えっつーの」
何度も言うが、俺は男に興味などない。だからといって、見知らぬフリをするほど薄情でもない。さてどうするかと悩んでいると、囲まれたままの巨大男が「御竿先輩!」と俺の名前を嬉しそうに呼んだ。
「は? え、なんで名前」
名前を知っているのか問い詰めるより早く、俺の名前を聞いたモブたちが明らかに焦りだした。
「お、おい御竿って……」
「まじかよ、あの御竿か?」
「やべぇって。早くずらかろうぜ!」
何がどうなっているのかわからないが、モブたちは俺の名前を聞いた途端に逃げてしまった。何? まじ御竿護何者なん?
とりあえず、落ちたままの鞄を拾って巨大男に渡してやる。奴は嬉しそうに笑うと、
「あの、ありがとうございました! ウチ、下獄嬢って言います! 御竿先輩、で合ってますよね?」
「あ、あぁ、うん、まぁ……」
自分よりも遥かに背の高い男(下獄だったか)が、両手に鞄を抱える姿は、なんとも言えぬものがある。それに圧倒されつつも返事をすれば、下獄は「本物だぁ」と顔を輝かせてから、すごい勢いで頭を下げてきた。
「本当にありがとうございました! また今度お礼させてください!」
「う、うん。気をつけて帰れよ……?」
「はい!」
下獄は踵を返して走り出し「うわぁ!」と転びそうになりながらも公園から出ていった。
まさか、あれも攻略キャラ、なのか? 嘘やろ……。
20
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
聖人様は自重せずに人生を楽しみます!
紫南
ファンタジー
前世で多くの国々の王さえも頼りにし、慕われていた教皇だったキリアルートは、神として迎えられる前に、人としての最後の人生を与えられて転生した。
人生を楽しむためにも、少しでも楽に、その力を発揮するためにもと生まれる場所を神が選んだはずだったのだが、早々に送られたのは問題の絶えない辺境の地だった。これは神にも予想できなかったようだ。
そこで前世からの性か、周りが直面する問題を解決していく。
助けてくれるのは、情報通で特異技能を持つ霊達や従魔達だ。キリアルートの役に立とうと時に暴走する彼らに振り回されながらも楽しんだり、当たり前のように前世からの能力を使うキリアルートに、お供達が『ちょっと待て』と言いながら、世界を見聞する。
裏方として人々を支える生き方をしてきた聖人様は、今生では人々の先頭に立って駆け抜けて行く!
『好きに生きろと言われたからには目一杯今生を楽しみます!』
ちょっと腹黒なところもある元聖人様が、お供達と好き勝手にやって、周りを驚かせながらも世界を席巻していきます!
ただあなたを守りたかった
冬馬亮
恋愛
ビウンデルム王国の第三王子ベネディクトは、十二歳の時の初めてのお茶会で出会った令嬢のことがずっと忘れられずにいる。
ひと目見て惹かれた。だがその令嬢は、それから間もなく、体調を崩したとかで領地に戻ってしまった。以来、王都には来ていない。
ベネディクトは、出来ることならその令嬢を婚約者にしたいと思う。
両親や兄たちは、ベネディクトは第三王子だから好きな相手を選んでいいと言ってくれた。
その令嬢にとって王族の責務が重圧になるなら、臣籍降下をすればいい。
与える爵位も公爵位から伯爵位までなら選んでいいと。
令嬢は、ライツェンバーグ侯爵家の長女、ティターリエ。
ベネディクトは心を決め、父である国王を通してライツェンバーグ侯爵家に婚約の打診をする。
だが、程なくして衝撃の知らせが王城に届く。
領地にいたティターリエが拐われたというのだ。
どうしてだ。なぜティターリエ嬢が。
婚約はまだ成立しておらず、打診をしただけの状態。
表立って動ける立場にない状況で、ベネディクトは周囲の協力者らの手を借り、密かに調査を進める。
ただティターリエの身を案じて。
そうして明らかになっていく真実とはーーー
※作者的にはハッピーエンドにするつもりですが、受け取り方はそれぞれなので、タグにはビターエンドとさせていただきました。
分かりやすいハッピーエンドとは違うかもしれません。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる