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12話

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 十三がコンビニ袋からボトルと箱を取り出して、それをベッドへと置いていく。ボトルには透明の液体が、箱には『激うすっ!』と書かれてあって、そういったことをしてこなかった僕でも、箱が何かぐらいはすぐにわかった。

「ううう嘘つき! 挿入いれないって……!」
「ゴムとローションあるから挿入いれるって考えが安易なんですよ。ほら、下脱いでください」

 なんで脱ぐのか。一体何をされるというのか。不安から一向に動けない僕に十三が「紅羽さん」と微笑んだ。

「流石に少しずつでも慣らしていかないと、苦しくなるのは紅羽さんですよ?」
「そ、かもしれない、けどっ。で、でもあの日は結構がっついてきたじゃないか!」
「もう会えないかもしれないし、時間もなかったんで、あれはあれということで」

 普通のことみたいに言ってのけて、十三はパチンとボトルの蓋を開ける。

「で、紅羽さん。自分で脱ぐのと俺に脱がされるの、どっちを選びます?」
「ぬ、脱ぐ! 脱ぐ脱ぐ! 自分で!」
「ではどうぞ」

 どうぞ、と言われて素直に脱げるわけがない。僕だって羞恥心くらいある。けれどなんでだろう。ベッドの下のほうで、胡座をかいたまま待つ十三の目には逆らえない。
 僕は身体を少し横向きにして、両足を“く”の字に曲げると、下着に手をかけゆっくりとおろしていった。尻に少しひやりとした空気が触れて、身体がふるりと震える。

「……ん。これでいいか?」

 爪先から下着を取り払う。十三に見られていると思うだけでたまらなく恥ずかしく、僕は前を隠すようにシャツの裾を両手で伸ばした。
 十三が笑いながら「伸びますよ」とシャツを握る左手を軽く取って、指を絡めるように手を握ってくれる。

「よくできました。じゃあ、まずは一本からいってみましょうか」
「ん……」

 微かに首を縦に動かし頷けば、絡めていた手を離されてしまった。それに名残惜しさを感じながら、十三が何をするのかをぼんやりと見つめる。
 慣れた手つきで、僕の腰を少し浮かせ下にタオルを敷くと、右手の中指にゴムをつけ、そこに透明の液体をかけていく。とろりとしたそれが急に不安になって「そう、すけ」と手を伸ばした。

「それ、何……」
「急に呼んだかと思えば……。ローションです。あれな話ですが、βは濡れないので、これで滑りをよくしないといけなくて」

 液体を指先に乗せた颯介が「力、抜いてて」と空いた左手で、また僕の手に指を絡ませてくれた。
 ぐちゅりと音が鳴って、何かを入れたことなんてない場所に、ぐりぐりと颯介の指が少しずつ押し入ってくる。

「ぅ……んっ……」

 最初に感じた異物感はなくなりはしたものの、恐怖心のほうが強くて、僕は震える手で颯介の手を力いっぱいに握った。

「紅羽さん、気持ち悪かったら言ってください」
「ん……、だいじょ、ぶっ」

 最初みたいな圧迫感はないけれど、それでも人に身体の中を触られているのは変な感じだ。枕に顔を埋めるようにして荒い息を繰り返しながら、掴んだ颯介の手に夢中で力を込めた。
 と、中で何かを探す動きを繰り返していた颯介の指が、ある一点を掠めて、口から「ひうっ」と情けない声が漏れた。

「見つけました。久しぶりだから手間取ってしまって」
「え、ぁ……?」

 こすこすとそこを執拗に擦られ、知らずのうちに腰がガクガクと震えだす。
 身体の中から何かがきそうで、でもそれに身を任せるのがとても怖くて、僕はうわ言のように颯介の名前を繰り返し呼んだ。

「そ、すけ、そうすけぇ、や……、なんか、へん……っ」
「大丈夫、俺の指に集中してください」
「こわいっ、へん、やぁ……っ」

 おしっこが出そうな感覚だ。でもそんなん出したら幻滅されるに決まってる。生ゴミ臭をさせて、しかもお漏らし奴なんて最悪だ。中から出そうになっているものを、僕は体内に押し留めようと、必死に足に力を込めた。

「紅羽さん」
「や、やだ、おしっこ、でちゃ……。そうすけ、きらい、に……」

 出したい。出して楽になりたい。でも嫌われたくない。
 そんな僕の葛藤を理解したのか、颯介がもう一度「紅羽さん」と呼び、絡めた指先で、僕の手の甲を爪先で軽く撫でた。

「嫌いになんてなりません。だから見せてください。気持ちよくてたまんないって顔してる紅羽さんを」

 中をコリコリと擦っていた指が、今度はトントンと軽く叩くような動きに変わる。

「ふぁっ、ん、ああっ」

 今までとは違ったリズムで撫でられ、僕は何も考えられなくなっていく。頭の中が真っ白になり、僕は颯介に言われるまま、込み上げてきた何かを思いきり吐き出した。

「ひぅ……、あ、はあっ」

 出してしまった。
 尻の穴に指を入れられて、あまつさえ漏らすなんて大失態だ。ぐす、と鼻をすすっていると、抜いた指からゴムを取り、タオルで軽く手を拭いた颯介が僕に覆いかぶさってきた。

「ちゃんと中イキできましたね」
「中イ……?」

 僕の背中側に寝転んだ颯介が、後ろから僕を優しく抱きしめる。
 確かに射精した時みたいな感覚もあるし、少しだけ気怠い。けれど満ちてくるのは幸福感で、僕はもっと颯介に触れていたくて、背中側に身体を寄せる。

「……颯介、それ」
「あー、気にしないでください。俺は大丈夫なんで」

 身体を寄せた拍子に、颯介の固いモノが当たっていることに気づく。そうだ、こいつは我慢してるはず。僕が慣れてなくて、初めて(ではないけど)だから、精一杯優しくしてくれてるんだ。
 それに気づいた途端、すごくすごく颯介が愛しくなって、僕は腰に回されていた颯介の手に、自分の手をそっと重ねた。

「い、挿入るのは、怖くてまだ無理、だけど、その……」

 颯介の家に泊まった時のことを思い出す。

「ま、前みたいに、挟むのはどうだ……?」

 精一杯の案だ。僕だって颯介に何かしたいし、気持ちよくなってほしいし、出来るなら我慢させたくない。でも怖いのは事実だし。

「……じゃあ、ちょっとお願いできますか?」
「ん……っ」

 また太ももにあの感覚がくるんだろうと、僕は目を閉じてそれに備える。
 でもそれがくることはなくて、むしろ颯介はまた身体を起こして胡座をかくと、僕のことも同じように起き上がらせた。

「な、に?」
「怖がらないで、紅羽さん」

 颯介は僕を自身に跨がらせると、僕の頬を両手で包みこんで、そのまま唇を塞いだ。
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