22 / 56
22話
しおりを挟む
思っていた反応ではなかったんだろう。
あいつは、嫌だ、やめろ、離せと叫ぶ僕を背後から犯した。圧迫感で嘔吐した僕を、ゴミを見るような目で見下した。それだけで飽き足らず、仰向けにした僕を正面から犯し続けた。何も反応しなかった僕が気に食わなかったのか、鬱憤を晴らすように、腹をニ度、三度殴られた。
絶望とか悲しみのほうが勝っていて、痛みなんて感じなかったはずなのに。今、こうして颯介に悲しそうな顔をさせるだけで、殴られた場所がすごく痛い。
仰向けのまま、頭の下にある枕を右手で掴む。今からされることに恐怖を感じてしまって、僕は目を閉じて颯介から顔を背けた。
「さっき、いいセックスしましょうって言いましたけど」
頬に何かが触れて、身体が大袈裟に跳ねる。恐る恐る目をうっすら開けば、颯介が右手の甲で、僕の頬を軽く撫でていた。
「それはそれとして、うんと優しくしますね」
「……っ」
膝裏に手を入れられ、足を持ち上げられる。恥ずかしいとこ全てを颯介に見られている羞恥で、僕はまた目を閉じて顔を背けてしまう。
窄みに吐息がかかる。ちゅ、ちゅ、と何度か啄むような音がしたかと思えば、熱くて湿った柔らかいものが這う感触が伝わってきた。それが何かを考えるのすら恥ずかしくて、僕は息すらも押し殺すように口を真一文字に引き結ぶ。
「紅羽さん、目を開けてください」
言われて目をそうっと開ける。
涙でぼやけた視界の先に、僕の恥ずかしいところを丁寧に、まるでアイスでも舐めるように舌を這わせる颯介と目が合った。
「痛くないですか?」
こんな時まで気を使われているのが嬉しいような、やっぱり恥ずかしいような。ちゅく、と舐められるたびに少しだけ滲みるけれど、不思議と痛みは感じない。僕がこくこくと何度も頷くのを見た颯介が「よかった……」と頬を綻ばせた。
「もうちょっとだけ解しましょうか」
「ぅ、ぁ……」
颯介の舌がぐにゅぐにゅと中へ入ってきた。指とは違う、柔らかく刺激される感覚に足が大きく跳ねる。そのまま左手で陰茎を握り込まれて、先端を親指でぐりぐりと強めに押された。
「我慢しないで。一回イッたほうが楽ですから」
そんなこと言われても、この格好で出したら……。僕の思ってることがバレたのか、颯介が少し愉しそうに「それとも」と左手を緩く上下に動かしだした。
「自分にかかっちゃうの、嫌です?」
「……!」
当たり前だろうがの意を込めて睨んだつもりなのに、涙目で息を荒く吐き出すこの状態ではなんの説得力もない。颯介の舌と左手に、優しく、甘く、時に強く刺激されて、僕は呆気なく自分の顔に向けて熱を吐き出した。
イッたばかりで力が入らず、息もままならない僕を見て、颯介が「エロ……」と小さく呟いて、僕の顔にかかった精液を人差し指ですくった。それをなんの躊躇いもなく舐め取るものだから、僕はまた恥ずかしくなって、声にならない声で、出来る限りの反抗を試みる。
「あー、やばい……、ラット入りそ……」
「?」
聞き慣れない単語に首を傾げた。
颯介は「すみません」と一度だけ謝って、僕の両足をゆっくりと降ろしてから、自分の右手の親指の付け根を思いきり噛んだ。驚く僕を余所に、颯介はそれを二、三度繰り返してから、深く息を吐き出す。
「ラットっていうのは、αのヒートみたいなもので……。普通はΩのヒートにあてられて入るんですけど」
僕はβだ。つまり、颯介がそのラットになることなんてないはず。
「今ラットに入れば、俺、紅羽さんに優しくする余裕なくなるんで……」
颯介はそう言って、皮が剥けて血が滲んだ親指を舐めた。そうさせたのが僕だということに、ほんの少しの優越感を感じる。
なんて僕は最低なんだろう。
「……っ」
ごめんなさい。どこかにいる颯介の運命の人。僕はもう、颯介を離してあげられない。会わせてなんて、あげられない。
「ぅ……」
掠れた息で、颯介の名前を呼んで、枕を掴んでいた両手を必死で伸ばす。許しをこうように、縋るように、どこにも行かないように。
颯介も同じように両手を伸ばして、互いの指を絡め合う。少し大きな颯介の手は、僕の丸っこい手を、すっぽりと包みこんでしまう。
「……どこにも行きません。俺には、紅羽さんしか見えてませんから」
こくりとひとつ、大きく頷く。僕もそうだ、颯介しか見えてない。
「ちょっと、失礼しますね」
両手を離した颯介が、一旦立ち上がり、僕のロフトベッドに置いてあるクッションを手にしてきた。それは指で慣らす時に、腰の下に入れていたものだ。それを手際よくいつもみたいに敷いてから、颯介は自分のシャツを脱ぎ捨てた。
程よく引き締まった腕も、腹も、全部見慣れたはずなのに、いつもより魅力的に見えるのだから、雰囲気というのは恐ろしい。
「緊張、します?」
流石にガン見しすぎたらしい。
苦笑いをする颯介を見て、僕は恥ずかしくなってまた顔を反らした。
「紅羽さん」
盗み見をするよう、片目だけ開けてちらりと見た。
左手の手のひらを僕に見せて、颯介はもう一度「紅羽さん」と穏やかに笑う。吸い寄せられる右手を伸ばして絡めれば、颯介が空いている右手でカチャカチャとスラックスを下げる。
そうして押し当てられる熱に意識が飛ばないよう、僕は『颯介』とうわ言のように名前を繰り返した。
あいつは、嫌だ、やめろ、離せと叫ぶ僕を背後から犯した。圧迫感で嘔吐した僕を、ゴミを見るような目で見下した。それだけで飽き足らず、仰向けにした僕を正面から犯し続けた。何も反応しなかった僕が気に食わなかったのか、鬱憤を晴らすように、腹をニ度、三度殴られた。
絶望とか悲しみのほうが勝っていて、痛みなんて感じなかったはずなのに。今、こうして颯介に悲しそうな顔をさせるだけで、殴られた場所がすごく痛い。
仰向けのまま、頭の下にある枕を右手で掴む。今からされることに恐怖を感じてしまって、僕は目を閉じて颯介から顔を背けた。
「さっき、いいセックスしましょうって言いましたけど」
頬に何かが触れて、身体が大袈裟に跳ねる。恐る恐る目をうっすら開けば、颯介が右手の甲で、僕の頬を軽く撫でていた。
「それはそれとして、うんと優しくしますね」
「……っ」
膝裏に手を入れられ、足を持ち上げられる。恥ずかしいとこ全てを颯介に見られている羞恥で、僕はまた目を閉じて顔を背けてしまう。
窄みに吐息がかかる。ちゅ、ちゅ、と何度か啄むような音がしたかと思えば、熱くて湿った柔らかいものが這う感触が伝わってきた。それが何かを考えるのすら恥ずかしくて、僕は息すらも押し殺すように口を真一文字に引き結ぶ。
「紅羽さん、目を開けてください」
言われて目をそうっと開ける。
涙でぼやけた視界の先に、僕の恥ずかしいところを丁寧に、まるでアイスでも舐めるように舌を這わせる颯介と目が合った。
「痛くないですか?」
こんな時まで気を使われているのが嬉しいような、やっぱり恥ずかしいような。ちゅく、と舐められるたびに少しだけ滲みるけれど、不思議と痛みは感じない。僕がこくこくと何度も頷くのを見た颯介が「よかった……」と頬を綻ばせた。
「もうちょっとだけ解しましょうか」
