12 / 56
12話
しおりを挟む
十三がコンビニ袋からボトルと箱を取り出して、それをベッドへと置いていく。ボトルには透明の液体が、箱には『激うすっ!』と書かれてあって、そういったことをしてこなかった僕でも、箱が何かぐらいはすぐにわかった。
「ううう嘘つき! 挿入ないって……!」
「ゴムとローションあるから挿入るって考えが安易なんですよ。ほら、下脱いでください」
なんで脱ぐのか。一体何をされるというのか。不安から一向に動けない僕に十三が「紅羽さん」と微笑んだ。
「流石に少しずつでも慣らしていかないと、苦しくなるのは紅羽さんですよ?」
「そ、かもしれない、けどっ。で、でもあの日は結構がっついてきたじゃないか!」
「もう会えないかもしれないし、時間もなかったんで、あれはあれということで」
普通のことみたいに言ってのけて、十三はパチンとボトルの蓋を開ける。
「で、紅羽さん。自分で脱ぐのと俺に脱がされるの、どっちを選びます?」
「ぬ、脱ぐ! 脱ぐ脱ぐ! 自分で!」
「ではどうぞ」
どうぞ、と言われて素直に脱げるわけがない。僕だって羞恥心くらいある。けれどなんでだろう。ベッドの下のほうで、胡座をかいたまま待つ十三の目には逆らえない。
僕は身体を少し横向きにして、両足を“く”の字に曲げると、下着に手をかけゆっくりとおろしていった。尻に少しひやりとした空気が触れて、身体がふるりと震える。
「……ん。これでいいか?」
爪先から下着を取り払う。十三に見られていると思うだけでたまらなく恥ずかしく、僕は前を隠すようにシャツの裾を両手で伸ばした。
十三が笑いながら「伸びますよ」とシャツを握る左手を軽く取って、指を絡めるように手を握ってくれる。
「よくできました。じゃあ、まずは一本からいってみましょうか」
「ん……」
微かに首を縦に動かし頷けば、絡めていた手を離されてしまった。それに名残惜しさを感じながら、十三が何をするのかをぼんやりと見つめる。
慣れた手つきで、僕の腰を少し浮かせ下にタオルを敷くと、右手の中指にゴムをつけ、そこに透明の液体をかけていく。とろりとしたそれが急に不安になって「そう、すけ」と手を伸ばした。
「それ、何……」
「急に呼んだかと思えば……。ローションです。あれな話ですが、βは濡れないので、これで滑りをよくしないといけなくて」
液体を指先に乗せた颯介が「力、抜いてて」と空いた左手で、また僕の手に指を絡ませてくれた。
ぐちゅりと音が鳴って、何かを入れたことなんてない場所に、ぐりぐりと颯介の指が少しずつ押し入ってくる。
「ぅ……んっ……」
最初に感じた異物感はなくなりはしたものの、恐怖心のほうが強くて、僕は震える手で颯介の手を力いっぱいに握った。
「紅羽さん、気持ち悪かったら言ってください」
「ん……、だいじょ、ぶっ」
最初みたいな圧迫感はないけれど、それでも人に身体の中を触られているのは変な感じだ。枕に顔を埋めるようにして荒い息を繰り返しながら、掴んだ颯介の手に夢中で力を込めた。
と、中で何かを探す動きを繰り返していた颯介の指が、ある一点を掠めて、口から「ひうっ」と情けない声が漏れた。
「見つけました。久しぶりだから手間取ってしまって」
「え、ぁ……?」
こすこすとそこを執拗に擦られ、知らずのうちに腰がガクガクと震えだす。
身体の中から何かがきそうで、でもそれに身を任せるのがとても怖くて、僕はうわ言のように颯介の名前を繰り返し呼んだ。
「そ、すけ、そうすけぇ、や……、なんか、へん……っ」
「大丈夫、俺の指に集中してください」
「こわいっ、へん、やぁ……っ」
おしっこが出そうな感覚だ。でもそんなん出したら幻滅されるに決まってる。生ゴミ臭をさせて、しかもお漏らし奴なんて最悪だ。中から出そうになっているものを、僕は体内に押し留めようと、必死に足に力を込めた。
「紅羽さん」
「や、やだ、おしっこ、でちゃ……。そうすけ、きらい、に……」
出したい。出して楽になりたい。でも嫌われたくない。
そんな僕の葛藤を理解したのか、颯介がもう一度「紅羽さん」と呼び、絡めた指先で、僕の手の甲を爪先で軽く撫でた。
「嫌いになんてなりません。だから見せてください。気持ちよくてたまんないって顔してる紅羽さんを」
中をコリコリと擦っていた指が、今度はトントンと軽く叩くような動きに変わる。
「ふぁっ、ん、ああっ」
