【完結済】僕はあんたのΩじゃない！

５５話

　颯介はいつも、少しだけ入れた状態で、最初に緩く穏やかに腰を動かしてくれる。それが酷く甘く、颯介の優しさを感じられて僕は好きだ。

「んんぁっ」

　ナカのしこりを、颯介の熱が擦り上げる。ちょうどカリの部分が引っかかるみたいで、何度かそこを攻め立てられれば、僕は呆気なく颯介自身を締め上げた。

「紅羽さんのナカ、あっつ……」

　僕が達したことでナカが緩んだのか、颯介がずぶずぶと押し進めていく。それにも僕は、吐息と短い嬌声を上げて、軽く身体を痙攣させてしまう。自分で言うのもなんだけど、昔と比べて、随分と快楽に弱くなってしまった。

「は……ッ、紅羽さん、ここ、好きでしょう？」
「ンンっ……ひ、ぁ」

　少し奥に進めた颯介が、前立腺より奥にある部分をぐっと押した。まるで射精か、それとも違うものでも出してしまいそうな感覚に、僕はひと際甲高い声が出て慌てて口を袖で隠す。

「紅羽さん、声、出して。聞かせて？」

　恥ずかしさで目を閉じ、ふるふると首を横に振った。こんな声が自分から出ているなんて認めたくない。恥ずかしさで耳まで真っ赤なのがわかる。

「紅羽さん」
「……っ」

　甘く囁かれたって絶対に声を出してやるものか。そう決めて、両袖で口を隠して固く引き結んでいるのに。

「ね、聞かせてください」

　身体をこっちに倒すようにした颯介が、僕の両手首を掴んで頭の横へと縫い付けた。

「ひっ……、ゃっ、ああっ」

　変わらずに両足は開かれた状態で、颯介の肩にかけられている。その格好で体重をかけられ、自然とさっきの場所を強く刺激される形になってしまう。

「あぁ、ほら、声出せるじゃないですか」

　塞ぐものもなくなり、もう口を閉じているのも限界で、僕は堪らず「そう、すけぇっ」と泣きじゃくった。

「んああぁっ、そこ、やぁっ、でちゃ、へんなの、でちゃ……っ」

　気持ちいいのがずっと続いて、奥から何かを出したい感じがきている。なのに射精した時みたいなはっきりとした快感はなく、頭がおかしくなりそうだ。

「出ちゃうも何も……、もう出てますよ？」
「ぅ……？」

　言われて下腹部に視線をやれば、僕自身の先端からはトロトロと精液が溢れていた。止まることなく、ゆっくりと、断続的に零れていくそれに、僕は「やだぁ……っ」とさらに涙する。

「やだ、じゃなく、気持ちいい、の間違いですよね？」

　奥をまた擦られ、僕は一層きつくナカをひくつかせる。口からは、もうずっと言葉にならない声しか出てないし、ふわふわした感じがずっと身体を支配している。

「……ッ、紅羽さん、ほんとかわいい。マジで孕ませたい」
「ひん……っ、あっ……ぅ」

　身体をずっとびくびく痙攣させて、口からは涎を垂れ流して、涙も鼻水も出してる男を可愛いとか、ほんと、颯介の目は変だなぁ……。でも、僕の身体も、颯介に可愛いと言われて反応するのだから、だいぶ変だと思う。

「ね、紅羽さん」

　縫い付けた手を、その指を、颯介が絡める。

「今噛まれるか、わけわかんないうちに噛まれるか、どっちがいいです？」
「かまれ……、ぁ」

　言われて思い出す。あんまりにも気持ちよくて、頭が動かなくて、何も考えれてなかったけれど、そうだ。颯介と、僕は、番になるんだ……。
　颯介の目が、欲に満ちている。あぁ、颯介も限界なんだとわかる。それでも必死に耐えて、僕の希望を叶えようとしてくれている。それが堪らなく嬉しくて、幸せで、自然と涙が目尻から零れた。

「い、いま……。おぼえて、たい、からっ」
「ご希望通りに」

　一旦颯介が僕の中から出ていく。引き抜く際の刺激にさえ小さく身体が震えて、口から「んんッ」と上擦った声が出た。颯介が「かわいい」と微笑み、絡めていた指を離してから僕の両足をゆっくりと降ろした。

「身体、動かせます？　腰抜けてて無理ですか？」
「……ん」

　自分じゃ動かせない、なんて言うのは恥ずかしいし悔しいから、僕は袖で口元を隠して顔を背けた。颯介は苦笑いをしながら、僕の左足を持ち上げて、かかと、土踏まず、母趾球に舌を這わせてから、親指にしゃぶりついた。

「ぁ、や……っ、きたなっ」

　反抗しようにも力が入らない。見せつけるように、僕の反応をいちいち愉しむように、丁寧に舐め取っていく。僕の羞恥を煽るような仕草に、ついに僕は「そうすけ……っ」と震え声で名前を呼んだ。

「も……っ、かむなら、はやく、かめ、よ……っ」
「ん、すみません。紅羽さんがあまりにもおいしそうだったんで、つい」

　人を食べ物みたいに言うな。
　ジト、と颯介を睨みつければ、颯介はもう一度「すみません」と頬を緩ませて、僕の左足を降ろしながら身体をうつ伏せにしてくれた。着ていた颯介のシャツも取り払われて、ついに僕はあられもない姿を明かりの元に晒してしまう。

「そ、すけ……？」

　不安から、名前を呼んで首を少し後ろに向ける。邪魔になってきたのか、颯介もズボンと下着を脱ぎ払い、僕にのしかかるように体重をかけてくる。

「ひ、ぎ……っ」

　再びナカに入ってきた熱と質量に、腰にぞわりとした感覚が走る。颯介は慣らすように何度か腰を揺らした後、僕の背中に身体をぴったりとくっつけた。うなじあたりに熱が這うのを感じ、僕は枕に顔を埋めた。

「か、かむのか……？　かむとき、いえよ……？」

　βの時に嫌というほど噛まれてきたけれど、その時みたいに少し痛いのかな。もしかしたら痛みはないのかもしれない。いや、歯型が残るぐらいだから深く噛むのだろうか。
　初めてのことで怖い。手だけでなく身体も震えてきて、僕は枕を引っ掴んで、歯を強く食いしばった。

「紅羽さん」

　引っ掴む手に、颯介の手が重なった。颯介の手も少し震えていた。

「俺も少し、怖いです。何せ、紅羽さんが初めてなもので」
「そっか……、そっかぁ」

　入っていた無駄な力が抜けていく。頬がふにゃりと緩んで、僕は「そうすけ」と愛しい恋人を呼んだ。

「すき。ぼく、は……、そうすけを、あいして、る……っ」
「俺も……」

　うなじに、吐息がかかる。颯介が吸い付いたのか、甘く痺れるような痛みが走った。

「好きです。紅羽さんが、好き。誰にも渡さない。俺だけの、大事な恋人ひとです。愛してます」

　ぬるりと舌が這う。注射をする前の消毒みたいだな、なんて色気のない考えについ笑いが込み上げた。皮膚に歯の当たる感覚。それから、ギリッと力強く噛まれ、みちみちと肉に歯が食い込んでいく。

「あ……っ、ああアァァッ」

　痛みもある。けれどそれ以上に、噛まれた部分から伝わる颯介の暖かさに身体が打ち震え、知らずのうちに自身から白濁を吐き出した。ナカで締め上げる颯介の熱が、大きく脈打ち、僕は胸の内に広がる幸福感に、ただただ身を委ねた。