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39話

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 仰向けに寝かされ、いつものロフトベッドのパイプ部分が見える。視界の隅には颯介の薄い茶髪が揺れて、そのふわふわした感触が頬に触れるたびに腰が揺れた。

「ん、そうすけ……っ」

 首筋、肩、それから胸まで颯介の唇が移動して、そのたびに痛みが身体を襲う。皮膚ごともっていかれるような痛みだけど、颯介に愛されているって実感が胸の内に湧いてきて、僕は無意識に颯介の頭を抱き締めていた。

「紅羽さん、手、どけてください」
「んー……、や」

 別に意地悪を言ったつもりはない。そうしたくなったからしたのだけど、颯介には少し違ったらしい。

「ちょっと、これじゃ動けないんで」

 ため息混じりにそう吐き捨てて、颯介はそのあたりに脱ぎ捨てていたネクタイを手に取った。青色のストライプが入ったそれは、颯介のものだ。

「いい子なんで、大人しくしててください」
「ぇ……? やっ」

 颯介が僕の手を解き、頭の上に片手でひと纏めにした。片手で僕の両手を簡単に押さえつけ、あまつさえネクタイで縛ってしまえるなんて。いつもとは違う乱暴さに、僕の身体が悦びで打ち震えたのがわかった。

「縛られて興奮するとか。紅羽さん、変態じゃないですか」
「ち、ちがっ」

 両手を上げたことで、僕は脇も大きく見せる形になってしまった。
 邪魔が入らなくなったことで颯介は満足したのか、また左胸に唇を落とし、つんと尖った先端を口へと含む。舌先で転がされ、歯で噛まれ、僕は「ひぅ」と軽く達してしまう。

「赤くなってて、ほんと、うまそう」

 右の突起は指先で執拗にこねられて、そのたびに腰がびくびくと小刻みに震える。ただでさえ膨らんでいたというのに、さらに赤く、ぷっくらしてくるものだから、自分でも、まるで果実みたいだな、と思ったのは内緒だ。

「は……っ、紅羽さん」

 次に颯介が舌を這わせたのは脇だ。もちろんそんなとこ、誰にも舐められたことなどない。むしろ少し汗をかいて湿っていたから、僕は羞恥心でいっぱいになって「やだあっ」と顔を振って抵抗を試みる。

「きたな、い、からっ」
「紅羽さんのなら、汗でも精子でも、尿だろうと飲めますけど」
「そ、れは、やだ……っ」

 今の颯介なら本当にやりかねないから怖い。ぴちゃぴちゃとわざとらしい音を立てながら舌が這い、脇腹へと移動したあたりで、颯介が身体を起こした。
 颯介はシャツのボタンだけを全部外しただけだ。そこから覗く、僕より体躯のいい身体つきに、つい見惚れてしまう。

「なーに見てるんですか」
「……ッ」

 髪を掻き上げる仕草も、にやりと笑う口元も、その全部が僕を堪らない気持ちにさせる。
 颯介が僕の両足を大きく開く。だいぶん解されたそこは、自分でもわかるくらいにはくはくと収縮し、早く颯介を受け入れたいと言っている気がした。

「えっろ……」
「みない、で。はやく……」

 自分の意思とは関係なく収縮する窄みが、堪らなく恥ずかしい。これなら早く挿入いれてくれたほうがマシだ。

「……これ、たぶん、まだきついですよ? いいんですか?」

 自分勝手にする、と言っていたのに、それでも僕を気遣ってくれる優しさが無性に嬉しくて、僕は「いい、から」と吐息混じりに言葉を吐き出す。

「もう、そうすけのかたち、おぼえてる、から」

 初めて肌を重ねた時から、何度も何度も、時間をかけて、颯介は僕に教えてくれた。今さら、怖気づくことなんて何もない。

「……痛いって言っても、泣いても、止められませんから」
「て、は? このまま……?」

 頭の上で縛られた両手を示してみせる。颯介が、僕の後孔に昂ったモノをゆるゆると押しつけ、いつもの優しい、穏やかな笑みを僕に向けてきた。

「そのままです」

 ぐちゅり、と最初から奥まで突かれ、僕は一瞬息が詰まる。けれどすぐに颯介が動き出して、その内臓まで引きずり出されそうな激しさに、僕は「ゔっ」と込み上げたものを吐き出した。口内が胃液の酸っぱさで満ちる。

「が、はッ」

 そのまま腰を打ちつけられ、乾いた音が聴覚を刺激して、それがまた僕に快感を与えていく。

「ぞ……ずけっ」

 霞む思考の中、快楽に意識を持っていかれないよう、必死に颯介の名前をうわ言のように口にする。
 入口あたりを颯介のモノが出入りし、しこりをぐりぐりと刺激されるたび、僕は足を痙攣させ颯介を締め上げる。だいぶん薄くなった精液が腹に散り、とろとろと横腹を滑り落ちて布団に染みを作っていった。

「は……ッ、紅羽さん、可愛い」
「ぅ、ぁ」

 可愛いと言われ、びくびくと身体がひくつくのがわかる。男なのに、颯介に“可愛い”と言われて嬉しいだなんて、こんなに反応してしまうだなんて。

「あー、蕩け顔やば……。誰にも見せちゃ駄目ですよ?」
「みぜっ、ないっ。そうすけだけ……っ、だから」

 手を動かしたい。なのに自由が効かない。

「て、やだ、とっ……てッ」

 腸壁をごりごりと擦られ、颯介の熱が奥の入口を何度も叩く。そのたびに口からは掠れた息みたいな声が出て、僕は意識を何度も失いかけ、そのたびに内臓ごと引っ張り出される感覚にまた戻ってくる。

「んあぁっ、ひ、ぎッ、やあっ」

 自分の熱からは、ずっと白濁と先走りが混ざったような液体が、とめどなく溢れている。

「あー。こんなに出すなんて、勿体ないですよ」

 颯介は至極当たり前のことみたいに言ってのけ、手を縛るネクタイとは別の、赤い水玉模様のネクタイを手に取った。僕のだ。

「ひ、なに、なに……?」

 困惑する僕を横目に、颯介は手にしたネクタイを僕の熱に巻きつけ、痛みがない程度の強さで縛る。何も出せなくなったソレの先端を軽くつつかれ、僕は「んんんッ」と背中を仰け反らせた。

「これ以上出すのは禁止です」

 颯介は優しい声色で、酷く残酷なことを口にした。止まっていた律動が再開されて、再び快楽の波が僕を攫いにやってくる。

「ふ、ぐッ……、とって、どっでよぉッ」

 顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになる。酷い顔だと思うのに、颯介はこんな僕の姿にさえ興奮するのか「かわいい……っ」と荒い息遣いの中、腰を打ちつけてくる。

「だしだいッ、ださぜで……ッ」

 ずっと身体が痙攣してて、視界には星が飛んでいる。バチバチと頭の中では花火が散ってて、意識をどこかに持っていかれそうだ。

「俺との子ども、欲しいんでしょ? なら、搾り取ってくださいよ。全部溢さず、下のお口で、ちゃんと飲めますよね?」
「ぁ……、あかちゃん、そうすけ、の、あかちゃ……ほし」

 虚ろになる意識の中、僕は「ほし、い」とか「ちょうだい」としか口に出来なかった。そんな限界の中、一番奥に広がる熱に心地よさと暖かさ、それから満たされた気持ちになりながら、僕は意識を闇へと落とした。
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