37 / 56
一ノ瀬紅羽の場合
37話
しおりを挟む
コートの裾が長くてよかった。濡れたズボンが見えなくなるから。
駅に着いて、颯介に引っ張られるまま足早にアパートに向かう。風が吹くたびに、少し前を歩く颯介から甘い香りが漂った。それが鼻腔をくすぐるたびに、さっき出したばかりの熱がズボンを押し上げ主張する。
「そうす、け……、なんか、へん、だ……」
身体が熱い。お腹の奥が疼いてたまらない。颯介が欲しい。
「颯介っ」
堪らず名前を呼べば、颯介は手首を引いていた手を一旦離して、でもすぐに指を絡ませるように手を握ってくれた。
「わかってます。体がつらいんですよね? だから早く帰りましょう」
確かに、つらい。
こんなに疼いて、欲しくて、颯介に奥をぐちゃぐちゃに掻き回してほしくて堪らないなんて、今までになかったから。
アパートが見えてくる。家の前で颯介が手を離し、僕の鞄から鍵を取り出し開けてくれた。いつもは僕が先に入るのに、珍しく颯介が先に上がる。その背中が愛しくて、離れたくなくて、僕は手を伸ばしてコートを遠慮がちに摘んだ。
「颯介……、嫌だ、離れるな……っ」
「大丈夫です。むしろ俺があなたを離しませんから」
颯介がコートを脱いで、それを僕に包むようかけてくれた。途端ふわりと漂った香りに、まるで全身の血が沸騰するような感覚に襲われ、ぶわりと毛が逆立つ。
「ひ、やっ、これ、なにっ」
今まで感じたことのない感覚に戸惑う。焦る僕とは反対に、颯介が「ヒート、だと思います」と冷静に返して、靴を脱ぐよう促してきた。
ヒート? それってΩに起こるもの、だよな。でも僕は結局βのままで、Ωにはなれなかったはず……。
僕の肩口に顔を寄せた颯介が、何度か鼻を鳴らす。その仕草にも身体がびくびくと反応して、僕は小さく声を上げ、ずるずると座り込んでしまった。
「なん……っ、さっきイッたばっか、なのにっ」
もう恥ずかしい。座ったことで、ぐっしょりとした感触が尻にまで伝う。自分のズボンとコートだけでなく、かけてくれた颯介のコートまで汚してしまって、僕は意味がわからないやら、恥ずかしいやら、どうなるのやらで、涙が溢れてきた。
「どうしよ、そうす……、ぼく、やだあっ」
「紅羽さん」
屈んだ颯介が、僕から鞄を取り上げて、自分のと一緒に廊下の隅へと置く。そのまま抱き寄せられ、さらに颯介の香りが強くなる。
「ぁ……、そうす、け」
頭の中がぼーっとする。何も考えられなくなっていくみたいだ。
いや、厳密には何も、じゃない。颯介が欲しい。颯介に抱かれて、何もかわらなくなるぐらい抱かれて、気持ちよくなりたい。
「紅羽さんのやりたいこと、してほしいこと、全部わかってます。俺、これくらいじゃ嫌いになりませんから」
颯介の言葉は、僕の理性を簡単に崩してしまう。
「……い」
「紅羽さん?」
颯介の首に頭を擦り寄せて、匂いをつけるようにぐりぐりと押しつける。そのまま颯介の頬を両手で挟むように触れて、
「そうすけの、ほしい」
と目を見てはっきりと口にした。
途端に口を塞がれて、颯介の舌が歯列をなぞる。裏まで舐められ、僕の口から飲みきれない唾液が顎を伝う。そっと目を開ければ、同じく目を開けていた颯介とばっちり目が合った。
「ぅえ!? な、んでっ」
驚いて離れれば、颯介が「残念」とにやりと笑い、僕の靴を脱がせ、それから横抱きにして部屋へと向かった。
「紅羽さんのキス顔、ほんと堪んなくて」
そう言い扉を簡単に開けた颯介が、敷きっぱなしの布団を見て困ったように息を吐く。
「一人で淋しかったんです?」
「ん……、でも最近、匂いがうすくなって、きてて……っ」
「じゃあ、またつけないと、ですね」
颯介が僕の額に唇を寄せ、軽いリップ音を立ててから離れていく。僕の口から吐かれた息は熱く、お腹の奥にきゅうっと切ない疼きを残す。
「そ、すけ、はやくっ」
横抱きにされたまま、颯介の胸板に顔を埋める。
「はいはい、わかってますから」
僕を降ろして、まずはコート二つとスーツを脱がされた。上半身全てを取っ払われてから、布団に寝かされる。カチャカチャとベルトを外され、ズボンごと下着も全部はがされてしまう。
「や、だ……、はずかし」
早くしてほしいのに、見られるのが恥ずかしい。矛盾を言っている自覚はあるのに、僕の身体は颯介がくれるであろう快楽を期待して、ふるふると小さく震えていた。
布団を敷く際に出したボトルの中身を、颯介がいつもみたいに手のひらに垂らして、指先が窄みに触れる。冷たい感触になぜか淋しさが募って、僕は「そ、すけ……っ」と少し体を起こしてその行為を制した。
「どうしました……?」
指先についたローションを、僕につかないよう気を使いながら、反対の手で頬を撫でてくれる。それだけで堪らない気持ちになって、思わず息が漏れてしまう。けれどそれが目的ではないから、僕はさらに体を動かして、胡座をかいた状態の颯介に、向き合う形で跨った。
「……くっついてたい」
自分でも驚くぐらいに甘い声だった。
颯介の首元にぐりぐりと顔を押しつけて、まるで子供が甘えるように背中に手を回して体をくっつける。その格好で鼻を鳴らせば颯介の匂いがして、思わず足の指先に力が入った。
「っは、そうす……ッ」
くちゅ、と音が聞こえて、恐る恐る目線を下へとやる。僕から出された真っ白な欲が、まだ脱いでいなかった颯介のシャツに派手にかかっていた。
「ごめっ」
「いいですから」
逃げようと引いた腰を、颯介がぐいと引き寄せた。
「何も考えないで。俺にだけ集中してください」
「……ん、ぁ」
後ろから回された颯介の指先が、ひくつく窄みを撫でるように滑り、それからゆっくりと埋められた。
駅に着いて、颯介に引っ張られるまま足早にアパートに向かう。風が吹くたびに、少し前を歩く颯介から甘い香りが漂った。それが鼻腔をくすぐるたびに、さっき出したばかりの熱がズボンを押し上げ主張する。
「そうす、け……、なんか、へん、だ……」
身体が熱い。お腹の奥が疼いてたまらない。颯介が欲しい。
「颯介っ」
堪らず名前を呼べば、颯介は手首を引いていた手を一旦離して、でもすぐに指を絡ませるように手を握ってくれた。
「わかってます。体がつらいんですよね? だから早く帰りましょう」
確かに、つらい。
こんなに疼いて、欲しくて、颯介に奥をぐちゃぐちゃに掻き回してほしくて堪らないなんて、今までになかったから。
アパートが見えてくる。家の前で颯介が手を離し、僕の鞄から鍵を取り出し開けてくれた。いつもは僕が先に入るのに、珍しく颯介が先に上がる。その背中が愛しくて、離れたくなくて、僕は手を伸ばしてコートを遠慮がちに摘んだ。
「颯介……、嫌だ、離れるな……っ」
「大丈夫です。むしろ俺があなたを離しませんから」
颯介がコートを脱いで、それを僕に包むようかけてくれた。途端ふわりと漂った香りに、まるで全身の血が沸騰するような感覚に襲われ、ぶわりと毛が逆立つ。
「ひ、やっ、これ、なにっ」
今まで感じたことのない感覚に戸惑う。焦る僕とは反対に、颯介が「ヒート、だと思います」と冷静に返して、靴を脱ぐよう促してきた。
ヒート? それってΩに起こるもの、だよな。でも僕は結局βのままで、Ωにはなれなかったはず……。
僕の肩口に顔を寄せた颯介が、何度か鼻を鳴らす。その仕草にも身体がびくびくと反応して、僕は小さく声を上げ、ずるずると座り込んでしまった。
「なん……っ、さっきイッたばっか、なのにっ」
もう恥ずかしい。座ったことで、ぐっしょりとした感触が尻にまで伝う。自分のズボンとコートだけでなく、かけてくれた颯介のコートまで汚してしまって、僕は意味がわからないやら、恥ずかしいやら、どうなるのやらで、涙が溢れてきた。
「どうしよ、そうす……、ぼく、やだあっ」
「紅羽さん」
屈んだ颯介が、僕から鞄を取り上げて、自分のと一緒に廊下の隅へと置く。そのまま抱き寄せられ、さらに颯介の香りが強くなる。
「ぁ……、そうす、け」
頭の中がぼーっとする。何も考えられなくなっていくみたいだ。
いや、厳密には何も、じゃない。颯介が欲しい。颯介に抱かれて、何もかわらなくなるぐらい抱かれて、気持ちよくなりたい。
「紅羽さんのやりたいこと、してほしいこと、全部わかってます。俺、これくらいじゃ嫌いになりませんから」
颯介の言葉は、僕の理性を簡単に崩してしまう。
「……い」
「紅羽さん?」
颯介の首に頭を擦り寄せて、匂いをつけるようにぐりぐりと押しつける。そのまま颯介の頬を両手で挟むように触れて、
「そうすけの、ほしい」
と目を見てはっきりと口にした。
途端に口を塞がれて、颯介の舌が歯列をなぞる。裏まで舐められ、僕の口から飲みきれない唾液が顎を伝う。そっと目を開ければ、同じく目を開けていた颯介とばっちり目が合った。
「ぅえ!? な、んでっ」
驚いて離れれば、颯介が「残念」とにやりと笑い、僕の靴を脱がせ、それから横抱きにして部屋へと向かった。
「紅羽さんのキス顔、ほんと堪んなくて」
そう言い扉を簡単に開けた颯介が、敷きっぱなしの布団を見て困ったように息を吐く。
「一人で淋しかったんです?」
「ん……、でも最近、匂いがうすくなって、きてて……っ」
「じゃあ、またつけないと、ですね」
颯介が僕の額に唇を寄せ、軽いリップ音を立ててから離れていく。僕の口から吐かれた息は熱く、お腹の奥にきゅうっと切ない疼きを残す。
「そ、すけ、はやくっ」
横抱きにされたまま、颯介の胸板に顔を埋める。
「はいはい、わかってますから」
僕を降ろして、まずはコート二つとスーツを脱がされた。上半身全てを取っ払われてから、布団に寝かされる。カチャカチャとベルトを外され、ズボンごと下着も全部はがされてしまう。
「や、だ……、はずかし」
早くしてほしいのに、見られるのが恥ずかしい。矛盾を言っている自覚はあるのに、僕の身体は颯介がくれるであろう快楽を期待して、ふるふると小さく震えていた。
布団を敷く際に出したボトルの中身を、颯介がいつもみたいに手のひらに垂らして、指先が窄みに触れる。冷たい感触になぜか淋しさが募って、僕は「そ、すけ……っ」と少し体を起こしてその行為を制した。
「どうしました……?」
指先についたローションを、僕につかないよう気を使いながら、反対の手で頬を撫でてくれる。それだけで堪らない気持ちになって、思わず息が漏れてしまう。けれどそれが目的ではないから、僕はさらに体を動かして、胡座をかいた状態の颯介に、向き合う形で跨った。
「……くっついてたい」
自分でも驚くぐらいに甘い声だった。
颯介の首元にぐりぐりと顔を押しつけて、まるで子供が甘えるように背中に手を回して体をくっつける。その格好で鼻を鳴らせば颯介の匂いがして、思わず足の指先に力が入った。
「っは、そうす……ッ」
くちゅ、と音が聞こえて、恐る恐る目線を下へとやる。僕から出された真っ白な欲が、まだ脱いでいなかった颯介のシャツに派手にかかっていた。
「ごめっ」
「いいですから」
逃げようと引いた腰を、颯介がぐいと引き寄せた。
「何も考えないで。俺にだけ集中してください」
「……ん、ぁ」
後ろから回された颯介の指先が、ひくつく窄みを撫でるように滑り、それからゆっくりと埋められた。
217
お気に入りに追加
527
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
コンビニごと異世界転生したフリーター、魔法学園で今日もみんなに溺愛されます
はるはう
BL
コンビニで働く渚は、ある日バイト中に奇妙なめまいに襲われる。
睡眠不足か?そう思い仕事を続けていると、さらに奇妙なことに、品出しを終えたはずの唐揚げ弁当が増えているのである。
驚いた渚は慌ててコンビニの外へ駆け出すと、そこはなんと異世界の魔法学園だった!
そしてコンビニごと異世界へ転生してしまった渚は、知らぬ間に魔法学園のコンビニ店員として働くことになってしまい・・・
フリーター男子は今日もイケメンたちに甘やかされ、異世界でもバイト三昧の日々です!
生徒会長の包囲
きの
BL
昔から自分に自信が持てず、ネガティブな考えばっかりしてしまう高校生、朔太。
何もかもだめだめで、どんくさい朔太を周りは遠巻きにするが、彼の幼なじみである生徒会長だけは、見放したりなんかしなくて______。
不定期更新です。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
偽りの僕を愛したのは
ぽんた
BL
自分にはもったいないと思えるほどの人と恋人のレイ。
彼はこの国の騎士団長、しかも侯爵家の三男で。
対して自分は親がいない平民。そしてある事情があって彼に隠し事をしていた。
それがバレたら彼のそばには居られなくなってしまう。
隠し事をする自分が卑しくて憎くて仕方ないけれど、彼を愛したからそれを突き通さなければ。
騎士団長✕訳あり平民
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる