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最終話
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肌寒さを感じ、閉じていた目をゆっくりと開く。
まず視界に入ってきたのが、壁、だ。この白い壁は、ベッドに座ってサブスクを見る時なんか背もたれとして重宝しているし、颯介と行為に及ぶ時なんかは、隣の部屋との重要な防護壁になっている。
「……ん」
身動ぎをすれば、僕の頭の下に枕ではない何かと、腰を抱き寄せるように回された何かに気づく。それは両方とも颯介の腕で、背中に感じる暖かさに自然とお腹の奥が疼いた。
「おはようございます」
耳元で囁かれた甘いテノールに、肩が大袈裟なほどに揺れる。すぐに「お、はよ……っ」と返せば、耳を甘噛され、口から出る声は甘い響きへと変わってしまう。
「ふ……っ、ぁ」
耳から滑り落ちるように、颯介の舌が、耳裏、首筋を通り、うなじへ辿り着く。もう噛む必要はないのに、颯介はそこを緩く噛みながら、ときに味わうように舐め上げ、吐息を吹きつけた。
「紅羽さん、まだいいです……?」
腰あたりに固く熱いモノを押しつけられ、僕は「ん……」と小さく頷きかけ――
「颯介、今何日!?」
と目をこれでもかというほどに見開いて、体をバタバタと動かした。
「……」
ため息をついた颯介が渋々身体を離し、ローテーブルに置いたままにしていたスマフォを手を伸ばす。
「二日、ですね」
「一月!?」
「はい」
あっけらかんと答えた颯介は、スマフォを投げるようにしてローテーブルへ戻すと「満足しました?」とまた僕に覆い被さってきた。僕はそれに力いっぱい体を起こすようにして反抗を試みる。
「いつ年越ししたんだ!?」
「二日前ですね」
「そんなん聞いてるんじゃない……!」
颯介が仕方なく起き上がってくれたから、僕は颯介を乗り越えるようにしてベッドから這い出た。腰に上手く力が入らず、転げ落ちそうになったのを颯介が「あぁ、もう」と支えてくれた。
「……身体が痛いし動かない」
「そりゃあ、まぁ、四日間ぐらいヤってましたし」
ベッドに腰掛けた颯介が、僕を足の間に座らせて、そのへんにあったスウェットを着せてくれた。ずぼっと頭が出る際、鼻を掠めた颯介の香りに思わず「はふ……」と声が漏れる。ちなみに颯介はスウェットのズボンをしっかり履いていた。
「あんま覚えてない」
背中に感じる熱にもたれかかり、甘えるように首を傾ける。額に軽く口づけされた後「でしょうね」と意地悪く笑われた。
「ヒート中なんてそんなものです」
大した問題じゃない、みたいに言われ、僕は思わず口を尖らせた。
「……折角の年越し、颯介と一緒だったのに」
尖らせた口に、颯介の熱が重なる。
「ん……ふ、くっ」
颯介は愉しむように僕の下唇を軽く噛んで、口の端を伝う唾液を舐め取った。
「あんまり煽らないでください」
「……煽ってない」
ヒートの名残なのか、それともまだヒートが収まってないのか、僕の身体の熱はスウェットを微かに押し上げ、うっすらと染みを作っている。それを嘲笑うように、颯介の右手が胸の突起をスウェットの上から掠める。
「そ、すけ……っ、初詣、いき、たいっ」
与えられる快楽に抗うように、必死で今日の希望を口にする。年越し蕎麦も、年末年始の挨拶も、お餅だって食べていないんだ。せめて初詣はきちんと行きたい。
「今日はまだ駄目ですよ。紅羽さんの香り、まだ濃いんで俺が保ちそうにありません。明日行きましょう?」
「明日……」
腰にあたる熱に浮かされながら、ふわふわした頭で頷く。
「あぁ、そうだ、紅羽さん」
「ん……っ」
スウェットを押し上げ主張する突起を、颯介が軽く摘みながら首筋に舌を這わせていく。それに反応して声を上げながら、僕は「な、にっ」と息も切れ切れに返した。
「俺……、白石に戻ろうかと思うんです」
「十三、じゃなくなる……?」
「はい」
手を一旦止めた颯介が、腰に腕を回してうなじに軽く歯を立てた。僕の漏れる声に颯介が小さく笑みを零して「十三は……」と躊躇いがちに話を続けていく。
「父方の姓で、白石は母方なんですが……。祖父に昔、言われたんです。“お前さんさえよければ俺んとこ来るか”って」
腰に回された腕と、肩口に埋められた頭に力がこもる。
「昔の俺はそれが嫌で、誰があんたのとこにって思ってました。でも、紅羽さんのお陰で、なんとなく、本当になんとなくなんですが、素直に、それもいいかもしれないって思えることが出来たので……」
僕は頬に触れる髪に擦り寄りながら「うん」と颯介の手に、自分の手を重ねた。散らばりかけた理性を集めて少し先の未来を思い浮かべれば、自然と頬が緩んた。
「じゃ、お祖父様じゃなく、お義父様になるわけだな。今度、きちんとご挨拶に行こう。手土産は何がいいかな」
「いや、いりませんよ。それより、紅羽さんのご両親にご挨拶に行きましょう。俺にはそっちのほうが大事です」
「あ。それも大事だなぁ」
僕の気の抜けた返事に、互いに声を出して笑い合う。
来年も、その次も、もちろんその先だって、颯介と一緒なら幸せな日々を作っていける。悲しいことも、つらいことだってあると思うけれど、出会ってからの僕たちを思い返せば、可能な気がするんだ。
「颯介」
「はい」
照れくさいけど、今だけ素直に言おう。
「僕の運命になってくれて、ありがとう」
「こちらこそ、紅羽さん」
カーテンの隙間から見える窓の外は、滅多に降らない雪がちらついていた。明日の初詣までには、溶けるか、それかなるべく積もらないでほしいと願う。
まず視界に入ってきたのが、壁、だ。この白い壁は、ベッドに座ってサブスクを見る時なんか背もたれとして重宝しているし、颯介と行為に及ぶ時なんかは、隣の部屋との重要な防護壁になっている。
「……ん」
身動ぎをすれば、僕の頭の下に枕ではない何かと、腰を抱き寄せるように回された何かに気づく。それは両方とも颯介の腕で、背中に感じる暖かさに自然とお腹の奥が疼いた。
「おはようございます」
耳元で囁かれた甘いテノールに、肩が大袈裟なほどに揺れる。すぐに「お、はよ……っ」と返せば、耳を甘噛され、口から出る声は甘い響きへと変わってしまう。
「ふ……っ、ぁ」
耳から滑り落ちるように、颯介の舌が、耳裏、首筋を通り、うなじへ辿り着く。もう噛む必要はないのに、颯介はそこを緩く噛みながら、ときに味わうように舐め上げ、吐息を吹きつけた。
「紅羽さん、まだいいです……?」
腰あたりに固く熱いモノを押しつけられ、僕は「ん……」と小さく頷きかけ――
「颯介、今何日!?」
と目をこれでもかというほどに見開いて、体をバタバタと動かした。
「……」
ため息をついた颯介が渋々身体を離し、ローテーブルに置いたままにしていたスマフォを手を伸ばす。
「二日、ですね」
「一月!?」
「はい」
あっけらかんと答えた颯介は、スマフォを投げるようにしてローテーブルへ戻すと「満足しました?」とまた僕に覆い被さってきた。僕はそれに力いっぱい体を起こすようにして反抗を試みる。
「いつ年越ししたんだ!?」
「二日前ですね」
「そんなん聞いてるんじゃない……!」
颯介が仕方なく起き上がってくれたから、僕は颯介を乗り越えるようにしてベッドから這い出た。腰に上手く力が入らず、転げ落ちそうになったのを颯介が「あぁ、もう」と支えてくれた。
「……身体が痛いし動かない」
「そりゃあ、まぁ、四日間ぐらいヤってましたし」
ベッドに腰掛けた颯介が、僕を足の間に座らせて、そのへんにあったスウェットを着せてくれた。ずぼっと頭が出る際、鼻を掠めた颯介の香りに思わず「はふ……」と声が漏れる。ちなみに颯介はスウェットのズボンをしっかり履いていた。
「あんま覚えてない」
背中に感じる熱にもたれかかり、甘えるように首を傾ける。額に軽く口づけされた後「でしょうね」と意地悪く笑われた。
「ヒート中なんてそんなものです」
大した問題じゃない、みたいに言われ、僕は思わず口を尖らせた。
「……折角の年越し、颯介と一緒だったのに」
尖らせた口に、颯介の熱が重なる。
「ん……ふ、くっ」
颯介は愉しむように僕の下唇を軽く噛んで、口の端を伝う唾液を舐め取った。
「あんまり煽らないでください」
「……煽ってない」
ヒートの名残なのか、それともまだヒートが収まってないのか、僕の身体の熱はスウェットを微かに押し上げ、うっすらと染みを作っている。それを嘲笑うように、颯介の右手が胸の突起をスウェットの上から掠める。
「そ、すけ……っ、初詣、いき、たいっ」
与えられる快楽に抗うように、必死で今日の希望を口にする。年越し蕎麦も、年末年始の挨拶も、お餅だって食べていないんだ。せめて初詣はきちんと行きたい。
「今日はまだ駄目ですよ。紅羽さんの香り、まだ濃いんで俺が保ちそうにありません。明日行きましょう?」
「明日……」
腰にあたる熱に浮かされながら、ふわふわした頭で頷く。
「あぁ、そうだ、紅羽さん」
「ん……っ」
スウェットを押し上げ主張する突起を、颯介が軽く摘みながら首筋に舌を這わせていく。それに反応して声を上げながら、僕は「な、にっ」と息も切れ切れに返した。
「俺……、白石に戻ろうかと思うんです」
「十三、じゃなくなる……?」
「はい」
手を一旦止めた颯介が、腰に腕を回してうなじに軽く歯を立てた。僕の漏れる声に颯介が小さく笑みを零して「十三は……」と躊躇いがちに話を続けていく。
「父方の姓で、白石は母方なんですが……。祖父に昔、言われたんです。“お前さんさえよければ俺んとこ来るか”って」
腰に回された腕と、肩口に埋められた頭に力がこもる。
「昔の俺はそれが嫌で、誰があんたのとこにって思ってました。でも、紅羽さんのお陰で、なんとなく、本当になんとなくなんですが、素直に、それもいいかもしれないって思えることが出来たので……」
僕は頬に触れる髪に擦り寄りながら「うん」と颯介の手に、自分の手を重ねた。散らばりかけた理性を集めて少し先の未来を思い浮かべれば、自然と頬が緩んた。
「じゃ、お祖父様じゃなく、お義父様になるわけだな。今度、きちんとご挨拶に行こう。手土産は何がいいかな」
「いや、いりませんよ。それより、紅羽さんのご両親にご挨拶に行きましょう。俺にはそっちのほうが大事です」
「あ。それも大事だなぁ」
僕の気の抜けた返事に、互いに声を出して笑い合う。
来年も、その次も、もちろんその先だって、颯介と一緒なら幸せな日々を作っていける。悲しいことも、つらいことだってあると思うけれど、出会ってからの僕たちを思い返せば、可能な気がするんだ。
「颯介」
「はい」
照れくさいけど、今だけ素直に言おう。
「僕の運命になってくれて、ありがとう」
「こちらこそ、紅羽さん」
カーテンの隙間から見える窓の外は、滅多に降らない雪がちらついていた。明日の初詣までには、溶けるか、それかなるべく積もらないでほしいと願う。
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ナニをしていてもイチャイチャな2人が可愛いです🥰笑
(颯介にはまだ秘密がありそうな…🤔)
途中キツいとこもありましたが(涙)2人の幸せを楽しみに見守ります💓
感想ありがとうございます!
いつでも甘々な二人をこれからも応援して頂ければと思います!最終話まで、どうぞお楽しみくださいませ!