「ぅ、ぁ……」
颯介の舌がぐにゅぐにゅと中へ入ってきた。指とは違う、柔らかく刺激される感覚に足が大きく跳ねる。そのまま左手で陰茎を握り込まれて、先端を親指でぐりぐりと強めに押された。
「我慢しないで。一回イッたほうが楽ですから」
そんなこと言われても、この格好で出したら……。僕の思ってることがバレたのか、颯介が少し愉しそうに「それとも」と左手を緩く上下に動かしだした。
「自分にかかっちゃうの、嫌です?」
「……!」
当たり前だろうがの意を込めて睨んだつもりなのに、涙目で息を荒く吐き出すこの状態ではなんの説得力もない。颯介の舌と左手に、優しく、甘く、時に強く刺激されて、僕は呆気なく自分の顔に向けて熱を吐き出した。
イッたばかりで力が入らず、息もままならない僕を見て、颯介が「エロ……」と小さく呟いて、僕の顔にかかった精液を人差し指ですくった。それをなんの躊躇いもなく舐め取るものだから、僕はまた恥ずかしくなって、声にならない声で、出来る限りの反抗を試みる。
「あー、やばい……、ラット入りそ……」
「?」
聞き慣れない単語に首を傾げた。
颯介は「すみません」と一度だけ謝って、僕の両足をゆっくりと降ろしてから、自分の右手の親指の付け根を思いきり噛んだ。驚く僕を余所に、颯介はそれを二、三度繰り返してから、深く息を吐き出す。
「ラットっていうのは、αのヒートみたいなもので……。普通はΩのヒートにあてられて入るんですけど」
僕はβだ。つまり、颯介がそのラットになることなんてないはず。
「今ラットに入れば、俺、紅羽さんに優しくする余裕なくなるんで……」
颯介はそう言って、皮が剥けて血が滲んだ親指を舐めた。そうさせたのが僕だということに、ほんの少しの優越感を感じる。
なんて僕は最低なんだろう。
「……っ」
ごめんなさい。どこかにいる颯介の運命の人。僕はもう、颯介を離してあげられない。会わせてなんて、あげられない。
「ぅ……」
掠れた息で、颯介の名前を呼んで、枕を掴んでいた両手を必死で伸ばす。許しをこうように、縋るように、どこにも行かないように。
颯介も同じように両手を伸ばして、互いの指を絡め合う。少し大きな颯介の手は、僕の丸っこい手を、すっぽりと包みこんでしまう。
「……どこにも行きません。俺には、紅羽さんしか見えてませんから」
こくりとひとつ、大きく頷く。僕もそうだ、颯介しか見えてない。
「ちょっと、失礼しますね」
両手を離した颯介が、一旦立ち上がり、僕のロフトベッドに置いてあるクッションを手にしてきた。それは指で慣らす時に、腰の下に入れていたものだ。それを手際よくいつもみたいに敷いてから、颯介は自分のシャツを脱ぎ捨てた。
程よく引き締まった腕も、腹も、全部見慣れたはずなのに、いつもより魅力的に見えるのだから、雰囲気というのは恐ろしい。
「緊張、します?」
流石にガン見しすぎたらしい。
苦笑いをする颯介を見て、僕は恥ずかしくなってまた顔を反らした。
「紅羽さん」
盗み見をするよう、片目だけ開けてちらりと見た。
左手の手のひらを僕に見せて、颯介はもう一度「紅羽さん」と穏やかに笑う。吸い寄せられる右手を伸ばして絡めれば、颯介が空いている右手でカチャカチャとスラックスを下げる。
そうして押し当てられる熱に意識が飛ばないよう、僕は『颯介』とうわ言のように名前を繰り返した。
167
お気に入りに追加
522
あなたにおすすめの小説
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる