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一ノ瀬紅羽の場合
22話
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思っていた反応ではなかったんだろう。
あいつは、嫌だ、やめろ、離せと叫ぶ僕を背後から犯した。圧迫感で嘔吐した僕を、ゴミを見るような目で見下した。それだけで飽き足らず、仰向けにした僕を正面から犯し続けた。何も反応しなかった僕が気に食わなかったのか、鬱憤を晴らすように、腹をニ度、三度殴られた。
絶望とか悲しみのほうが勝っていて、痛みなんて感じなかったはずなのに。今、こうして颯介に悲しそうな顔をさせるだけで、殴られた場所がすごく痛い。
仰向けのまま、頭の下にある枕を右手で掴む。今からされることに恐怖を感じてしまって、僕は目を閉じて颯介から顔を背けた。
「さっき、いいセックスしましょうって言いましたけど」
頬に何かが触れて、身体が大袈裟に跳ねる。恐る恐る目をうっすら開けば、颯介が右手の甲で、僕の頬を軽く撫でていた。
「それはそれとして、うんと優しくしますね」
「……っ」
膝裏に手を入れられ、足を持ち上げられる。恥ずかしいとこ全てを颯介に見られている羞恥で、僕はまた目を閉じて顔を背けてしまう。
窄みに吐息がかかる。ちゅ、ちゅ、と何度か啄むような音がしたかと思えば、熱くて湿った柔らかいものが這う感触が伝わってきた。それが何かを考えるのすら恥ずかしくて、僕は息すらも押し殺すように口を真一文字に引き結ぶ。
「紅羽さん、目を開けてください」
言われて目をそうっと開ける。
涙でぼやけた視界の先に、僕の恥ずかしいところを丁寧に、まるでアイスでも舐めるように舌を這わせる颯介と目が合った。
「痛くないですか?」
こんな時まで気を使われているのが嬉しいような、やっぱり恥ずかしいような。ちゅく、と舐められるたびに少しだけ滲みるけれど、不思議と痛みは感じない。僕がこくこくと何度も頷くのを見た颯介が「よかった……」と頬を綻ばせた。
「もうちょっとだけ解しましょうか」
「ぅ、ぁ……」
颯介の舌がぐにゅぐにゅと中へ入ってきた。指とは違う、柔らかく刺激される感覚に足が大きく跳ねる。そのまま左手で陰茎を握り込まれて、先端を親指でぐりぐりと強めに押された。
「我慢しないで。一回イッたほうが楽ですから」
そんなこと言われても、この格好で出したら……。僕の思ってることがバレたのか、颯介が少し愉しそうに「それとも」と左手を緩く上下に動かしだした。
「自分にかかっちゃうの、嫌です?」
「……!」
当たり前だろうがの意を込めて睨んだつもりなのに、涙目で息を荒く吐き出すこの状態ではなんの説得力もない。颯介の舌と左手に、優しく、甘く、時に強く刺激されて、僕は呆気なく自分の顔に向けて熱を吐き出した。
イッたばかりで力が入らず、息もままならない僕を見て、颯介が「エロ……」と小さく呟いて、僕の顔にかかった精液を人差し指ですくった。それをなんの躊躇いもなく舐め取るものだから、僕はまた恥ずかしくなって、声にならない声で、出来る限りの反抗を試みる。
「あー、やばい……、ラット入りそ……」
「?」
聞き慣れない単語に首を傾げた。
颯介は「すみません」と一度だけ謝って、僕の両足をゆっくりと降ろしてから、自分の右手の親指の付け根を思いきり噛んだ。驚く僕を余所に、颯介はそれを二、三度繰り返してから、深く息を吐き出す。
「ラットっていうのは、αのヒートみたいなもので……。普通はΩのヒートにあてられて入るんですけど」
僕はβだ。つまり、颯介がそのラットになることなんてないはず。
「今ラットに入れば、俺、紅羽さんに優しくする余裕なくなるんで……」
颯介はそう言って、皮が剥けて血が滲んだ親指を舐めた。そうさせたのが僕だということに、ほんの少しの優越感を感じる。
なんて僕は最低なんだろう。
「……っ」
ごめんなさい。どこかにいる颯介の運命の人。僕はもう、颯介を離してあげられない。会わせてなんて、あげられない。
「ぅ……」
掠れた息で、颯介の名前を呼んで、枕を掴んでいた両手を必死で伸ばす。許しをこうように、縋るように、どこにも行かないように。
颯介も同じように両手を伸ばして、互いの指を絡め合う。少し大きな颯介の手は、僕の丸っこい手を、すっぽりと包みこんでしまう。
「……どこにも行きません。俺には、紅羽さんしか見えてませんから」
こくりとひとつ、大きく頷く。僕もそうだ、颯介しか見えてない。
「ちょっと、失礼しますね」
両手を離した颯介が、一旦立ち上がり、僕のロフトベッドに置いてあるクッションを手にしてきた。それは指で慣らす時に、腰の下に入れていたものだ。それを手際よくいつもみたいに敷いてから、颯介は自分のシャツを脱ぎ捨てた。
程よく引き締まった腕も、腹も、全部見慣れたはずなのに、いつもより魅力的に見えるのだから、雰囲気というのは恐ろしい。
「緊張、します?」
流石にガン見しすぎたらしい。
苦笑いをする颯介を見て、僕は恥ずかしくなってまた顔を反らした。
「紅羽さん」
盗み見をするよう、片目だけ開けてちらりと見た。
左手の手のひらを僕に見せて、颯介はもう一度「紅羽さん」と穏やかに笑う。吸い寄せられる右手を伸ばして絡めれば、颯介が空いている右手でカチャカチャとスラックスを下げる。
そうして押し当てられる熱に意識が飛ばないよう、僕は『颯介』とうわ言のように名前を繰り返した。
あいつは、嫌だ、やめろ、離せと叫ぶ僕を背後から犯した。圧迫感で嘔吐した僕を、ゴミを見るような目で見下した。それだけで飽き足らず、仰向けにした僕を正面から犯し続けた。何も反応しなかった僕が気に食わなかったのか、鬱憤を晴らすように、腹をニ度、三度殴られた。
絶望とか悲しみのほうが勝っていて、痛みなんて感じなかったはずなのに。今、こうして颯介に悲しそうな顔をさせるだけで、殴られた場所がすごく痛い。
仰向けのまま、頭の下にある枕を右手で掴む。今からされることに恐怖を感じてしまって、僕は目を閉じて颯介から顔を背けた。
「さっき、いいセックスしましょうって言いましたけど」
頬に何かが触れて、身体が大袈裟に跳ねる。恐る恐る目をうっすら開けば、颯介が右手の甲で、僕の頬を軽く撫でていた。
「それはそれとして、うんと優しくしますね」
「……っ」
膝裏に手を入れられ、足を持ち上げられる。恥ずかしいとこ全てを颯介に見られている羞恥で、僕はまた目を閉じて顔を背けてしまう。
窄みに吐息がかかる。ちゅ、ちゅ、と何度か啄むような音がしたかと思えば、熱くて湿った柔らかいものが這う感触が伝わってきた。それが何かを考えるのすら恥ずかしくて、僕は息すらも押し殺すように口を真一文字に引き結ぶ。
「紅羽さん、目を開けてください」
言われて目をそうっと開ける。
涙でぼやけた視界の先に、僕の恥ずかしいところを丁寧に、まるでアイスでも舐めるように舌を這わせる颯介と目が合った。
「痛くないですか?」
こんな時まで気を使われているのが嬉しいような、やっぱり恥ずかしいような。ちゅく、と舐められるたびに少しだけ滲みるけれど、不思議と痛みは感じない。僕がこくこくと何度も頷くのを見た颯介が「よかった……」と頬を綻ばせた。
「もうちょっとだけ解しましょうか」
「ぅ、ぁ……」
颯介の舌がぐにゅぐにゅと中へ入ってきた。指とは違う、柔らかく刺激される感覚に足が大きく跳ねる。そのまま左手で陰茎を握り込まれて、先端を親指でぐりぐりと強めに押された。
「我慢しないで。一回イッたほうが楽ですから」
そんなこと言われても、この格好で出したら……。僕の思ってることがバレたのか、颯介が少し愉しそうに「それとも」と左手を緩く上下に動かしだした。
「自分にかかっちゃうの、嫌です?」
「……!」
当たり前だろうがの意を込めて睨んだつもりなのに、涙目で息を荒く吐き出すこの状態ではなんの説得力もない。颯介の舌と左手に、優しく、甘く、時に強く刺激されて、僕は呆気なく自分の顔に向けて熱を吐き出した。
イッたばかりで力が入らず、息もままならない僕を見て、颯介が「エロ……」と小さく呟いて、僕の顔にかかった精液を人差し指ですくった。それをなんの躊躇いもなく舐め取るものだから、僕はまた恥ずかしくなって、声にならない声で、出来る限りの反抗を試みる。
「あー、やばい……、ラット入りそ……」
「?」
聞き慣れない単語に首を傾げた。
颯介は「すみません」と一度だけ謝って、僕の両足をゆっくりと降ろしてから、自分の右手の親指の付け根を思いきり噛んだ。驚く僕を余所に、颯介はそれを二、三度繰り返してから、深く息を吐き出す。
「ラットっていうのは、αのヒートみたいなもので……。普通はΩのヒートにあてられて入るんですけど」
僕はβだ。つまり、颯介がそのラットになることなんてないはず。
「今ラットに入れば、俺、紅羽さんに優しくする余裕なくなるんで……」
颯介はそう言って、皮が剥けて血が滲んだ親指を舐めた。そうさせたのが僕だということに、ほんの少しの優越感を感じる。
なんて僕は最低なんだろう。
「……っ」
ごめんなさい。どこかにいる颯介の運命の人。僕はもう、颯介を離してあげられない。会わせてなんて、あげられない。
「ぅ……」
掠れた息で、颯介の名前を呼んで、枕を掴んでいた両手を必死で伸ばす。許しをこうように、縋るように、どこにも行かないように。
颯介も同じように両手を伸ばして、互いの指を絡め合う。少し大きな颯介の手は、僕の丸っこい手を、すっぽりと包みこんでしまう。
「……どこにも行きません。俺には、紅羽さんしか見えてませんから」
こくりとひとつ、大きく頷く。僕もそうだ、颯介しか見えてない。
「ちょっと、失礼しますね」
両手を離した颯介が、一旦立ち上がり、僕のロフトベッドに置いてあるクッションを手にしてきた。それは指で慣らす時に、腰の下に入れていたものだ。それを手際よくいつもみたいに敷いてから、颯介は自分のシャツを脱ぎ捨てた。
程よく引き締まった腕も、腹も、全部見慣れたはずなのに、いつもより魅力的に見えるのだから、雰囲気というのは恐ろしい。
「緊張、します?」
流石にガン見しすぎたらしい。
苦笑いをする颯介を見て、僕は恥ずかしくなってまた顔を反らした。
「紅羽さん」
盗み見をするよう、片目だけ開けてちらりと見た。
左手の手のひらを僕に見せて、颯介はもう一度「紅羽さん」と穏やかに笑う。吸い寄せられる右手を伸ばして絡めれば、颯介が空いている右手でカチャカチャとスラックスを下げる。
そうして押し当てられる熱に意識が飛ばないよう、僕は『颯介』とうわ言のように名前を繰り返した。
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