今までとは違ったリズムで撫でられ、僕は何も考えられなくなっていく。頭の中が真っ白になり、僕は颯介に言われるまま、込み上げてきた何かを思いきり吐き出した。
「ひぅ……、あ、はあっ」
出してしまった。
尻の穴に指を入れられて、あまつさえ漏らすなんて大失態だ。ぐす、と鼻をすすっていると、抜いた指からゴムを取り、タオルで軽く手を拭いた颯介が僕に覆いかぶさってきた。
「ちゃんと中イキできましたね」
「中イ……?」
僕の背中側に寝転んだ颯介が、後ろから僕を優しく抱きしめる。
確かに射精した時みたいな感覚もあるし、少しだけ気怠い。けれど満ちてくるのは幸福感で、僕はもっと颯介に触れていたくて、背中側に身体を寄せる。
「……颯介、それ」
「あー、気にしないでください。俺は大丈夫なんで」
身体を寄せた拍子に、颯介の固いモノが当たっていることに気づく。そうだ、こいつは我慢してるはず。僕が慣れてなくて、初めて(ではないけど)だから、精一杯優しくしてくれてるんだ。
それに気づいた途端、すごくすごく颯介が愛しくなって、僕は腰に回されていた颯介の手に、自分の手をそっと重ねた。
「い、挿入るのは、怖くてまだ無理、だけど、その……」
颯介の家に泊まった時のことを思い出す。
「ま、前みたいに、挟むのはどうだ……?」
精一杯の案だ。僕だって颯介に何かしたいし、気持ちよくなってほしいし、出来るなら我慢させたくない。でも怖いのは事実だし。
「……じゃあ、ちょっとお願いできますか?」
「ん……っ」
また太ももにあの感覚がくるんだろうと、僕は目を閉じてそれに備える。
でもそれがくることはなくて、むしろ颯介はまた身体を起こして胡座をかくと、僕のことも同じように起き上がらせた。
「な、に?」
「怖がらないで、紅羽さん」
颯介は僕を自身に跨がらせると、僕の頬を両手で包みこんで、そのまま唇を塞いだ。
「ううう嘘つき! 挿入ないって……!」
「ゴムとローションあるから挿入るって考えが安易なんですよ。ほら、下脱いでください」
なんで脱ぐのか。一体何をされるというのか。不安から一向に動けない僕に十三が「紅羽さん」と微笑んだ。
「流石に少しずつでも慣らしていかないと、苦しくなるのは紅羽さんですよ?」
「そ、かもしれない、けどっ。で、でもあの日は結構がっついてきたじゃないか!」
「もう会えないかもしれないし、時間もなかったんで、あれはあれということで」
普通のことみたいに言ってのけて、十三はパチンとボトルの蓋を開ける。
「で、紅羽さん。自分で脱ぐのと俺に脱がされるの、どっちを選びます?」
「ぬ、脱ぐ! 脱ぐ脱ぐ! 自分で!」
「ではどうぞ」
どうぞ、と言われて素直に脱げるわけがない。僕だって羞恥心くらいある。けれどなんでだろう。ベッドの下のほうで、胡座をかいたまま待つ十三の目には逆らえない。
僕は身体を少し横向きにして、両足を“く”の字に曲げると、下着に手をかけゆっくりとおろしていった。尻に少しひやりとした空気が触れて、身体がふるりと震える。
「……ん。これでいいか?」
爪先から下着を取り払う。十三に見られていると思うだけでたまらなく恥ずかしく、僕は前を隠すようにシャツの裾を両手で伸ばした。
十三が笑いながら「伸びますよ」とシャツを握る左手を軽く取って、指を絡めるように手を握ってくれる。
「よくできました。じゃあ、まずは一本からいってみましょうか」
「ん……」
微かに首を縦に動かし頷けば、絡めていた手を離されてしまった。それに名残惜しさを感じながら、十三が何をするのかをぼんやりと見つめる。
慣れた手つきで、僕の腰を少し浮かせ下にタオルを敷くと、右手の中指にゴムをつけ、そこに透明の液体をかけていく。とろりとしたそれが急に不安になって「そう、すけ」と手を伸ばした。
「それ、何……」
「急に呼んだかと思えば……。ローションです。あれな話ですが、βは濡れないので、これで滑りをよくしないといけなくて」
液体を指先に乗せた颯介が「力、抜いてて」と空いた左手で、また僕の手に指を絡ませてくれた。
ぐちゅりと音が鳴って、何かを入れたことなんてない場所に、ぐりぐりと颯介の指が少しずつ押し入ってくる。
「ぅ……んっ……」
最初に感じた異物感はなくなりはしたものの、恐怖心のほうが強くて、僕は震える手で颯介の手を力いっぱいに握った。
「紅羽さん、気持ち悪かったら言ってください」
「ん……、だいじょ、ぶっ」
最初みたいな圧迫感はないけれど、それでも人に身体の中を触られているのは変な感じだ。枕に顔を埋めるようにして荒い息を繰り返しながら、掴んだ颯介の手に夢中で力を込めた。
と、中で何かを探す動きを繰り返していた颯介の指が、ある一点を掠めて、口から「ひうっ」と情けない声が漏れた。
「見つけました。久しぶりだから手間取ってしまって」
「え、ぁ……?」
こすこすとそこを執拗に擦られ、知らずのうちに腰がガクガクと震えだす。
身体の中から何かがきそうで、でもそれに身を任せるのがとても怖くて、僕はうわ言のように颯介の名前を繰り返し呼んだ。
「そ、すけ、そうすけぇ、や……、なんか、へん……っ」
「大丈夫、俺の指に集中してください」
「こわいっ、へん、やぁ……っ」
おしっこが出そうな感覚だ。でもそんなん出したら幻滅されるに決まってる。生ゴミ臭をさせて、しかもお漏らし奴なんて最悪だ。中から出そうになっているものを、僕は体内に押し留めようと、必死に足に力を込めた。
「紅羽さん」
「や、やだ、おしっこ、でちゃ……。そうすけ、きらい、に……」
出したい。出して楽になりたい。でも嫌われたくない。
そんな僕の葛藤を理解したのか、颯介がもう一度「紅羽さん」と呼び、絡めた指先で、僕の手の甲を爪先で軽く撫でた。
「嫌いになんてなりません。だから見せてください。気持ちよくてたまんないって顔してる紅羽さんを」
中をコリコリと擦っていた指が、今度はトントンと軽く叩くような動きに変わる。
「ふぁっ、ん、ああっ」
今までとは違ったリズムで撫でられ、僕は何も考えられなくなっていく。頭の中が真っ白になり、僕は颯介に言われるまま、込み上げてきた何かを思いきり吐き出した。
「ひぅ……、あ、はあっ」
出してしまった。
尻の穴に指を入れられて、あまつさえ漏らすなんて大失態だ。ぐす、と鼻をすすっていると、抜いた指からゴムを取り、タオルで軽く手を拭いた颯介が僕に覆いかぶさってきた。
「ちゃんと中イキできましたね」
「中イ……?」
僕の背中側に寝転んだ颯介が、後ろから僕を優しく抱きしめる。
確かに射精した時みたいな感覚もあるし、少しだけ気怠い。けれど満ちてくるのは幸福感で、僕はもっと颯介に触れていたくて、背中側に身体を寄せる。
「……颯介、それ」
「あー、気にしないでください。俺は大丈夫なんで」
身体を寄せた拍子に、颯介の固いモノが当たっていることに気づく。そうだ、こいつは我慢してるはず。僕が慣れてなくて、初めて(ではないけど)だから、精一杯優しくしてくれてるんだ。
それに気づいた途端、すごくすごく颯介が愛しくなって、僕は腰に回されていた颯介の手に、自分の手をそっと重ねた。
「い、挿入るのは、怖くてまだ無理、だけど、その……」
颯介の家に泊まった時のことを思い出す。
「ま、前みたいに、挟むのはどうだ……?」
精一杯の案だ。僕だって颯介に何かしたいし、気持ちよくなってほしいし、出来るなら我慢させたくない。でも怖いのは事実だし。
「……じゃあ、ちょっとお願いできますか?」
「ん……っ」
また太ももにあの感覚がくるんだろうと、僕は目を閉じてそれに備える。
でもそれがくることはなくて、むしろ颯介はまた身体を起こして胡座をかくと、僕のことも同じように起き上がらせた。
「な、に?」
「怖がらないで、紅羽さん」
颯介は僕を自身に跨がらせると、僕の頬を両手で包みこんで、そのまま唇を塞いだ。
135
お気に入りに追加
535
あなたにおすすめの小説
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
【完結】キミの記憶が戻るまで
ゆあ
BL
付き合って2年、新店オープンの準備が終われば一緒に住もうって約束していた彼が、階段から転落したと連絡を受けた
慌てて戻って来て、病院に駆け付けたものの、彼から言われたのは「あの、どなた様ですか?」という他人行儀な言葉で…
しかも、彼の恋人は自分ではない知らない可愛い人だと言われてしまい…
※side-朝陽とside-琥太郎はどちらから読んで頂いても大丈夫です。
朝陽-1→琥太郎-1→朝陽-2
朝陽-1→2→3
など、お好きに読んでください。
おすすめは相互に読む方です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる