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一ノ瀬紅羽の場合
21話
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教育番組が流れていたテレビは、いつの間にか夜のニュースが映り、この週末の天気やらイベントやらを放送している。それによれば、週末は晴れるが、来週は雨の可能性が高いらしい。野外スイーツフェスは晴れてよかったですねと女性キャスターが話していた。
「ぁ……」
口からは掠れた息が漏れた。
胡座をかいた颯介の足の間に座り、後ろから抱きしめられ、うなじを甘噛みされる。皮がめくれた部分がやけに滲みて、そこを颯介の舌が這うたびに痛みで身体が跳ねた。
「痛いですか?」
「……」
ふるふると首を横に振る。本当は颯介だって噛みたいはずなのに、僕がやせ我慢してるのをわかってるからこそ、きつく噛むことをしてこない。
代わりにうなじではなく、首筋と肩に軽く歯を立てられた。噛まれた部分がじんじんと熱を持って、僕の体温を内側からじりじりと上げていく。それは下半身に顕著に出てて、立てた膝の間にそそり勃つ熱は、シャツを押し上げて染みを作っていた。
「紅羽さん、可愛い……」
同じように熱を持った声が耳にかかった。
「っ」
まだ何も触られていないのに、それだけで僕は身体を小さく震わせ軽く達していた。トロトロと先端から溢れる欲はシャツだけでなく、布団に敷いたままにしていた颯介の服も汚していく。
「まだ何もしていないのに……。紅羽さん、随分とエッチになっちゃいましたね」
「……!」
颯介のせいだ! と言いたいのに、何も出なくなってしまった喉からは、喘ぎにも近い息しか出ない。
「ね、紅羽さん。流石にテレビ、消しません?」
今までにないくらい、ぶんぶんと首を振った。いくら出ないとはいえ、こんな荒い息づかいを聞かれるのは恥ずかしい。まだニュースが流れていたほうがマシだ。
「なら仕方ないです。テレビに負けないくらい、たくさん声、聞かせてくださいね」
だから声が出ないって……、と思う僕を知ってか、颯介の左手がシャツをまくり上げ中を弄り始めた。既に主張している突起にはわざと触れずに、指先で周囲を円を描くように動かしている。逃げられないよう、腰に回された右手から伝わる体温が酷く熱い。
「……っ、ぅ」
荒い息がキャスターの声の合間合間に挟み込む。
なんでこんなに焦らすんだと反発して睨んでやろうと、少し首を後ろに回せば、待ってましたと言わんばかりに待ち構えていた颯介に口を塞がれた。
「っ、……!」
互いの舌が絡まって、熱が混ざる。
「息、随分と上手く出来るようになりましたね」
一瞬離れた颯介が意地悪く笑った。颯介がそうさせたんだ。飽きるくらいにキスをして、熱も吐息も身体も全部溶け合ってしまうような。優しくて、たまに激しい、そんなものをたくさん、たくさん。
また塞がれ、唾液も息も上手く呑みきれなくなってしまう。流石に息苦しくなって、僕から少しだけ口を離した。けれどすぐに、僕を逃がすまいと頭の後ろに右手を回されて、今度こそ酸欠になりかけるぐらいの激しいキスをされる。
「ぅ……、ふっ」
頭がぼーっとし始め、もう颯介にされるがままに任せていると、颯介はシャツに入れていた左手を抜いて「脱がせていいです……?」と今さらなことを聞いてきた。僕は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、せめてもの照れ隠しで視線を反らしながら小さく頷く。
脱がされたシャツが布団の横へ追いやられる。何も、それこそ下着すら履いていなかった僕の姿を見て、颯介が小さく息を呑んだ。
「紅羽さん、これ……!」
「……」
颯介に背を向けたまま、僕は背中を丸くして、自分の身体を抱きしめる。
昨夜、シャワーを浴びながら鏡を見た時、そこでやっと気づいたのだ。背中に残る赤い痕と、まるで自分のものだと主張するように付けられた噛み跡に。流石に全部は確認出来なかったけど、自分では見えないところにも、まだついているのだろう。
「紅羽さん、大丈夫です。だから怖がらないで」
「っ」
颯介が僕の身体を支えて、ゆっくりと布団へと沈めていく。うつ伏せにされ、こんなみっともない背中を颯介に晒しているのが情けなくて、申し訳なくて、僕の目からは知らずと涙が零れてしまう。
「好きです。紅羽さん、好き」
シワになるくらいに、散らかされた颯介の服を左手で掴む。その手に颯介もまた左手を重ねてきて、指の合間を握り込んでくれる。
つけられた痕を消すように、ひとつずつ、丁寧に、颯介の唇が背中を滑っていく。身体が熱くて疼いて、僕はたまらず『颯介』と声にならない吐息で名前を口にした。
「ん。いますよ、ここに」
「!?」
「そんなに驚かなくても」
颯介が笑った際に吐き出した吐息がくすぐったい。身動ぎをして逃れようとすればするほど、颯介は面白がって、息を吐きながら背中に舌を這わせてくる。
「紅羽さんが、俺を呼ぶ時の癖も、息づかいも、口の動きだって、全部、もう全部知ってます。だから呼んでください。俺の名前」
なんだそれ。どんだけ僕のことを好きなんだよ、こいつ。そんな僕の考えも手に取るようにわかるのか、颯介は楽しそうに笑いながら、僕に残る全てをひとつひとつ消していく。
そうして颯介が満足する頃には、すっかり日も落ちきって、テレビから洩れるチカチカした明かりだけが部屋を照らし出していた。
今なら見られてもバレないだろうか。颯介が見れば絶対に心配されるあの痕を、上手く誤魔化しきれるだろうか。
「紅羽さん」
「……?」
「何も隠さないで。全部、見せてください」
あぁ、やっぱり知ってるんだ。震える僕を颯介が労るように抱え、そのまま仰向けにされる。
そうして曝け出した僕の腹には、あいつに殴られた時についた赤黒い鬱血痕が、はっきりと残っていた。
「ぁ……」
口からは掠れた息が漏れた。
胡座をかいた颯介の足の間に座り、後ろから抱きしめられ、うなじを甘噛みされる。皮がめくれた部分がやけに滲みて、そこを颯介の舌が這うたびに痛みで身体が跳ねた。
「痛いですか?」
「……」
ふるふると首を横に振る。本当は颯介だって噛みたいはずなのに、僕がやせ我慢してるのをわかってるからこそ、きつく噛むことをしてこない。
代わりにうなじではなく、首筋と肩に軽く歯を立てられた。噛まれた部分がじんじんと熱を持って、僕の体温を内側からじりじりと上げていく。それは下半身に顕著に出てて、立てた膝の間にそそり勃つ熱は、シャツを押し上げて染みを作っていた。
「紅羽さん、可愛い……」
同じように熱を持った声が耳にかかった。
「っ」
まだ何も触られていないのに、それだけで僕は身体を小さく震わせ軽く達していた。トロトロと先端から溢れる欲はシャツだけでなく、布団に敷いたままにしていた颯介の服も汚していく。
「まだ何もしていないのに……。紅羽さん、随分とエッチになっちゃいましたね」
「……!」
颯介のせいだ! と言いたいのに、何も出なくなってしまった喉からは、喘ぎにも近い息しか出ない。
「ね、紅羽さん。流石にテレビ、消しません?」
今までにないくらい、ぶんぶんと首を振った。いくら出ないとはいえ、こんな荒い息づかいを聞かれるのは恥ずかしい。まだニュースが流れていたほうがマシだ。
「なら仕方ないです。テレビに負けないくらい、たくさん声、聞かせてくださいね」
だから声が出ないって……、と思う僕を知ってか、颯介の左手がシャツをまくり上げ中を弄り始めた。既に主張している突起にはわざと触れずに、指先で周囲を円を描くように動かしている。逃げられないよう、腰に回された右手から伝わる体温が酷く熱い。
「……っ、ぅ」
荒い息がキャスターの声の合間合間に挟み込む。
なんでこんなに焦らすんだと反発して睨んでやろうと、少し首を後ろに回せば、待ってましたと言わんばかりに待ち構えていた颯介に口を塞がれた。
「っ、……!」
互いの舌が絡まって、熱が混ざる。
「息、随分と上手く出来るようになりましたね」
一瞬離れた颯介が意地悪く笑った。颯介がそうさせたんだ。飽きるくらいにキスをして、熱も吐息も身体も全部溶け合ってしまうような。優しくて、たまに激しい、そんなものをたくさん、たくさん。
また塞がれ、唾液も息も上手く呑みきれなくなってしまう。流石に息苦しくなって、僕から少しだけ口を離した。けれどすぐに、僕を逃がすまいと頭の後ろに右手を回されて、今度こそ酸欠になりかけるぐらいの激しいキスをされる。
「ぅ……、ふっ」
頭がぼーっとし始め、もう颯介にされるがままに任せていると、颯介はシャツに入れていた左手を抜いて「脱がせていいです……?」と今さらなことを聞いてきた。僕は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、せめてもの照れ隠しで視線を反らしながら小さく頷く。
脱がされたシャツが布団の横へ追いやられる。何も、それこそ下着すら履いていなかった僕の姿を見て、颯介が小さく息を呑んだ。
「紅羽さん、これ……!」
「……」
颯介に背を向けたまま、僕は背中を丸くして、自分の身体を抱きしめる。
昨夜、シャワーを浴びながら鏡を見た時、そこでやっと気づいたのだ。背中に残る赤い痕と、まるで自分のものだと主張するように付けられた噛み跡に。流石に全部は確認出来なかったけど、自分では見えないところにも、まだついているのだろう。
「紅羽さん、大丈夫です。だから怖がらないで」
「っ」
颯介が僕の身体を支えて、ゆっくりと布団へと沈めていく。うつ伏せにされ、こんなみっともない背中を颯介に晒しているのが情けなくて、申し訳なくて、僕の目からは知らずと涙が零れてしまう。
「好きです。紅羽さん、好き」
シワになるくらいに、散らかされた颯介の服を左手で掴む。その手に颯介もまた左手を重ねてきて、指の合間を握り込んでくれる。
つけられた痕を消すように、ひとつずつ、丁寧に、颯介の唇が背中を滑っていく。身体が熱くて疼いて、僕はたまらず『颯介』と声にならない吐息で名前を口にした。
「ん。いますよ、ここに」
「!?」
「そんなに驚かなくても」
颯介が笑った際に吐き出した吐息がくすぐったい。身動ぎをして逃れようとすればするほど、颯介は面白がって、息を吐きながら背中に舌を這わせてくる。
「紅羽さんが、俺を呼ぶ時の癖も、息づかいも、口の動きだって、全部、もう全部知ってます。だから呼んでください。俺の名前」
なんだそれ。どんだけ僕のことを好きなんだよ、こいつ。そんな僕の考えも手に取るようにわかるのか、颯介は楽しそうに笑いながら、僕に残る全てをひとつひとつ消していく。
そうして颯介が満足する頃には、すっかり日も落ちきって、テレビから洩れるチカチカした明かりだけが部屋を照らし出していた。
今なら見られてもバレないだろうか。颯介が見れば絶対に心配されるあの痕を、上手く誤魔化しきれるだろうか。
「紅羽さん」
「……?」
「何も隠さないで。全部、見せてください」
あぁ、やっぱり知ってるんだ。震える僕を颯介が労るように抱え、そのまま仰向けにされる。
そうして曝け出した僕の腹には、あいつに殴られた時についた赤黒い鬱血痕が、はっきりと残っていた。
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