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オープニング
鏡華 万
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学校生活一日目。
それとなく授業を受けながら、俺は観手の言ったことを脳内再生していた。
“ゲームクリアすればやり直し可能”。
今まで培ってきた経験や知識をフル活動させ、どういった条件でクリア判定されるのかを考える。当たり前だが、俺は野郎にツッコむ趣味もツッコまれる趣味もない為、通常 (かどうかはわからん)エンドは除外だ。
ならば、誰とも結ばれないエンドがあるはずである。
ギャルゲーで言うところの独り身エンド。大抵、こういったゲームは卒業式に告られて終わるものだが、誰もいないと、帰り道に親友ポジの奴と話して終わるというのが常である。
「でも親友って誰だ……」
この場合、親友も“男”になるのではないか? それは独り身エンドになるのか? 考えれば考えるほど、自分の親友は一体誰なのか。そもそもとして、そんなエンドがあるのかすらわからない。
「いや待てよ。なら情報に詳しい奴がいるはず……」
「御竿くーん、ボールそっち行ったよー!」
「んぁ? ……ぶごっ」
しまった、今は体育でサッカーしてたんだった。キーパーをやっていた俺は、見事な急所キャッチを決め、ヤバい声を上げながら急所を押さえてうずくまった。
「護! 大丈夫か!」
太刀根がすぐに起こそうとしてくれたけど、まじ無理無理。平均台から足を滑らせて打ちつけた時くらい痛い。
「ぅ、ううう……」
何も言えない俺は、涙を堪えて歯を食いしばるしかない。もしこれが誰かとの顔合わせイベントなら、俺はこのゲームの製作者を一生恨み続けるかもしれない。
「怪我した奴はどこにいんだ?」
誰かが保健医を呼んでくれたらしい。生徒たちが「鏡華ちゃん、こっちこっち!」と騒ぐ声が聞こえる。なんとかして顔を上げれば。
「ヤ、ヤンキー……?」
金髪にサングラスをかけて、飴の棒をくわえた、どう見ても保健医とはかけ離れたイメージの白衣ヤンキーが、健康サンダルを履いて俺の元へとやって来た。
「ああん? なんだ、怪我っつーからどんなヤベぇ喧嘩かと思えば……。ただの打撲じゃねぇの」
「い、いだいんでずぅ。だずげでぐだざい……」
「ああん? ったく。んじゃ、それ、元気にしてやるから早く出しな」
「はっ……!?」
待て待て。こんな場所で大事な息子をぽろりするわけないだろう! 明日から学校どころか家から出られなくなるわ!
出す気がない俺に呆れたのか、そのヤンキー保健医(鏡華と言ったか)は、舐めていた飴を口から出して、あろうことか俺の口に突っ込んできた。
「ふごっ」
甘い味が広がるが、野郎が咥えていたモノを咥えさせられたところで嬉しくもなんともない。むしろ吐き出したいくらいなのだが、ヤンキーの笑顔に俺は何も出来なくなる。
「てめぇを保健室に連れ込んでやってもいいんだぜ? あ?」
「ふが! ふがふがふが! ふがー!」
なんつー暴論を言いやがるんだ。保健室をハッテン場か何かだと勘違いしてんのか!
「鏡華ちゃん、ちょっと待ってくれ!」
太刀根が間に入る。なんだ、頼りになるじゃな――
「護は俺が連れて行く!」
連れて行くんかーい! 俺の心を読んだのか、それとも勘がいいのか。猫汰が「あのね……」と呆れたため息をついて、
「少しは御竿くんの気持ちも考えなよ。嫌われるよ?」
「は、はぁ!? ち、ちげぇし! 俺はただ……」
と騒ぎ始めた二人を無視して、ヤンキー保健医は股を押さえる俺に「気が向いたら来いよ」と手を振って、健康サンダルを引きずりながら、校舎へと戻っていった。
「万先生、相変わらずカッコいい!」
「ねー! あたしも看病してほしー!」
本当か! 本当か、女子ども! あれ只のヤンキーやぞ! 絶対養護教諭じゃないぞ!?
