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32話

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 どれくらい経ったのかわからない。
 ベッドに寝かされた時、まだ外からは帰路に着くサラリーマンや学生、それから車のエンジン音がしていたのに、それらはいつの間にか聞こえなくなっていた。
 途中、熱いと言ったら脱がされたシャツは、ベッドの上に散らかしたまま。そこから香る匂いが、引くことのない疼きを僕に与え続けている。

「ひぐぅ……ッ、ん゙ん゙」

 横向きにされ、片足を大きく持ち上げられた状態で、奥を遠慮なく突かれ続ける。もう僕の中は、颯介が出したモノでぐちゃぐちゃで、それがさらに混ざり滑りをよくし、何度も何度も僕の意識を攫っていこうとしている。

「も、ゃ……、イけな……」

 喉は掠れた声しか出ないし、頭の下に敷いた枕は涙と涎で湿って少し気持ち悪い。
 部屋には、肌がぶつかり合う音と、厭らしい水音と、颯介の獣みたいな吐息、それから僕の蕩けた声がたまに響くだけ。

「紅羽さん、まだイけますよね? だって離してくれないんですから」

 ぐり、と弱いところを押され、僕は「いいぃっ」と今までにないくらい足を痙攣させた。目の前に火花が走り、頭の中で何かが切れるような感覚がして、それが少し怖くなる。

「ま゙っで、ぞうずげっ、や、ごわ゙い゙っ」
「……っ」

 僕の言葉に、颯介が一瞬我に返った表情をして、自分の親指の付け根を噛もうとした。

「だめ、そうすけ……!」

 手を伸ばしてそれを止めてから、僕は「違う」とはっきり口にする。どうしてこうも、僕は言葉が下手なんだろう。

「ちがう、そうすけ、違うんだよ。これ以上は、僕、ぼく、帰ってこれなくなりそうで、こわいんだ」

 伝わっただろうか。
 颯介が怖いんじゃないって。セックスが嫌なわけじゃないって。

「……紅羽さん」
「ん……」

 僕の足を下ろした颯介が、僕のナカから一旦自身を抜いた。ずっと入れたままだったからか、急になくなったそこに淋しさを感じて、窄みがはくはくと動くのがわかる。

「じゃあ、いきましょうよ。二人で。帰ってこれない場所まで」
「へ……ぁっ」

 今度はうつ伏せの格好で、腰を掴まれ、僕は颯介に尻を突き出す姿勢を取らされる。塞ぐものがなくなった後孔からは、トロトロと颯介の出したモノが流れ出し内ももを伝っていく。

「んあああっ」

 そのまま容赦なくまた突かれ、僕は意図せず颯介を締め上げた。颯介は小さく息を呑んだけれど、ナカに出された感覚はない。

「ね、紅羽さん」

 腰を掴んでいた右手が前に回り、僕の腹を軽く押した。

「だ、だめ、おしちゃ……ッ」

 ただでさえ今まで出されたモノで膨らんでいるのに、長時間に及ぶ行為で、正直微かな尿意も催している。この状態で腹を押されては、我慢しているものも出そうになってしまう。

「あーあ、たぷたぷ。紅羽さん、出したいですか?」

 僕は恥じらいも捨てて、こくこくと何度も頷く。背後から、颯介の愉しそうな笑い声が聞こえた。

「ですよね。じゃあ、しましょっか」

 悪魔か、こいつは。
 なんて言える余裕は僕にはなく、がくがくと揺さぶられ、腹を押され、このまま出してしまいたい気持ちのほうが大きくなっていく。でも、とすんでのところで、なけなしの理性を掻き集めて、必死で耐える。

「んーーっ、うぅーっ」

 枕に顔を埋めて、カバーを噛んで、快楽に負けないように粘る。

「可愛いなぁ。紅羽さん、知ってます? イった後、一気に緊張が解れた瞬間が一番出やすいんですよ」

 腹部を押す手が下に伸び、僕の陰茎を握り込んだ。

「や、だっ、どうじ、は……っ」

 枕から顔を上げて反論を試みたけれど、ナカを颯介のモノで掻き回され、大きな手で扱かれては、僕の反論なんてすぐに嬌声に変わってしまう。

「いやァっ、ぁ……っ、ひううっ」

 駄目だ、駄目だ、絶対にイっちゃ駄目だ。

「我慢しないで、紅羽さん。ほら、俺の服にかけて」

 まるでペット用のシートみたいな言い様だ。
 脱ぎ散らかしたシャツに引っ掛けるなんて、そんな、そんなマーキングみたいなこと、出来るわけがない、のに。

「だ……め……っ、きちゃうっ」

 僕の我慢も虚しく、颯介の遠慮のない動きに合わせるように僕は身体を震わせた。もう何も出ない陰茎はふるふると小さく震えた後、緊張が緩んだのか、その先端からチョロチョロと黄色の液体を垂れ流した。

「いやだああぁっ、ひぐっ、ふ……ぅ」

 だいの大人が失禁したことも、それを颯介に見られたことも、色んな感情がごちゃ混ぜになって、僕は嗚咽を漏らした。失望されても仕方ないのに、なぜか僕のナカにいる颯介は、さらにその質量を増した。そのあまりの苦しさに「ぁぇ……ッ」と餌付いたような声が出る。

「紅羽さん、可愛すぎです」

 颯介の腕が僕を抱きしめるように回され、そのまま身体を起こされる。立膝をするような格好になるけれど、身長差もあって微妙に膝がつかず、颯介が支えてくれないと上手くバランスが取れない。

「そ、すけ……?」

 さっきより深くなった繋がりに、少しの圧迫感を感じながらも、回された腕にそっと触れる。

「紅羽さん、少し力入れて」
「ち、ちから……?」

 いつもは抜けって言われるのに。疑問を感じつつも、息を吐ききってから、言われた通りに力を込める。

「が……ッ」

 下から突き上げられ、視界に星が飛ぶ。今まで何も受け入れたことがない場所に、颯介の熱いモノが入ってきている。いや、抉じ開けられたと言ったほうがいい。

「ぁ……、ぁ?」

 口から涎と胃液が吐き出され、顎を伝い、散らかした服にぼたぼたと落ちていく。自分の竿の先端からは、ずっと白濁がこぽこぽと溢れ出したままだ。

「あー、可愛い。紅羽さん、ほんっと可愛い。俺、今から本気で孕ませますんで」

 孕ます? 孕ますってなんだっけ。
 そうだ、子どもを作ることを孕ませるって、大学生の時に読んだ本に書いてあって――

「ひ、ぐッ、アアアっ」

 颯介が容赦なく突き上げ、意識をそっちに引っ張られる。結合部からぐぽぐぽと音が鳴って、奥の、入っちゃいけない場所を叩かれれば、僕はまた颯介をきつく締め上げた。

「紅羽さんの中、柔らかすぎ……っ」

 耳元で喋る颯介の言葉と息が気持ちよくて、僕は何も考えられなくなっていく。感じたことのない苦しさ、圧迫感、なのに幸福感のほうが大きくて、僕はまた颯介によって快楽を植え付けられる。

「紅羽さん……ッ」

 名前を呼んだ颯介が、僕のうなじに舌を這わせる。甘噛とは比べ物にならないほどに強く歯を立てられ、ナカに熱いモノを感じながら、僕もまた、颯介の熱を溢さないよう、きゅうきゅうと強く締めつけた。
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