それとなく授業を受けながら、俺は観手の言ったことを脳内再生していた。
“ゲームクリアすればやり直し可能”。
今まで培ってきた経験や知識をフル活動させ、どういった条件でクリア判定されるのかを考える。当たり前だが、俺は野郎にツッコむ趣味もツッコまれる趣味もない為、通常 (かどうかはわからん)エンドは除外だ。
ならば、誰とも結ばれないエンドがあるはずである。
ギャルゲーで言うところの独り身エンド。大抵、こういったゲームは卒業式に告られて終わるものだが、誰もいないと、帰り道に親友ポジの奴と話して終わるというのが常である。
「でも親友って誰だ……」
この場合、親友も“男”になるのではないか? それは独り身エンドになるのか? 考えれば考えるほど、自分の親友は一体誰なのか。そもそもとして、そんなエンドがあるのかすらわからない。
「いや待てよ。なら情報に詳しい奴がいるはず……」
「御竿くーん、ボールそっち行ったよー!」
「んぁ? ……ぶごっ」
しまった、今は体育でサッカーしてたんだった。キーパーをやっていた俺は、見事な急所キャッチを決め、ヤバい声を上げながら急所を押さえてうずくまった。
「護! 大丈夫か!」
太刀根がすぐに起こそうとしてくれたけど、まじ無理無理。平均台から足を滑らせて打ちつけた時くらい痛い。
「ぅ、ううう……」
何も言えない俺は、涙を堪えて歯を食いしばるしかない。もしこれが誰かとの顔合わせイベントなら、俺はこのゲームの製作者を一生恨み続けるかもしれない。
「怪我した奴はどこにいんだ?」
誰かが保健医を呼んでくれたらしい。生徒たちが「鏡華ちゃん、こっちこっち!」と騒ぐ声が聞こえる。なんとかして顔を上げれば。
「ヤ、ヤンキー……?」
金髪にサングラスをかけて、飴の棒をくわえた、どう見ても保健医とはかけ離れたイメージの白衣ヤンキーが、健康サンダルを履いて俺の元へとやって来た。
「ああん? なんだ、怪我っつーからどんなヤベぇ喧嘩かと思えば……。ただの打撲じゃねぇの」
「い、いだいんでずぅ。だずげでぐだざい……」
「ああん? ったく。んじゃ、それ、元気にしてやるから早く出しな」
「はっ……!?」
待て待て。こんな場所で大事な息子をぽろりするわけないだろう! 明日から学校どころか家から出られなくなるわ!
出す気がない俺に呆れたのか、そのヤンキー保健医(鏡華と言ったか)は、舐めていた飴を口から出して、あろうことか俺の口に突っ込んできた。
「ふごっ」
甘い味が広がるが、野郎が咥えていたモノを咥えさせられたところで嬉しくもなんともない。むしろ吐き出したいくらいなのだが、ヤンキーの笑顔に俺は何も出来なくなる。
「てめぇを保健室に連れ込んでやってもいいんだぜ? あ?」
「ふが! ふがふがふが! ふがー!」
なんつー暴論を言いやがるんだ。保健室をハッテン場か何かだと勘違いしてんのか!
「鏡華ちゃん、ちょっと待ってくれ!」
太刀根が間に入る。なんだ、頼りになるじゃな――
「護は俺が連れて行く!」
連れて行くんかーい! 俺の心を読んだのか、それとも勘がいいのか。猫汰が「あのね……」と呆れたため息をついて、
「少しは御竿くんの気持ちも考えなよ。嫌われるよ?」
「は、はぁ!? ち、ちげぇし! 俺はただ……」
と騒ぎ始めた二人を無視して、ヤンキー保健医は股を押さえる俺に「気が向いたら来いよ」と手を振って、健康サンダルを引きずりながら、校舎へと戻っていった。
「万先生、相変わらずカッコいい!」
「ねー! あたしも看病してほしー!」
本当か! 本当か、女子ども! あれ只のヤンキーやぞ! 絶対養護教諭じゃないぞ!?
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